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露木君と一織
「えっと、確かこっちだったような……」
地図アプリを確認しながら、目的地までやって来ると雑踏の中にひときわ目立つ黒髪の長身が目に入る。
「あ、いたいた」
「環先輩!」
俺が声を掛けると、一織は嬉しそうに笑いながら手を振ってくれた。高校に入って随分大人っぽくなったと思ったけど、犬っぽいところはやっぱり変わってない。
「ごめん。こっちの方は久々で、ちょっと迷った」
「気にしないで。俺もこの辺りは久しぶりだし、環先輩とこうして出掛けられるのも嬉しいしさ」
そう言って一織はニコニコと笑う。その笑顔につられて思わず笑みが零れる。相変わらず可愛い後輩だ。
爽やかな笑顔とルックス。昔からモテてたけどきっと今も引く手数多なんじゃないだろうか。
「ごめんな。急に呼び出して。頼れるのが一織しか思いつかなくって」
「いいってば。頼って貰えて俺は嬉しいよ? 取り敢えず、こんな所じゃなんだし何処かでご飯食べながら話でも……」
一織の言葉を遮るように、くぅ~っと情けない音で俺の腹の虫が鳴る。一瞬の沈黙の後、お互いに顔を見合わせて笑った。
「ははっ! 環先輩ちゃんと飯食ってんの? どうせ、お腹すいたらコンビニで済ませるような生活送ってるんだろ」
「ち、違うよっ! 最近はちゃんと食べてるってば」
「本当? 環先輩、ほっといたらすぐに飯抜こうとするからなぁ」
「う……っ」
耳が痛い。配信やゲームに夢中になって気付けば食べるのを忘れてた。なんて事もしばしばあったから、反論できない。
「生活能力低い先輩が一人暮らしとかホント大丈夫? 俺、飯くらい作りに行くよ?」
「いや、それは……」
「生憎その必要はないよ。彼の食事管理は僕の仕事だから」
一織の言葉をぶった切るように、背後から聞こえてきた声と共に肩に手が回される。そしてそのまま、ぐいーっと後ろに引っ張られた。
「えっ、ちょ……っ」
バランスを崩した俺をしっかりと抱きとめてふわりとしたバラの香りが鼻腔を擽った。
「な、なんでコイツが此処に!?」
ニコニコと勝ち誇ったような笑みを浮かべる露木君とは対照的に、目に見えてテンションが下がる一織。
「あー、えぇっと……なんて言うのかな。今日相談したい内容に関係あるって言うか……」
どういうことだとばかりの表情で俺を見る一織に、俺は苦笑いを浮かべながら言葉を探した。
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