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おふろの中で ③
わかってるくせに。俺が、どうして欲しいかなんて。
「……っは、あ……」
言葉にするのは憚られて、でも、もっと強い刺激がどうしても欲しくて、俺は思わず自分の下肢に右手を伸ばそうとした。
でもそれは、露木君の左手に阻まれて、浴槽の淵に縫い止められる。
「っ! な……んで……っ」
「ナニしようとしてるのかな?」
「……っ、そ、それは……っん、ぁ……」
露木君はそう言って、俺の耳朶に軽く歯を立てた。そのまま耳に熱い舌が潜り込んで来て、くちゅりと濡れた音が響く。
「環が嫌がるから、僕だってキミに触れるのを我慢してるのに……。キスと、ちょっと触るだけって」
露木君は俺の耳朶を舌で嬲りながら、そんな事を耳元で低く囁く。その言葉と熱い吐息にぞくぞくして甘い痺れが腰に走った。
でも、本当に欲しいのはこんな刺激じゃない。もっと直接的な……っ!
「っ、い、意地悪……っ」
「うん。環の困った顔とか泣き顔が可愛いから、ついつい苛めたくなるんだ。ごめんね?」
露木君は困ったように眉を下げて言いながら俺の首筋を舐める。そしてそのまま項へと下りて行き、強く吸い上げた。その刺激が堪らなく気持ちよくて、でも直接触れて貰えないもどかしさで頭がおかしくなりそうだった。
「っ、も……やだ……っ」
思わず零れた涙で視界が歪む。
「何が嫌?」
露木君は俺の項から唇を離すと、優しくそう問いかけて来た。その声があまりにも甘くて、でも切なくて、俺は思わず振り返って露木君の首に抱き着いた。
「ちゃんと触って……っ」
「……環」
そんな俺の様子に驚いたのか、少し戸惑ったような声が聞こえたけど、もう止まれなかった。
「こんなんじゃ、嫌だ。キスも、いっぱいしたい……っ。な、直人に……、もっと触って欲しい……っ」
「環……」
「こんなんじゃ足りないよ……っ」
「っ、はぁ……。もう、こんな時に名前呼びなんて、ズルくない?」
露木君は苦笑しながら俺の身体を強く抱き締めて、噛み付くようにキスしてきた。その余裕のない切羽詰まった様子に胸がきゅうっと締め付けられる。
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