259 / 262

キミと一緒に ⑦

そもそも条件ってなんなんだよ。意味わかんない。悶々とすること数分、露木君が一向に戻って来ない事に気付いた。 もしかして、お風呂にでも入ったんだろうか?  だったら一言くらい声掛けてくれてもいいのに。 「べ、別に一緒に入りたかったわけじゃないんだけどさ……。やっと問題が全部無くなったって言うのに、妙にあっさりしてるというかなんというか。 もっと、何かあるかと思っていたから拍子抜けって言うか。いや、別に期待してたわけじゃないんだけどさ……」 一人でブツブツと言い訳じみた事を言いながら、気怠い身体を起こしてリビングに向かうと、露木君はカウンターの前に置いてあるノヴァーリスの前に立って、何かをしていた。 「つ……な、ナオくん、何してるの?」 「え? あぁ、っごめん。すぐ戻るつもりだったんだけどさ、バラが凄く綺麗に咲いてたから、莉々子さんに見せようと思って」 俺が声を掛けると、露木君は少し慌てたように振り返って、それから照れたように笑った。 「え、今更!? な……ナオ君気付いてなかったの!?」 ノヴァーリスが満開になったのは数日前。毎日家に戻って見てるはずなのに、まさか今頃気付いた!? そう言えば、毎回バラを枯らしちゃうって言ってたような? 露木君って、几帳面そうに見えるけど意外とズボラだし、ノヴァーリスの世話も結局ずっと俺一人でやってたし。意外に抜けてるとこあるんだよなぁ。 「綺麗だよね。ノヴァーリス。でも、育てられないのに青いバラに拘るのってなんで?」 ずっと、疑問だった。バラが好きなら何色でもよさそうなのに、どうしてわざわざ青に拘って育てようとしていたんだろう?って。 近くで見てたけど、バラが好きって訳でも無さそうだし。 「そ、それは……っその……。好きな子のアカウントで使ってた名前だったから」 「は? な、なにそれ」 まさかの答えに俺は目を見開いた。俺の推して推して止まないNaoが、そんな理由で育てていたなんて。 「え、ちょ、ちょっと待って……、好き!?」 「なに驚いてるんだ。さっきも言ったじゃないか」 「聞いてないよ! ローズベアを作ったのはblueroseの為だったってのは聞いたけど!」 「同じことだよ。僕はblueroseって子が好きで、僕の気持ちに気付いて欲しくって……。青いバラを育てたら少しでもあの子に近付けられるんじゃないか、なんて。今思えば相当拗らせてるけどね」 露木君は苦笑しながら、ノヴァーリスの花弁に優しく触れた。まさか、そんな理由だったなんて! どうしよう、何だか凄い照れる。 俺だって、Naoの事がずっとずっと好きで、振り向いて欲しくて……。でも、俺は本当は男だからって遠慮してた部分もあって。認知されてたってだけでも嬉しかったのに、だいぶ前から両思いだった。なんて。 「わ、わわ……っ」 その事に気付くと、一気に身体中の血が沸騰したみたいにカーッと熱くなった。どうしよう。こんなの、夢みたいだ。 「……っ、なんか照れるな……」 露木君はそわそわと視線を彷徨わせて、それから少し頬を赤くしながら俺を見た。その目は熱っぽく潤んでいて、思わずドキッとする。

ともだちにシェアしよう!