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直接対決 ⑨
「俺さ、小さい頃からずっと、環の事だけ見てきたんだ」
今までずっただの幼馴染だと思ってた一織からの予想外の言葉と視線に思わずドキリとする。
「え、な……何を?」
動揺を隠せずにいる俺の反応は想定内だったのか、一織は昔を懐かしむように曇天を仰いで語り始めた。
「覚えてる? 環が幼稚園の頃さ、かけっこ競争してて、俺が勝ったら俺のお嫁さんになってくれるって言ったの」
確かにそんな約束をした記憶はある。しかし、それは子供の戯言で……まさかそれを本気にしていたわけじゃない、よな?
「昔の事じゃん。そもそも、俺らは男同士でそう言うの無理だし!」
「わかってるってば。ずっと、その頃から俺はキミの事が好きだったって話。もちろん恋愛対象として」
スッと伸びて来た指先が俺の頬に触れた。少しだけ冷たい一織の手がまるで壊れ物を扱うかのような優しい手つきで俺の輪郭をなぞる。
「でも、環は俺の事なんて意識してなかったよね」
一織の言葉に俺は何も答えられなかった。確かにあの頃はまだ恋愛というものがよくわかっていなかったから。ただ漠然と、一織とはずっと一緒に居られるものだと思ってたし、それは今も変わらない。
「あ、当たり前じゃん。男同士だし、普通に友達だって……」
「そっか。そうだよね。俺も、伝える気なんて無かったんだ。ずっと、心の奥
底に秘めていようって、そ思ってた。そうでもさ、環が男もイケるって知って、どうしても諦められなくなっちゃったんだ」
一織は自嘲するように笑みを浮かべる。その表情があまりにも痛々しくて、俺は思わず息を飲んだ。
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