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露木君と一織 ⑥
「露木君」
いつもと違う様子に戸惑いながら手を引かれるまま歩いて行く。カフェを出て少し歩いた所で立ち止まり、露木君は俺の顔を覗き込んだ。
その笑顔はいつもの甘い笑顔でホッと胸を撫で下ろすけど、その目は笑っていない。その瞳の奥に仄暗い炎が灯っているように見えて、ゾクリとした悪寒が走る。
「何か、怒ってる?」
それは野性的な勘だった。なにが露木君を怒らせてしまったのか見当も付かない。でも、雰囲気でわかる。露木君は怒ってる。
「そうかもしれない」
簡単に肯定されて、胃がきゅっと締め付けられた。
「俺、なにかした?」
「ううん。環に腹を立ててるわけじゃないんだ」
じゃあ、どうして? そう聞こうとする前にグッと腕を引かれて路地裏へと連れ込まれる。
そして、そのまま壁に押し付けられていきなり唇を塞がれた。
突然の事に驚いて、思わず露木君の胸を押す。でも、ビクともしない。それどころか、更に強く抱き締められた。
「っ、ん……ち、ちょ……ん、むっ」
言葉を発しようと開いた口からぬるりと舌が侵入する。そのまま口内を蹂躙し、縮こまった俺の舌を容易く絡めとられ、強く吸われる。
一体なんでこんな事になったのか。なんで、露木君は怒ってるの? 俺はやっぱり何かしちゃったんだろうか。聞きたいけど、唇を塞がれて息継ぎをする事すらままならない。
「は、ぁ……んむ、っ」
息が苦しくて露木君の胸をどんどんと叩く。それでも解放してもらえず、酸欠で頭がクラクラする頃になってようやく唇が離れた。
「……はぁ……はっ……、いきなり、なに」
「ごめん」
ごめん、だけじゃ何もわからない。でも、今の露木君にそれを聞く勇気がなかった。
「環が悪いわけじゃないんだ」
その言葉でわかるのは、俺は何か悪い事をしたわけではないらしい事だけ。露木君は少し困ったような表情で笑った後、もう一度ごめんと言って俺の身体を解放してくれた。
「帰ろっか」
そう言って歩き出した露木君の背中を追いかけるように俺も歩き出す。もやもやとした気持ちを抱えたまま、それでも何も聞けない自分に嫌気がさした。
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