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近付かないで ③
「ほら、そろそろ戻ろう。荷物は俺が持つから、貸して」
「えっ、そんな……」
「いいから。露木君を構い倒せるこんなチャンス滅多にないだろ? だからそれを逃したくないんだ。利き手を怪我した時くらい、俺に甘えてよ」
そう言って俺は、露木君の荷物を片手で持って、空いたその手で露木君の手首を掴んだ。
そして、そのままぎゅっと指を絡めて手を繋ぎ、そのまま指と指を深く絡める。
「し、椎名……」
「なに? 嫌なの?」
「い、嫌じゃない……」
俺の問い掛けに、露木君がふるふると首を振る。その頬が少し赤く染まって、視線も泳ぎ始める。
「じゃ、行こう」
俺は満足気に頷くと、絡めた手をそのままにして歩き出した。
なんだか、いつもと立場が逆になったみたいで凄く新鮮で、凄く楽しい。
ふと、空を見上げれば、オレンジと藍色を混ぜたような綺麗なグラデーションの空に、一番星が輝き始めていた。
「椎名」
「ん? なに?」
「ありがとう。それと、ごめん……。それと……」
繋いでいた手をぎゅっと強く握り返して、露木君が俺をじっと見つめる。そして、小さく深呼吸をしてからゆっくりと口を開いた。
「……大好きだ」
そんな嬉しい言葉を紡ぎながら、露木君は微笑む。その表情があまりにも可愛くて綺麗で、俺は思わず見惚れてしまう。
「ハハッ、知ってる。だって、毎日言ってるじゃんソレ」
俺は照れ隠しに軽く笑って、露木君の手を引いて歩き出す。
きっと俺の顔は真っ赤になっていると思うけれど、夕日のお陰でバレる事はないだろう。
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