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近付かないで ②

「母さん。もういいだろ。用事は済んだんだし、早く戻りなよ」 「もー、直くんってばホント無愛想なんだから。そんなんじゃ、女の子にモテないわよー?」 「モテる必要なんてないから。 それより、これ以上椎名に近づかないで」 嫌悪感を露にした、冷たい露木君の声。 その声の冷たさに彼女の表情が一瞬強張り、そして直ぐに笑顔へと戻った。 「はいはい、わかりましたよーだ。もー、高校に入ってからすっかり可愛げが無くなったんだから。じゃ、直くん、椎名君、またね」 「……いいから。早く帰って」 露木君にシッシと手を振って追い払われ、花音さんは面白くなさそうな顔をして踵を返した。 「たく、今更母親面しないで欲しいよ」 露木君のお母さんの姿が見えなくなったのを確認し、露木君が苛立たし気に呟く。 そして、小さく溜め息を零すと、困ったように眉を下げて俺を見た。 「ごめん、椎名。嫌な思いさせちゃったね。あの人の言う事は気にしないで。ただの戯言だから」 その表情を見て、ふと思う。 もしかしたら、一緒に病院に来なくていいって言ったのは、俺をあの人と会わせたくなかったから?  真意はわからないけど、彼女が俺に何を言うかあらかた想像が付いていたのかもしれない。 「俺は平気だよ。露木君が俺の事をあんな風に人に話さないってわかってるし。大方、苗字を聞いて調べたんだろうけど、そう言う色眼鏡で見て来る人って結構いるから」 全く何も感じないかと言えば、嘘になるけど。 露木君はそんな人じゃないって信じてるから。 「ありがとう。椎名」 俺の言葉を聞いた露木君は、安堵したように息を吐いて少しだけ笑った。だけど、その表情はまだ少しぎこちない。

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