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直接対決 ⑦

「たく、来るなら来るって言えよ。びっくりするじゃん」 「行くって事前に連絡したら会えないかと思ったんだ」 一織は悪びれた様子もなく答える。確かに、もし事前に連絡されていたら確実に断ってただろう。でも、こうして来てしまったものは仕方ないし……。 「はぁ……まぁいいや。って言うか、俺の事は先輩って呼べって言ってたのになんでまた、名前呼びに戻ってんだよ」 「ごめん。同じ学校じゃないし、いいかと思ったんだけど。やっぱだめ?」 一織が捨てられた子犬みたいな目で見てくる。うっ……、俺がその顔に弱い事を一織は多分わかってる。わかっててやってるんだろうけど。そんな顔されたら小さい事に拘ってる自分が馬鹿みたいに思えて来る。 「……っ、もういいよ。好きに呼べば」 「やった! ありがとう環!」 俺が渋々了承すると、一織は嬉しそうに笑って抱きついてきた。その瞬間周囲から悲鳴に近い声が上がり、俺は思わず顔を顰める。 「おい、やめろって」 「えーいいじゃん別に」 一織は俺の言葉などお構いなしで更に強く抱きしめてくるから正直苦しいし恥ずかしい。でも、ここで突き放したら余計に面倒な事になる事は目に見えているから仕方なくされるがままになっていると……。 「おーい、椎名。浮気は良くないんじゃないか?」 「って! 誰が浮気だっ! 違うって言ってんじゃん!」 賢人の的外れなツッコミに、思わず反論する。 俺と一織はそんなんじゃない。ただの幼馴染で腐れ縁だ。 「とにかく、場所変えよう。此処は目立つし……。賢人。悪いけど露木君に一織と少し話するけど心配しないでって伝えといてくれないかな?」 「あ、あぁ。わかった」 賢人は戸惑いながらも頷く。若干の不服そうな表情を浮かべているのが気になるが賢人なら余計な事は言わずにきちんと伝えてくれるはずだ。 「じゃあ行こうか」 俺は一織を促して歩き出すと、彼は嬉しそうな表情を浮かべながら後に続いた。

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