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初めての…… 15
結局、最後までできなかった……。やっぱりちょっと物足りないかも。露木君の手に包まれて気持ち良くはなったけど、でもそれだけじゃもう満足できない。
……露木君の事、もっともっと欲しいって思っちゃうんだもん。今までこんな気持ちになった事なんて無かったのに。
「そんなに拗ねないでよ」
不意に声をかけられて顔を上げると、いつの間にかこちらを見ていたらしい露木君と視線が合った。彼は苦笑を浮かべながら俺の頭をポンポンと軽く叩く。
「別に、拗ねてないし」
俺は唇を尖らせたままプイッと顔を背けた。すると露木君はクツクツと笑って俺の髪を優しく撫でる。運転手さんに見えない角度でするりと手を握られた。
今日は全国的に雨が酷くて、何処かの県にある川が氾濫したとか色々な話を運転手さんが振ってくるけど、正直内容は頭に入ってこない。
だって、露木君に手を握られているだけでドキドキしてそれどころじゃないんだもん。俺ばっかり余裕ないみたいで悔しいけど、でも嫌じゃない。だって、大好きな露木君に触れられて嬉しくない筈がない。
運転手さんには聞こえないように少しだけ指先に力を入れると、握り返してくれた。
「――……」
チラリと視線を上げると目が合って、ゆっくりと引きあうみたいに唇が重なる。
軽く触れるだけのキス。運転手さんに見付かったらどうするんだ!とか、言いたい事は沢山あるのにしっとりと唇を吸われて燻っていた熱が再び身体に灯り始める。
「機嫌、直った?」
「……ばか」
顏が熱い。真っ赤な顔を見られたくなくて、家に着くまでの間俺はずっと窓の外を眺めていた。
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