208 / 216
初めての…… ②
慌てて周囲を見渡してみたけど、雨宿りが出来そうな場所は何処にもなくて、俺は小さく舌打ちをする。
今日に限って折りたたみ傘も持ち歩いてない。天気予報じゃ雨は降らないって言ってたのに! 兎に角、今はここを離れよう。濡れるのは仕方ないけど、出来るだけ早く屋根のある場所に移動した方がいいに決まってるし。
俺は露木君に目配せをすると、彼の腕を掴んで駆け出した。
パシャリと足元で水飛沫が跳ねる。跳ねた水がズボンの裾を濡らすのを見て思わず眉をしかめたけれど、今はそんな事気にしてる場合じゃないと頭を振る。
「困ったな、駅まで走ってたら書類が……」
いくら濡れないようにって気を遣っていてもこの雨では中の書類が濡れてしまうかもしれない。
「ね、じゃぁ、あそこに行こうよ」
「へっ!?」
グイと腕を引かれて見上げた先に、如何わしく光る電光掲示板が目に付いた。
そこにはいかにも怪しげなホテルの名前が浮かんでいる。
「ち、ちょ……っ、そ、そこって……っ」
「大丈夫。雨風は凌げるよ」
「いや、でも……っ」
確かに雨風は凌げる。けど、そう言う問題じゃないし! 俺は思わず周囲を見渡した。幸いにも周囲に人影はなく、俺達を見ているのは雨粒だけだったけれど。
でも、ここって……所謂、ラブホと言うやつでは!?
「ほら、全身びちょびちょになっちゃうだろ」
「……っ」
早くと急かされ、選択肢は一つしか残されていない事を理解する。まぁ、確かに。他に雨をしのげる場所なんて無いし、このまま駅に向かってもずぶ濡れになるだけだし……。
俺は小さく溜め息を吐いてから露木君を見た。さっきまでの微妙な顔とは打って変わって、やたらと嬉しそうに笑っている。
なんて顏してるんだ。俺は小さく溜め息を吐くと、そのまま彼の後についてホテルの中へと入って行った。
ともだちにシェアしよう!