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一織の独白 ②
よりにもよって、初めて紹介してくれた恋人が男だなんて! しかも訳ありの怪しい男! あんなの、絶対環にふさわしくない!
こんな事なら、諦めるんじゃなかった。
今更そんな事を思ったって結局、環が自分を弟みたいな存在としてしか認識してないから、とか、男同士だからとか、そんなの全部言い訳でしかない。
「あーもうっ」
ベッドの上でゴロゴロしながら一人頭を掻き毟る。環に会いたい。会って、話がしたい。
何かを言いたいとか、そんなんじゃないけど。ただ、環の声が聞きたい。あの声で名前を呼ばれたい。
昔と変わらない笑顔で「一織」って。
本当に土曜日は来てくれるのだろうか? もし、来なかったらどうしよう……。仮に来たとしてまたあの男が一緒だったら?
……あり得る。 むしろ、そっちの方が濃厚な気がして来た。
だってあの男、最初っから俺に敵意剥き出しだったし。なにより、環のあの表情!
あんな顔、俺は見た事がない。あんな蕩けきった笑顔……好きな相手じゃなきゃ見せないだろ!? いや、俺だって環を大好きな自信はある。けど、あんな顔は見せてくれたことない。
環は俺にとって特別で、何よりも大事な存在だ。だからずっと守ってきたし、誰よりも幸せにしてあげたいって思ってた。なのに……あの男ときたら! まるで自分のモノだと言わんばかりに環に触れたりして! 思い出したらまたムカムカしてきた。
せめて、高校が同じだったら良かったのに。そうしたらもっと、一緒に居る時間だって増えたし、あんな奴に環を奪われる事なんて無かったかもしれない。……って、今更何を言っても仕方ないか。
「環……会いたいよ」
ポツリと呟いた言葉は誰に届く事もなく、薄暗い部屋に吸い込まれて消えた。
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