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直接対決 ⑩

「俺、本気だよ? 本気で環のことがす「悪いけど。一織の気持ちには答えられないから」」 若干の心苦しさはあるけれど、はっきりとそう告げて一織から距離を取る。 「……まだ全部言ってない」 「ごめん。でも、何を言われたって俺の気持ちは変わらない」 不満げな声を上げる一織に謝ると、彼は諦めたように溜息をついた。 そして、そのまま俯いて黙り込んでしまう。何かを言いたげに唇を震わせているけれど言葉にならないようだ。 「……どう、して……っ、アイツなんだ……」 ようやく絞り出した消え入りそうな声で一織は呟く。その声は微かに震えていて、見ているこっちまで胸が苦しくなってくる。 俺は何も言えずにただ一織の言葉を待った。すると、彼はゆっくりと顔を上げて俺を見る。その瞳には涙が滲んでいて今にも泣き出しそうだ。 その表情は今まで見た事もないくらいに弱々しくて、まるで別人のように思えた。 「なんで……! 俺の方がずっと、ずっと環の側に居たのに」 「期間の問題じゃないんだ」 「じゃぁ、どうしてっ!?」 「どうして、か……。うーん。上手く言えないんだけどさ、俺は一織の事は好きだけど、それは恋愛的な意味でじゃないんだよ。一織は昔からずっと俺の側に居て支えてくれたし、凄く感謝してる。でも、俺にとっては小さい頃からいつも側にいた幼馴染で、それ以上でもそれ以下でもないんだ」 俺は自分の気持ちを正直に伝えた。一織の事は好きだ。それは間違いない。だけど、それが恋愛感情かと問われれば違うと答えるしかない。

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