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直接対決【露木SIDE】②
「きゃっ、なに?」
「……なんでこんな所に居るのさ」
思わず低い声が出た。彼女は僕の顔を見た瞬間、怯えたような表情から、すぐにいつもの笑顔へと戻る。
「あら、直人君じゃない。いきなり女性の腕を掴むなんて酷いんじゃない? 私ね、いま環君と交流を深めてるの」
「交流?」
便利な言い訳だ。正直言って不快でしかない。
環を庇うように前に立つと彼女は一瞬顔を顰めたがすぐにまた笑顔に戻った。その笑顔があまりにも不気味で背筋がゾクリと震える。
「……あのさ、今までは母さんが何をしてても黙って許して来たけど、環だけは駄目だ。絶対に渡さないから」
「酷い言われようね。何か勘違いしてない? 私はただ、環君に弁護士を紹介してくれたお礼を言っていただけよ?」
あくまでシラを切りとおすつもりだろう。もしくは男なら誰でも自分に夢中になると言う自信からくるものか。とにかく不快で仕方がない。
「お礼ならもうしたんだろう? 環は連れて行くから」
「ちょっと、何勝手な事言ってんのっ! 私はまだ――っ」
「……露木君のお母さん。迎えが来たみたいなんで、俺、戻りますね」
母さんが全てを言う前に、カタンと音を立てて環が立ち上がった。そして、僕を見て小さく微笑む。
「ごめん、待たせて」
「ううん、全然……っ」
環の言葉に僕は首を振って答えた。そして、自然に彼に手を差し出すと環も躊躇うことなくその手を握る。その瞬間に言いようのない幸福感に襲われた。
あぁ、やっと戻って来たんだ。僕の元に戻って来てくれた。
もう誰にも渡さない! 彼女から引き剥がすように強引に環の手を引いて歩き出すと、母さんは慌てた様子で立ち上がって追いかけてきた。
「ちょっと待ちなさいよ直人! なんなのよっあんたたち!」
「その質問に答える義理は無いですよね? あぁ、一つ忠告しておきますけど、過剰なスキンシップは辞めた方がいいですよ? 今は女性だってセクハラで訴えられる時代なんで」
「な……っ!?」
静かに、笑顔を張り付かせたまま、環が母さんにハッキリと告げる。感情の乗らない何処か冷めたような声色は僕の知ってる彼じゃない。
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