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新しい日常

毎週水曜日の生配信の日。俺は久しぶりにヘッドフォンを付けてパソコンの前で待機していた。 配信が始まるのは午後9時過ぎ。あと数分で始まる。なぜか今日は絶対に聴いて欲しいと、露木君から何度も念を押されてこうして数分前から待ってる訳だけど。 画面には緊急告知の文字と共に、青い薔薇を持った可愛いクマさんのアイコンが浮かび上がっている。  一体、何のつもりだろうか。結局、配信をつづけるための条件だって未だに教えて貰っていない。  まだ、開始前だというのに俺の他にもいつも見掛ける常連の子達のコメントが沢山流れている。 『なになに、緊急告知って』 『なんかのイベント?』 『なんだろう、気になる~』 『Naoくんの事だから、なんか凄い事してくれそう!』 常連の子達は皆露木君の事を信頼しきっている。それは、俺も同じだけど。 「あ、そろそろ始まる」 時計を見ると、9時ジャストだった。画面が切り替わって、シックな色で纏められた露木君の部屋が映し出される。 『皆、今日も来てくれてありがとう』 ヘッドフォンの向こうから、甘い声が響いてくる。それを聞いてるうちに自然と口元が緩んでしまう。 やば、やっぱNaoカッコイイ。そして、こんなカッコイイ人が俺の事好きって毎晩言ってくるなんて……。 『えっと、今日は大事なお知らせがあって……』 (え? なになに?) (Naoくんがお知らせするなんて珍しいっ) Naoのお知らせなんて滅多にない事だからか、コメント欄もざわめいている。そして、そのざわめきは次第に大きくなっていった。 『えっと、実は――』 視線が合うはずなんて無いのに、画面越しに目が合ったような気がして、一瞬息が止まりそうになる。 『実は僕、今日でソロ活動を引退しようと思い、ます』 「え……?」 一瞬、何を言われたのかわからなくて、椅子から転げ落ちそうになったのを寸でのところで堪える。でも、すぐに理解した瞬間、心臓がドクドクと激しく脈打って、嫌な汗が背中を伝う。 『今まで応援してくれたファンの皆には感謝してもしきれない。本当にありがとう。でも、僕はこの活動を通して沢山の人に出会えた。その人達に恩返しがしたい。だから……っ』 (待って、待ってよ。Naoくん) Naoのコメント欄も大荒れだ。 え、辞めないって言ったじゃん。なんで急にそんな事言い出すんだよ。 待って、お願いだからNaoくん辞めないで。 Naoがいなきゃ、私達どうすれば良いんだよ。ずっと、これからもNaoくんの事応援していきたいのに。 そんな言葉が画面を埋めつくしていく。 『あー、待って。別に配信を止めるわけじゃないんだ。ただ、次回から相方を作って二人で配信する事に決めたんだ。今日はそのお知らせと、相方の紹介がしたくって』 目まぐるしく流れていくコメント欄。その一つ一つに目を通しながら、Naoは穏やかに微笑んで続けた。 『ちょっとこれから色々と変わることもあるかもしれないけど、これからも応援してくれると嬉しいな。それじゃ、紹介するからちょっと待ってて』 すると、画面が暗転して少しの間を置いてから、待機モードへ。そのタイミングで露木君がひょこっとリビングに顔を出す。

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