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直接対決 ⑧
梅雨らしいどんよりとした曇天が空を覆い隠し、空気は湿っぽくジメジメしている。
重苦しい空気とは対照的に、隣を歩く一織の表情は晴れやかで明るい。
「ねぇ環。晩飯一緒に食わない? 美味しい店知ってるんだ」
学校を出てすぐの一織が唐突に提案してきた言葉に俺は思わず顔を顰める。
まさかそれを言う為だけに此処まで来たとはとても考えにくい。この間のスーツの件といい、何が目的なんだろうか?
「何か企んでんのか?」
単刀直入に問うと、一織は足を止め困ったように眉を顰めた。
「酷くない? 別に何も企んでないよ。ただ、少しでも環と一緒に居たいって思っただけ」
一織は少し寂しそうな表情で俺を見た。心外だと言わんばかりの表情だが、その瞳はどこか憂いを帯びているようにも見える。
「もしかして、疑ってる? やだな、本当に何も無いってば……。ただ純粋に、顔が見たかっただけなんだ」
一織はそう言うと俺の手を取ってギュッと握りしめる。その手は少し汗ばんでいて、微かに震えていた。
「っ」
俺は思わず息を呑んだ。一織のこんな表情を見るのは初めてだったし、何よりいつも余裕たっぷりの態度しか見せない彼の弱々しい姿に動揺を隠せない。
「環ってさ、昔っから凄く鈍感だったよね」
「は!? なにいきなりディスってんだよ」
「だって、事実だし」
一織は肩を竦めると俺の手を掴んだまま歩き出し、直ぐ近くにある大通りに面した公園へと入って行く。
「ここで少し話そうよ」
一織は噴水の縁に腰掛けると、俺にも隣に座るよう促してきた。今にも雨が降りそうなせいか、周囲には子供たちの姿はおろか、人っ子一人居ない。
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