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環と一織 6

あっという間に、一織から引き剥がされるように後ろに引っ張られる。ふわりと香る柔軟剤のいい匂い。 振り返らなくっても誰だかわかる。  「……露木君、ちょっと暑い」 俺の言葉なんて聞こえてないかのように、彼はそのまま俺を自分の方に引き寄せると、フッと冷たい視線を一織に向けた。 それからようやく俺の方へと視線を移して、申し訳なさそうな表情で俺を見る。 「ごめん。家で待ってようかとも思ったんだけど」 露木君は本当に申し訳ないと思っているのか、様子を伺うみたいに俺の顔を覗き込んできた。 その仕草がなんだか可愛く見えて、思わず笑みが溢れる。 「たく、一織はただの幼馴染だって言ったじゃん。何も心配する事なんて無いのに。な、一織」 「……」 一織は答えなかった。ただ、苦虫を噛みつぶしたような顔をして、突然現れた露木君を睨んでいる。 あれ? なんで、そんな顔してる? そんな怖い顔して……。 俺は一織が怒ってる理由がわからずに首を傾げたけど、露木君には伝わったようで、勝ち誇ったかのような表情で一織を見返した。 「そっか。僕の杞憂みたいで安心したよ。《《ただの》》、幼馴染……だったね。でも、一人で彼の家に行くのはオススメしないなぁ」 「……っ」 「へっ? なんで?」 露木君の言葉に一織が息を飲むのを見て、俺は更に首を傾げる。 「なんでって……。僕にヤキモチ妬かせたいわけ? あぁ、環は意地悪された くてそう言う事言うのか。可愛いね」 「んなっ、ち、ちが……っそんなんじゃ……っ」 露木君がヤキモチ妬きなのは理解してるつもりだ。でも、そんなつもりなんて無い。

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