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露木君と一織 ③
「ごめん、露木君。一織はちょっと人見知りな所があってさ、悪い奴じゃないんだ」
「わかってるよ。環の大事な幼馴染なんだろう? なら、僕にとっても大事な人だよ」
幼馴染と言う単語を敢えて強調するような言い方に、一織の眉がピクリと動いた。
「……なんかムカつく。俺だって呼び捨てにした事ないのに……。何気に目の前でイチャついてるし」
ムスッとしながらズズッとコーヒーを啜る一織。なんか、不機嫌オーラが凄い。
別にイチャ付いたつもりはなかった。何処をどう取ったらそう見えてしまうのだろうか?
「えっと、別にイチャついてないけど……?」
「……環先輩ってほんと鈍感」
一織は盛大に溜息を溢した後、残っていたコーヒーを一気に呷った。そして空になったカップを持って立ち上がる。
「じゃあ俺、もう行くから。さっき言ってた件は、話しつけてからまた連絡するよ」
「え!? もう!?」
俺が声を掛けた時には一織は背を向けて歩き始めていた。
「この間言ってたスーツの件、忘れないでよ?」
振り返って、一織は念を押すように俺に言うと、ヒラヒラと手を振って雑踏に消えて行く。
「相変わらず忙しないなぁ一織は……」
「忙しいって言うより、これ以上一緒には居たくないって感じに見えたけどね」
「そう? なんでだろ」
「……本当にわからない?」
露木君の言葉に俺は首を傾げた。一織は昔からちょっと怒りっぽい所があるから、多分それだろうなって思うけど。
「うーん……。あ! もしかして俺が一織に構ってあげなかったからかな? 最近はあんまり相手してあげられてなかったし……」
「環のそう言うところ本当に可愛いよね。でも違う」
「じゃあ何だろ? って言うか、露木君にはわかるの?」
「そりゃまぁ、あれだけ敵意剥き出しにされたら、ねぇ? ま、譲るつもりは無いけど」
目を細めて、露木君は意味深に笑う。譲るとか譲らないとか、なんの事だろう?
「譲るって何を?」
「さぁね。環は気にしなくていいよ。ほら、折角だし、ケーキ食べよっか」
すいっとスプーンで掬ってから、クリームがついたそれを差し出される。
「っ、じ、自分で出来るよっ」
「いいから。ほら、あーん」
「あ、あーん……?」
有無を言わせない笑顔で言われて頬が火照るのを感じながら、半ばやけくそ気味に差し出されたケーキを口に入れる。甘い生クリームと苺が口の中で溶けて行く。美味しいけど、美味しいけど! なんか物凄く恥ずかしい!
周りの人や木々のざわめきが全部自分たちの噂話をしているように聞こえて、なんとも居たたまれない。
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