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初めての…… ⑥
勢いよく冷たい水が頭上から降り注いで、全身の熱を奪い去っていく。でも、俺の身体の中心に燻った熱は一向に冷める気配が無い。
後を追って入って来るかと思ったのに、露木君は入って来そうにも無くて、それどころか摺りガラスの向こうからいつの間にか人の気配が消えて、不安が募った。
「え……っ、露木君?」
本当に、何もしないつもりなんだろうか? でも、そう言う約束だし。けど……。
「てっきり一緒に入るのかと思ったのに……てか、一緒に入るって言ったくせに」
ぽつりと呟いた言葉は、シャワーの音に掻き消されて自分の耳にさえハッキリとは届かなかった。もしかして期待してたのって、俺だけ? そう思った途端、じわっと頬が熱くなって、思わずその場にしゃがみ込む。
「環?」
「ぅわっ」
突然、頭上から声をかけられて、思わず顔を上げると目の前には腰にタオルを巻いた露木君が立っていた。
さっきは扉の前にも居なかったのに一体いつの間に入って来たんだろう?
驚いて目を丸くしていると、彼は呆れた様に肩を竦めて小さく笑う。
「何してるの? 風邪ひいちゃうよ?」
「なんでもない……っ」
その笑顔にドキッと心臓が跳ねて、思わず視線を逸らした。真っ赤になってしまったであろう顔を見られたくない。それなのに露木君はそんな俺の反応を見て益々笑みを深めると、そのまま浴室の中に入ってくる。
そして、シャワーのコックを捻ってお湯を止め、俺に手を伸ばしてきた。
咄嗟に身構えたけど、露木君の手が触れたのは頭だった。優しく撫でるように髪をくしゃくしゃと乱されて、思わずビクッと肩が震える。
露木君はそんな反応さえも楽しいようで、クスクスと笑い声を漏らしながら耳元に唇を寄せた。
「ちょっとトイレに行ってただけなんだけど、まさかそんな反応するなんて……ふふっ、可愛いね」
「っ、別に……」
露木君の言葉に反論しようとしたけど上手く言葉が出て来なかった。
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