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第12話 百折不撓 ❷
本殿儀式の間に閉じ込められた七生 拓美 拓人は真っ暗の中にいた
部屋には「本当にどうしよもない奴等ね!
今度は半殺しでは済ませないわよ!死ぬかも知れないから気を付けなさい!」と烈の声が響いた
何処から聞こえる声なのか?
三人には解らなかった
真っ暗な部屋は少しすつ明るくなると…………其処は見た事もない森の中だった
弱肉強食が実践される世界だった
気を抜くと必ずやお陀仏になる
拓美は「え?嘘………何で僕らまで?」と呟いた
拓人は「きっと僕達が悪口言ってるの知ったんだよ!あの寺、異常なまでに防犯カメラ仕込んであったからな………」と謂う
拓美は「え?嘘………防犯カメラあったの?あんなボロ寺に!」とボヤく
七生は「聖神………本気で怒らせちゃったな………
今度は半殺しでは止めてくれないだろうな………」と覚悟する
拓美は「嘘、僕等が行方不明になったら親が騒ぐって!」と謂う
「それはねぇよ!だってお前等は飛鳥井宗右衛門を怒らせたんだからな!」と声が聞こえた
七生は「誰?」って問い掛けた
すると、其処には白い猫が立っていた
七生が「あれは烈の猫………」と呟く
クーは「俺は天創造の創造神が烈に与えた護衛の猫だ!
だから、この迷いの森にも来られるが、普通の人間が迷いの森に来れるかよ!」と吐き捨てた
拓人は「え?迷いの森………此処は本殿儀式の間なんじゃ…………」と泣きそうな顔で呟いた
「此処は迷いの森、お前達は迷い込んだんだよ!
出口はねぇ世界にな、まぁ出られるかは烈次第だ
そして誰も飛鳥井宗右衛門には文句は言えない
例え飛鳥井義泰だろうが、志津子だろうがな
親の久遠だとて当然文句なんて言えねぇさ!
そして虹龍、おめぇは龍族として生きる気ねぇなら要らねぇ!ってのが烈の見解だ!
その答えには閻魔だって文句は言えねぇ!
金龍や銀龍だとて、黒龍だとて、文句は言わねぇよ!まぁお前は父親の存在すら否定してるんだし、龍族止めたらどうよ?
魔界へ還れば嫌でも地龍に逢うだろうからな!
まぁ魔界に帰らなくても、近い内に地龍は菩提寺へ来る事になっている!
親だと認めねぇんだもんな、もう死ねよ!
親のDNAを否定して生きる価値あるのかよ?」
とクーは熾烈な言葉を投げかける
拓人は「僕等は……親に捨てられたの?」と謂う
「捨てたのはお前達だろ?
母親を馬鹿にして、父親を軽視して、学校へ通う為、生活する為にあの家にしがみつき
成人したら親も祖父母も捨て去り、好き放題
それが宗右衛門が見立てたお前達の未来だよ!
人を軽視し、何時か拓美は医療ミス、拓人は弁護士としてさえ身が立たないバカと化す
そんなの要らねぇだろうが!
だからのテコ入れであり、矯正であり、軌道修正だったけど、お前等は人を馬鹿にしすぎた!
もう生きて帰る必要なんてねぇから、この森で好きに生きろよ!ならな!」
と言いクーは姿を消した
そして烈の元へと戻って来る
クーは「舐め腐った奴等は信じられねぇ顔していたぞ!」と告げた
烈は嗤って「ならば迷いの森の本領発揮させて、過去の自分と対面させなきゃ!」と謂う
呪文を唱えると………靄は濃くなり………視界は奪われた
手探りで皆を探しているが………何時の間にか迷って一人きりになった
虹龍は「此処までやるんてすね、聖神!
俺は………貴方の目には傲慢で馬鹿に映っていましたか?」と自問自答する様に問い掛けた
だが休まる暇もなく、獣には襲い掛かられ………
虹龍は武器よ出ろ!と念じた
すると槍が手に現れた
それを使いバサバサと倒して行く
まぁ虹龍は何とかなるが………拓美や拓人は非力な子供だから………闘えずに逃げ回っていた
だが二人は一緒に逃げていられる訳じゃない
獣に追い掛けられても、逃げて息を殺して通り過ぎるのを待つしか無かった
菩提寺へ行かされて、少し経った時に翔が
「本殿儀式の間では願えば武器は出るよ!
でも力もない君達が………飛ばされたとしても……
力に合った武器しか出ないからね
力を着けなさい!」と謂われた事があった
自分達には関係ないと高を括っていたから………
ロクな修行などカタチだけでしていなかった……
拓美と拓人は取り敢えず願って武器を出す事にした
だが力のない二人に武器は出せても、修行は手抜きでカタチだけだったから、使い熟せる訳がなかった
逃げて………武器を振り回して…………空腹と闘う
気弱になる心は…………走馬灯の様に過去の自分を映し出す
疲れ果てて座り込んだ時………拓美は成長して大人になった自分の姿を視せられていた
ストレートで大学を出て医師になった
飛鳥井記念病院なんて、ちゃっちい病院じゃなく名のある大病院へ就職が決まり、医師として働き始めた
何でも卒なく熟せる自分を過信して………
この年になっても【よい子】の仮面を被り好青年を演じる
何もかもが順調な医者生活を送る
綺麗な女性と結婚し子供を成し、絵に描いた様な生活を送る
誰もが羨み、誰もが憧れた生活だった
……………が、見ねばならなかった病歴を見ずに、自分の手に掛かれば誰もが助かる
自分は神の手を持ってるんだ
そんな傲りが医療ミスを起こさせた
其処で躓き………病院を辞めさせられた
それで飛鳥井記念病院で働いてやる、と申し出て…………断られ
医療ミスをやった医師は何処でも雇っては貰えず………バイトで食い繋ぎ………
妻は子を連れて実家へ還って行った
何もかもなくした………
何もかもなくなった…………
お父さん……助けてよ!
拓美は声を上げて泣き叫んだ
だが誰も助けてはくれなかった
お母さん………助けてよ!
母と呼べる人を拒否って生きて来た…………
あぁ………あの人も我が子に拒否られて………こんなに悲しかったのかな………
痛いよ
痛いよ
痛いよ
助けてよ
拓美は膝を抱えて泣いていた
その頃の拓人も同じ様に、未来の自分の映像を見せられていた
自分の人生はよい子の仮面を着けて生きていれば、後輩からは理知的な先輩は素敵です!と憧れられ、先輩からは、お前は俺等の誇りだよ!と言われた
司法試験を一発で合格して、下積みを重ね、実績を積む
何でも卒なく出来てしまえる自分は負け知らずの人生を送る
神威の事務所より大きな弁護士事務所へ入り、それなりに実績を積み、同じ弁護士事務所の子と結婚
だがその人は…………所長の愛人で……自分は裁判のミスの濡れ衣を着せら……妻には捨てられ………
身も心もボロボロになり………以来……気力もなく、バイトで食い繋ぎ………人生を送る
何でこうなった?
何で誰も助けてくれなかった?
あぁ………自分は他人を見下すだけで……絆をむすんでは来なかった…………
それで助けて欲しいなんて………どの口が言えるんだ?
人と人との信頼、本音で付き合える友人
そんなのを作って来なかった自分達は…………誰からも見向きもされず
誰にも助けてはもらえない………
それが自分達が過ごして来た人生なのだ
もっと違った人生を送りたかった………
友達…………作ればよかったな
人を見下してばかりで、友達いなかった
友達が馬鹿に見えて………愚かで幼稚だと見下していた
だけど………友達ならば助けてくれたかな?
何時か耳にした戸波煌星と海兄弟の話を思い出す
友の為に無償の友情を刻んだ飛鳥井烈
彼みたいに………見返りも何も求めず、友情を刻んで行ったならば………
自分達は……こんな惨めで………寂しい人生を送らなくても良かったのかな?
愚かだ…………本当に愚かだ
悔やんでも………惨めな人生を生きるしかない
ボロアパートで生活し、その日暮らしの日々を送る
このまま年を取ったら………働けなくなったら…………
ホームレス確定だな………そんな未来に恐れ………でもそんな人生を送るしかない
もう順風満帆な人生なんて………戻っては来ないのだから…………
拓人も膝を抱えて泣くしかなかった
虹龍は自分じゃない者になり………人生を送っていた
四龍の兄弟として生まれ………常に言われるのは兄弟の中で一番劣る存在だと言うレッテル
言い返せば良いのに………何も言わず耐えていた
何で言い返さないんだよ?コイツ
虹龍は焦れったくては痒くて堪らなかった…………
四龍の恋人を持つステータスが欲しくて、女は近寄る
だが、面白くない人!と罵られ別れられる
そんな中 愛する人が出来た
真剣に愛し合い………両親に紹介しようと想っていた程に真剣な愛だった
だけど、その人はある日突然消えた
お前の子が生まれてる!
と聞かされたのは………かなり経ってからだった
愛する人はある日突然消えた
そう想っていた
だが聞かされたのは………力のある龍を孕んだ女は……出産している最中に命を落とした
そんな話だった
そして我が子は炎帝が八仙に預けて育てると告げられた
我が子なのに………お前は親とは名乗るな!と謂われた
『え…………俺は両親に捨てられたんじゃないのか?』
地龍は何時の間にかチャラくて女誑しの異名が付き………その評判に苦しめられていた
誰も自分の事は信用してくれない
親でさえ、兄弟でさえ………劣る自分の事なんて見てもくれない
何で俺は生まれたんだろう…………
苦しい………苦しい…………生きてるのが苦しい………
辛い………辛い…………生きてるのが辛い………
そんな頃、何時も行く女神の泉にいる女神に恋をした
ただ話すだけの為に………あしげく通う
自分の言葉に耳を貸してくれる存在…………
そんな存在なんていなかった………
虹龍はやっと………孤独な地龍の想いを知る
捨てられんじゃないんだ
近寄るなと言われれば近寄れはしない………
だけど時々、崑崙山へ行き………影から我が子の姿を見ていた
『そんなの知らないよ…………知る理由ないよ………』
泣きながら………虹龍は地龍になっている映像を見る
女神と結ばれ結婚しても良いと謂れ、地龍は天にも昇る喜びに満ち溢れていた
だけどそんな幸せな日々に翳りを見せる
銘が執拗な虐めに合い、日々窶れて行くのだ………
壊れて行く妻を抱き締めて泣いた
窶れて行く妻を見ると胸が痛んだ
何も持たない存在にしてしまった…………
地龍の中にも悔いがあるのだ
全身全霊掛けて妻に向き合い寄り添う
そして二人で追い詰められて壊れていくのだ……
もぉ…………息をするのも辛い………
誰か助けて…………と言ってみたって………誰も助けてはくれない………
何故生まれて来たんだろう………
こんな自分のDNAを引き継いた虹龍が、自分を嫌うのも当たり前だ……
地龍は崑崙山へ行くのを辞めた
そして追い詰められて………地獄の中にいる
リスカする妻に掛ける言葉なんてなくなる………
どうしたら声が届くの?
地龍は人知れず泣いた
情けない………情けない…………こんなのが息子だなんて嫌だよな?母さん………親父………
こんなに劣る奴が弟だなんて冗談と想うよな………
「銘………二人で黄泉の旅路に出掛けるか?」
最後の言葉を口にする
銘は「それはダメだ……」と謂う
「黒龍兄さんの婚礼の儀の後に……二人で旅立とう……」
「地龍…………」
「僕も疲れた………もぉ気力もなくなっちゃたよ……」
「ごめん………ごめん………」
二人は抱き合い…………消える日を夢見る
『此れって現実なの………こんなにあの人は………追い詰められていたの?』
信じられない想いで虹龍は泣いていた
そんな虹龍の前にクーが姿を現した
「地龍の想いが解ったか?
お前は捨てられた訳じゃねぇ!
魔界の龍族の未来を掛けて虹龍が生まれて来てしまったから、炎帝は八仙に預けるしかなかったんだよ!
我が子を手放して平気だと思ったか?
我が子の存在を隠して置けば良いのに………存在を告げて近寄ると謂われた地龍の想い……解るか?
本当に罪作りな事をするな炎帝は!
だがあの時点では、それが最良な果てだった
だがその最良の果てが悉く狂って来てるんだよ!
だがら、天狗になって人の言葉を聞かない次代の四龍とお前を人の世に連れて来たんじゃないか!
地龍は今病院で入院中だ!
元気になったら菩提寺で暮らす
そうなったら、お前との軋轢がどうしても避けられないと烈が詠んだ果てだ
地龍は我が子を愛している
お前は魔界へ還ったら地龍が息子を名乗れ!
四龍のカタチも追々 烈が変えて行く
地龍の存在も魔界では落とされるべき存在ではないと知ら示す!
親なし子が突然誕生し虹龍です!と自己紹介しても誰も認めなどしない
お前も地龍と同じイジメを受けて、心は折れるだろう!
そして此れは大サービスだ!
聖神の壮絶なイジメをお前達と次代の四龍、地龍、銘に見せてやる事にした
菩提寺の陰陽師 紫雲龍騎が聖神の過去を紡ぎ夢にした
此れよりは魔獣は消し去る
お前等は聖神の壮絶なイジメを体験するが良い!」
そう言いクーは呪文を唱えると、虹龍は意識を失った
クーは拓美 拓人の前にも現れ、同じ事を告げた
そして眠り………壮絶なイジメを夢見るのだった
夢の終わりは、黒龍達が新婚旅行から帰ってくるまでの間続く
本人になったかのように、ゆっくりと体験させ夢見させる
胸糞悪く………生きてるのが嫌になる程のイジメ
足を引っ掛ける位の可愛いモノではない
邪魔な存在を排除する為に、イジメの領域なんて超えていた
転ばされるのなんて生易しい
斬りつけられ、突き飛ばされ蹴られ暴行の数々を受けて、生傷は絶えない
身体的に傷付けたならば、消えるか?と思ったが案外しぶとく魔界にいるから、どんどんエスカレートして逝く
好きだと想う存在は悉く奪われ……馬鹿にされ笑われた
臭い!と言われ血が出るまで体を洗った
日々が苦痛だった
息をするのも辛かった
何故……自分がこんな虐めを受けなければいけないのか?解らず過ごす………
だが考えても何故なのか?なんて人の世で育った自分になど解りはしない
そして日々のイジメはもっと熾烈に身体的に傷付けられて逝く
すれ違いざまに斬りつけられ怪我をする
魔界には法もない
取り締まる存在もない
刺され怪我しようと、弱いからいけない!
そんな感じで流される
今更………人の世にいる父の所へなど還れない……
世界樹の木の下で泣いている
何時だって泣いているから………ついつい声を掛けちゃった
と世界樹の樹から聞こえる声は言った
その日から………世界樹の木の下へ行き話をした
苦しい胸の内を話す
そして楽になり明日も生きようと想うのだ
愛する人が出来た時は一番に報告した
樹から聞こえる声は物凄く喜んでくれた
幸せだと思った
生きてて良かったと日々を噛み締めた
なのに………そんな幸せえ踏み躙られて逝くのだ
奴等は妻を奪った
子も奪われた
自分が一番幸せだと想うタイミングで突き落とす為に…………手薬煉引いて待ちかまえていたのだ
金と力のある素戔嗚の一族に逆らう者など誰もいない
嫁の家でさえ、言う事を聞かされ………嫁を差し出した
聖神の目の前で妻は犯された…………
子は犬のように鎖で囚われ………日々弱って行った
聖神は復讐を誓った
素戔嗚一族の崩壊………
壊れてしまえ………こんな腐った一族なんて消えてしまえ…………
祖父に憧れて魔界に来た
だが来た魔界は地獄だった…………
人の世に還れば良い…………そう思ったが………
自分には友がいてくれる
だから大丈夫だ!と自分に言い聞かせて生きて来た
が、その心が壊れた
全て壊してやる!
全て無くして復讐の心しか残らなかった
人を巻き込み、自分は中心にいて操る
魔界を揺るがす謀反に炎帝が出て来るのを知っていて、最大限に煽る、煽る、煽りまくる
さぁ…………出て来いよ!炎帝!
その焔で全部焼き尽くせ
自分も………腐った魔界も全部焼き尽くせ……
復讐に生きて、視野の狭くなった自分は……それしか考えず………世界樹の木の下には行かなくなった
だが………やっと、やっと炎帝が出て来て粛清をした
自分は主犯格として罰せられやっと楽になれる……………
安堵の心が………開放を望んだ
「明日 お前の処刑は実行される!
だから今夜は好きな事して過ごせよ!
最後の夜だからな……」
炎帝が告げた
好きな事をして過ごせよ……と。
聖神は家を処分した、中の荷物も家も全部消し去った
その足で聖神は世界樹の木の下へ向かった
此処しか聖神の居場所はないからだ
聖神は世界樹の木に額を押し付け
「ごめんね、明日僕は処刑されるんだ!
だから………最後の夜になってしまうんだ!」と言った
世界樹から聞こえる声は優しく………
『お別れなのですか?』と問い掛けた
「僕ね、どうしても許せなかったんだ………
何もかも奪って行く奴等か許せなかった………
だから復讐しちゃったからさ、明日処刑されるんだよ………」
『私は貴方にお別れだと言うのに………何も差し上げる事は出来ない………』
「大丈夫だよ、僕は貴方から日々生きる力をもらったから………ありがとう」
『私はニブルヘイム、冥府の地下に棲む存在です
私の目を貴方に差し上げましょう!
生まれ変わったら………その目があれば悪意のある奴は解ります!』
「貰えないよ、貴方が困ってしまう………」
『私も………そんなに長くは存在するのは無理になって来ました!
転生するならば………貴方の傍に生まれて来ます!
其れでも私の命が尽きるまでに………数十年……数万年……後かは…解りませんが……
何時か貴方の傍へ行くと約束します!
なので、私が転生しやすい様に【眼】を持ってて下さい!
私は自分の目を辿り、きっと貴方の傍へ行きますから!」
聖神はニブルヘイムから眼を受け取り、自分の眼を取り出し入れ替えた
物凄い激痛が襲う
その激痛に耐えて聖神は眼を変えたと言うのか…………
取り出した眼は世界樹が吸い込み
『この眼は私が着けます!
貴方を辿れる様に………互いの一部を交換し合い逝きましょう』
「ニブルヘイム………僕は絶対に貴方に会いたい……
だから消し去られようとも、転生して貴方を待つわ!神様にどうか消さないで……と頼んでみるわ」
明日の朝 処刑されるのだ
消し去られ塵になるかも知れない
其れでも………一縷の望みに掛けてみたい想いだった
『聖神………貴方の存在は闇に侵食される私の唯一の希望でした!』
「ニブルヘイム、貴方の存在は辛いばかりの日々の唯一無二の助けでした!
貴方が転生するならば、次は貴方を助けたい!
貴方の為に生きたい…………」
『聖神………』
朝日が昇り………その場に処刑人が現れ連れられるまで木に寄り添い過ごした
処刑され、塵と化されるやもと謂うのに………聖神は炎帝に「最後の夜をありがとう御座いました!」と感謝の意を伝えた
そして意識はブラックアウトした
堕ちる…………堕ちる…………ニブルヘイム、貴方に何時か会いたい……
そんな気持ちが聖神を支え、飛鳥井宗右衛門となった………
虹龍は泣いていた
拓美と拓人も泣いていた
地龍と銘も泣いていた
時を同じく聖神の夢を見せられ…………
その壮絶な日々に………言葉もなく涙するしかなかった
聖神の夢を見せられている頃 黒龍と紅花は楽しく新婚旅行をしていた
康太と榊原もラブラブで過ごした
烈が渡したアイテムが大活躍して、榊原も大満足な旅行となった
紅花も艶々ならば、康太も艶々で愛された妻と謂うのは本当に満ち足りて輝いていた
新婚旅行最終日 昼間でゆったりと過ごし車を走らせ飛鳥井の家に還った頃は、既に日は落ちていた
飛鳥井の家のドアを開けると、楽しげな声が響いた
烈が玄関まで出迎えてくれて
「母しゃん 父しゃん!黒ちゃん べにちゃん
お帰りなのよ!さぁ客間に皆いるわよ!」と謂う
康太は「皆?誰よ?」と問い掛けた
「飲みたい奴等よ、本当にね宴会開くわ!と謂うと飲兵衛が集まっていけないわ!」
ボヤきつつ両親の荷物を応接間に置かせて、客間へ連れて行く
皆 【お帰り!】と出迎えてくれた
何時もの飲兵衛が顔を揃えていた
一生は「お疲れ!お前等の慰労会だ!まぁ新婚して来る奴等に慰労会もねぇだろ?と俺も聡一郎も言ったけど、烈が皆を呼びやがって会費まで取ったから慎一と一緒に買い物に出掛けたんだよ!」とボヤきつつ詳細を伝える
聡一郎も顔を出し「さぁ手を洗って、席に着いて下さい!」と謂う
榊原は洗面室へ黒龍と紅花を連れて行き、手を洗い嗽をするんだと伝えた
黒龍がやって見せると、紅花も真似をしてやる
康太と榊原も手洗い嗽をすると客間へと向かった
客間に行くと適当に黒龍と紅花を座らせて、自分達も適当に座った
クーとプーとルーとスーがせっせと手伝いをして、帰還して来た者のテーブルの前に料理とコップを置いた
後はもう飲兵衛に捕まり、飲み明かす事となる
康太は酔っ払いの喧騒さを聞きつつ料理を食べて
「何か帰った気するな!」と言った
斑模様の猫はせっせと働かされていた
「あんさん!鍋は何処に置くんですの?」と聞くスーだった
鍋敷きを置いて、その上に鍋も置く
猫達は上機嫌で飲んでいた
クーが皆に取り皿を配る
ルーも子供達にコップを渡していた
神野は「飛鳥井の烈の猫、増えたんだな」と、呟いた
須賀も「白黒斑なんて不思議な柄ですよね!犬なら見た事あるんですがね」と謂う
烈の背中と頭には虎之介と小虎が張り付いている
何時もの光景だった
ガル親子も金太郎もこの日は良い子して客間にいた
ガルは皆がいると嬉しくて堪らなかった
皆で過ごす時はワンもニャンも一緒に過ごす
まぁ換毛期は………来れないが、換毛期じゃない時は居させて貰えた
皆笑顔で酒を飲んで夜更けまで楽しげな声は響いていた
翌日 烈は朝からいなかった
康太と榊原は会社へ向かうから、牧場へ行く前に黒龍と紅花を菩提寺で下ろして行ってくれ!と頼み、二人は会社に出勤して行った
頼まれた一生は菩提寺へ黒龍と紅花を連れて向かった
城之内が駐車場まで出迎えくれ
「一生は牧場へ行くんだろ?
宗右衛門から頼まれているから、二人は預かる
服とか有るんだよな?」と問い掛けた
一生はトランクを開けると新婚旅行から還ったままのスーツケースを取り出した
「ならばお二人は荷物を持って着いて来て下され!一生はお疲れ様だったな!」言い城之内は二人を連れて菩提寺の中へ入って行った
城之内は「まずは住む場所だな、お前等二人は家族向け住宅へ住んで貰う事になる
烈が部屋は用意して、最低限の家電を入れていた
だから生活は出来ると想う
それに寺で働いて貰うのだから、生活が出来るだけの給料も出す!
其れで夏美と華絵は生活を遣り繰りしている
まぁ奥方の方は【お金】と謂う概念と金銭感覚が出来るまでは大変だと思われるが、今は魔界も【お金】の存在は在るという
此れは経験だと思われ日々精進して行って下さい!」と言い、二人を職員用家族向け住宅の方へ連れて行き、一階の空き部屋のドアを開けて
「此処が二人の部屋だ!」と言い部屋の鍵を渡した
そして封筒を取り出し「此れは宗右衛門からです!少ないですが、此れで今月の生活を遣り繰りして行って下さい!」と言い渡した
黒龍は「有り難く受け取ります!」と言い封筒を受け取った
「では午前中は掃除をして片付けられ、昼からは奥方は保養施設の方で仕事、仁は道場でちっこいの稽古を着けてやれ!
あれから道場はかなりの生徒が増えて手が回らんから助かった!」と言い城之内はその場を離れた
黒龍は「まずは服をクローゼットに入れたら掃除だな!」と言った
クローゼットを開けるとハンガーが用意してあり、着てない服を吊るし、洗濯物は洗濯機を探した
すると洗濯機も用意してあり、黒龍はネットに洗濯物を入れ洗濯機の中へ入れた
洗濯機の上の収納棚には洗濯洗剤 柔軟剤が揃えてあった
それを使い洗濯機を作動させた
紅花は黙ってその作業を見て「覚えました!明日から洗濯は私がします!」と言った
黒龍は「洗濯物はある程度溜まってからで構わないよ!」と謂う
紅花は知らないのだろう………人の世のルールやお金の掛かる事を!
だから洗濯機は電気で動いていて、その電気はお金が掛かる事を伝える
紅花は「電気代………解りました、ならばある程度溜まったら回します!」と口にした
掃除をして拭き掃除もした
紅花は姫なのに………躊躇する事なく雑巾で拭きまくっていた
烈は紅花は龍王の屋敷ではあまり待遇が良くなかった………と話してくれた
きっと自分の部屋は掃除させられていたのだろう………
そしてある程度掃除をして片付けをして、洗濯を外のベランダに干すと、保養施設の方へ向かった
保養施設には夏海と華絵がいた
夏海は雅龍の妻として世紀の挙式には参列していたのだった
華絵は紅花を見ると近寄った
「貴方の名前は紅葉(もみじ)今日からそう呼ぶからね!」
「解りました!私の名は今日から紅葉ですね!」
夏海は「声も大きいし、覚えも良いわね!
さぁ仁は僧侶のお手伝いに向かって!
貴方の奥さんは大丈夫よ!」と謂う
仁は城之内の所へ向かった
城之内は本殿 儀式の間の前にいた
仁は「誰か出て来るんですか?」と問い掛けた
「あぁ拓美と拓人と七生が出て来ると烈が言った」
「………七生は………矯正されたのですか?」
「まぁ宗右衛門の悪口を調子こいて言ってれば矯正はされる!
アヤツは一度半殺しの目に遭ってて、またやるのだから此処いらで大掛かりなテコ入れなんだろ!」
仁は言葉もなかった
「魔界で見かけた虹龍は素直で大人しく………知性的で良い子だったのに………」と呟いた
「今 本殿儀式の間に入れられておる奴等も清く正しき【よい子】と呼ばれるお子様だった
だが本質は違うんだろ?
まぁよい子なれば、飛鳥井で生きているのに、宗右衛門の悪口は口にはしない!
それを耳にしたちっこいのが、喧嘩を吹きかけ………ニブルヘイムを出させて死ぬ目に合わせた
途中で止めねば息の根は止まっていた
本気でレイを怒らせたんだ仕方ねぇよな!
竜胆と東矢も阿吽の式神出して、死ぬ目に合わせてるんだ!
飛鳥井宗右衛門は貶されて良い存在じゃねぇ!
俺の目の前で謂うならば半殺しにしてやるさ!
康太の前で謂うなら生きちゃいねぇだろ?
だから悪口なんて気軽に口にしたらいけない!
それが解らぬ馬鹿だから、死ぬ思いをさせられる!」
突然 本殿 儀式の間の襖がスプーンっと開かれた
烈が出て来るとクーが拓美を、ルーが拓人を、スーが七生を引き摺って出て来た
烈は「まずは風呂ね、仁はこの三人をお風呂に放り込んで、と言いたいけど風呂に入っている間に、寝ちゃうだろうから部屋に放り込んで寝かせといて大丈夫よ!」と謂う
仁は七生を小脇に抱えると、ルーとスーが拓実と拓人を引き摺って後に続いた
烈は城之内と共に控室に行き、お茶を啜る
「んとに、困った奴等よ!
自分から破滅に向かってる事さえ気付いていないのよね………」とボヤいた
城之内は「中々気付かねぇってそんなのは!
破滅に向かうと解ってるなら…………止まるさ
気付かねぇから突き進むだろうが………」とボヤいた
「………本当にね、愚かよね………」
と話していると、弥勒がスパンと本殿 儀式の間から出て来た
弥勒は「龍騎サンキューな!」と言い控室に入り茶を啜る仲間になった
「何処へ行って来たの?」と烈は聞いた
弥勒は「俺はクソ親父が最初に間違った場所に行き、その目で確かめたかったから過去へ渡った
だけど…………邪魔され時空の何処かへ飛ばされ、迷わされ目的地に到着する事なく………何処かへ迷い込んだ
迷っていると斑模様の猫に会ったから、ここは何処だ?と聞いたら迷いの森だと教えてくれた
で、其処からは白黒斑模様の猫に龍騎と繋いで貰い儀式の間から出られたと謂う訳だ」と経緯を話す
「え?海坊主を見に時を渡ったの?
…………しかも最初に間違った場所なんて辿り着ける理由ないじゃない!
でも迷いの森に紛れ込めて良かったわね!
丁度、大歳神の領域と繋いで術を発動していたから、ある意味、其処へ飛ばされて本当に強運の持ち主だったのね!」
「え?それはどう言う事よ?」
「クーとプーは世紀の挙式を、上空から守っていて、妨害受けて時空の狭間に飛ばされたのよ
冥府の闇に包まれていた所、皇帝閻魔に助けられて、元の場に戻された
迷いの森がなかったら、貴方は時空の狭間に飛ばされて………闇の藻屑になるしかなかった
タイミングが良かったから迷いの森へ飛ばされた
ボクの言う意味解るかしら?」
「あぁ、解る………めちゃくそ怖い事態だったんだな俺………」
「ねぇ、何で単独で動くの?
貴方の生命線を繋げてくれる存在はいないの?
ボクだって一緒に行ってと、言ってくれれば行ったわよ!
多分ね、クーとプーでも危険な領域なのよ
時空の狭間と謂うのはね、人の世の時空と他の世の時空には、ほんの少しの隙間が出来るのよ
それが時空の隙間と言ってね
何処へ飛ばされるかは、解らないのよ
魔界には魔界の、冥府には冥府の隙間が出来るのよ
それはどの世界にも存在して、入り込んだら出るのは至難の業なのよ
クー達はかなり強く飛ばされたから、冥府の時空の狭間に堕ちた
だから皇帝閻魔が助けて導いてくれた
多分弥勒は人の世の過去と現在の狭間に飛ばされたのよ
現在の時空の狭間では迷いの森と繋いでいたから、迷い込んじゃったのよ!」
凄い解り易い説明に、弥勒も納得した
「烈は世紀の挙式とかで忙しそうだったから………一人で行けるかな?と思ったんだよ
挙式の後の披露宴終えて行ったから数日は迷子だったから助かった!」
「何かお腹減ってそうね、奢るわよ!」
と言い烈は城之内に「今日は多分起きないから、明日朝起こしてご飯食べさせて風呂に入れて、仕事をさせて!」と頼んだ
「了解!」と言い城之内は三人の様子を見に行った
烈はケントを呼び弥勒を乗せて、静かなレストランへ向かった
レストランへ入りメニューを弥勒へ見せる
「好きなの食べて良いわよ!」
と言いヘルシー定食をタブレットに打ち込む
弥勒もタブレットを渡して貰い、食べたいのを取り敢えず頼みまくった
烈は「多分 海坊主の過去へは渡れないわよ!」と言った
弥勒は「それは何故だ?確信があるのか?」と尋ねた
「ボクが何も調べなかったと想う?
海坊主に仕えていた那智とか謂う者も、海坊主の死後は姿を消してるのよ!
菩提寺の元住職も死して、当時を知る者はいなくなっている
でも弥勒院厳正を知る者はまだこの世にいて、その方達から過去を遡って仮説ならば立てられた
でも本質に迫ると、過去を聞いていた者達は姿を消すのよ
そして後日、トラブルに巻き込まれ死してこの世を去っているのよ
なら死者が逝くあの世に行き聞けば良い?
と想うじゃない?
いないのよ、どこを探しても海坊主関係の人間は亡者にすらなってない
閻魔大魔王の裁きを受けない死者がいる………此れは大問題だからね
閻魔大魔王の耳にも入れた
閻魔の台帳までは改竄は出来ないから、死した者の生前の行いならば見るのも不可能じゃない
でも、それだけ、何一つ海坊主の本質には辿り着けないのよ!
ボクでそれなのに、貴方が辿り着ける訳ないじゃない!
アレはもう………テスカトリポカに取り込まれた駒
貴方の父ですらないわ!」
「………解ってるよ………痛い程に思い知らされた
何度も炎帝と共に時を渡ったのに………辿り着けない現実に打ちのめされた………」
「多分 炎帝と青龍と共に行ったとしても、辿り着くのは不可能かもね………
でもそれは、あくまでも仮説だからね、確かめたいと言うのならば、力を貸すわ!
来年になってしまうけど、此方も準備万端に整えて確かめに行かないと、還れなくなる可能性があるからね!
貴方も確かめに行く過去さえ消されてしまっていると確かめられた方が良いわよね?」
「え?ちょっと待て!過去さえ消されてしまって………って、ならば海坊主の過去はないのか?」
唖然として問い掛ける
「多分ね………閻魔の台帳も海坊主は源右衛門の死後同時に黄泉の旅路に出るとあったのに、幾つまで生きてると想うのよ?
台帳無視して行きられる【人間】はいないわよ」
弥勒は顔を覆って………考え込む様に………項垂れた
「貴方が逝くならば、炎帝と青龍、そして閻魔大魔王に話を通さねばならないわ!」
「言っても無駄足になると謂うのに付き合ってくれると………謂うのか?」
「ええ、それで貴方が立ち上がれるならば、その作業は必要な事なのよ!」
「俺は………不安で不安で仕方がなかった………
俺はあまり良い息子じゃなかった…………
あまりにも強い父を持つと、倅は常に親父は大丈夫なんて思ってしまっていた………」
「それは当たり前よ!
死した者を想う時、人は悔いを口にするものなのよ!
それが見送った者の想いなのよ……
母しゃんだって未だに……あの時……こうすれば源右衛門は死ななかったんじゃないか?
って後悔しているんだもんの
人の心ってのは中々乗り越えられないモノなのよ
ボクもね………単身魔界に行って……処刑され……人の世に落とされた
前世まで大歳神とは連絡は取らなかったのよ
どんな面して父に会えるのよ………
でも今世人として生まれて欲しい思いがあったから、頼みに出向いたのよ
半殺しの愛の鉄拳受けたからね
とぅさんは………ずっと倅を魔界へ逝かすんじゃなかった…………と後悔していたのよ
そして今もこんなに性格ねじれちゃったからね
後悔してるわよ、本当に魔界へ行く前のボクは品行方正で、それこそ良い子の代表みたいな子だったからね………」
烈のボヤきに弥勒は笑った
「俺は聖神と謂う存在はあまり知らなかった
魔界でも眼にする事はなかったからな
だから三通夜の儀式の時、お前が草薙剣を出した時、凄い驚いた…………まさか……と二度見したからな…………」
「炎帝がね………今世、ボクをじぃさんに合わせてくれたのよ…………
ボクの魂が消滅してしまった………と想っていたじぃさんは凄く嘆き悲しんでいたらしいのよ
だから、合わせてくれたのよ
草薙剣は人の世に堕ちて直ぐに………下賜されて下さったモノなのよ
あの剣の御蔭で今まで生きて来られたのよ、ボクは………
だから悔いは残るし、想いも残る
それは生きている証なのよ……弥勒………」
「…………ありがとう……烈!
何か吹っ切れた………だから敢えて謂う
辿り着けなくとも………俺はそれを確かめに行きたい!だから………一緒に行ってくれ!」
「遅いのよ!弥勒!
言われなくても逝くわよ!
でもね準備が必要だから、来年になってからしか行けないのよ!
時空の狭間に飛ばされても万全な対策を取り逝きましょう!
ルーとスーはそんな隠密行動に特化した猫なのよ
闇に紛れ、雲に紛れ、景色に紛れ、義体化するのよ、だから二人にサポートさせ、飛ばされても着地点を決めて、其処へ辿り着ける様にしないと行けないのよ!」
其処までの対策をしないと、行けないと謂う
弥勒は「あぁ………辿り着けなくとも………嫌、辿り着けない現実を知れるならば行きたい………」と頼んだ
「もし………万が一、辿り着けたとするじゃない
…………目の前に現れる海坊主は本人だけど………
それは罠だと想いなさい………
息子諸共自爆なんて事も視野に入れないといけないのよ………其処までする奴が敵だと思っててね
人を弄び、駒のように使い捨てするのが好きな………悪魔より酷い奴を相手にしないとダメなんだからね………」
「………お前も康太も………駒にされた奴等に命を狙われて来たんだもんな…………
本当に使い捨ての駒にしやがるならば……俺だとて………力を解放してやると決めている」
「あ、それは止めてね!
それこそが狙いだから、挑発に乗ったら、貴方が消されるわよ!」
「え?嘘………」
「貴方の気を逆撫でする様な事を眼にしても、絶対に挑発には乗らないでね!
挑発に乗ったら………貴方を乗っ取り駒にするのも容易なのよ!
そしたら貴方は炎帝の敵になるしかないわよ!
まぁ炎帝の焔で焼かれて死ねるなら本望だろうけど、一緒に行く盟友の前でそれやるの止めてね!」
「盟友?誰が共に行くのよ?」
「そりゃ貴方の盟友、天馬戦争の覇者に決まってるじゃない!
貴方は共に死線を乗り越えて来た友の前で、乗っ取られるなんて無様な事したら駄目よ!」
弥勒は盟友を連れて行く辺り………準備万端だなと苦笑した
そりゃ盟友の前で無様に取り乱し乗っ取られるなんて冗談じゃない!
盟友に自分を斬らせるなんて、本当に止めてくれ!状態だ
「本当に烈は外堀埋めるの康太より上手だよな!」
「何謂うのよ、弥勒!
ボクの師匠達からしたら、生温くて見てられん程 未熟じゃ!と言われてるからね」
連戦の賢人と賢者ならば謂うだろう
このお子様はその弟子なれば、言われても当たり前なのだが………
烈は更に続ける
「母しゃんなんて最近は楽してばかりよ!
何でもかんでもボクに放り投げやがるから、ボクは結構大変な目に遭ってるからね!」
とボヤく
先陣を切り、風に髪を靡かせ突き進む
そんな康太は何時だってピリピリと緊張を孕む空気を何時だって張り巡らせていた
だが最近の康太はそんな緊張は倅に放り投げ、何時だって楽しげに笑っている
「虹と四龍の矯正までやらされるとは思わなかったわよ!
本当に人の痛みの知らない奴は、体裁しか取り繕わない愚か者で困るわ!」
烈の可愛い愚痴に弥勒の目尻は下がりっぱなしだった
素戔嗚………お前の孫は本当に良い奴だな………お前と一緒だ………
弥勒はたらふくご飯を食べて烈に送って貰い、自分ちまで送って来て貰った
烈は車を降りる弥勒に「もう今後は単独行動はしないでね、でないと向こうの警戒レベルも上がるからね!」と釘を差された
「解ってる、もう今度は迷い込んだら出られねぇって解ってるのに逝かねぇさ!」
「なら近い内にまた宴会開く時は神威に迎えに行かせるからね!」と手を振り別れた
庭で花に水をやっていた澄香は
「あなたお帰りなさい、今の子は?誰なのです?」と問い掛けた
夫は見知らぬ者の車には乗らない
そして関係の浅い者の車にも乗らない
それならばタクシーで還って来てしまうのだ
だから澄香は敢えて聞いたのだった
弥勒は「あの子は康太の六番目のお子、烈だ!
そして彼が飛鳥井宗右衛門を継いだ子だ!」と伝えた
澄香は言葉もなかった…………まだ小学校の子供が?
「か………彼は幾つなのですか?」
「10歳だ、だが小学校に入学して直ぐに宗右衛門として表に出られ名を轟かせた方だ!」
「あんな小さいのに………」
「小さいが力は凄い………康太が我が子に仕事を放り投げ楽する程にな!」と笑っていう
「今度………お会いしたいわ
彼が宗右衛門なれば、桃香を解き放って下さった方ですよね?」
「あぁ、姫巫女である桃香を解き放ったのは宗右衛門だったな
今 菩提寺も改革をしている
それら総ての采配が宗右衛門がしている!
俺はお子様なのに烈と話す時は………背筋に冷たい冷や汗をかく想いを何度もする………」
夫のボヤきに澄香は笑った
「今度時間を作って合わせて下さいね!」
「ならばお前も飛鳥井で開かれる宴会に出ればよていではないか!
お前の妹いる事だし、今度は一緒に行こう!」
「はい!あなた………」
夫の気遣いが嬉しかった
二人は積み上げた絆が在った
夫婦として生きて来た日々の想いもあった
今こうして夫婦として生きて来た証しだった
澄香は嬉しそうに笑っていた
そんな夫婦の仲の良さとは裏腹に、烈は会社へ向かう
会社まで送って貰い正面玄関から会社の中へ入る
受付嬢とご挨拶してエスカレーターに乗り3階へ向かった
社内の様子を伺い、見て回る
その時 帰宅して来た一色と出会した
烈は「いっちゃんじゃない!」と一色を呼んだ
「社内の巡回ですが?」と一色は問い掛けた
烈は「ボクの部屋で少し話をしませんか?」と問い掛けた
一色は「はい!」と受け入れ烈に着いて行った
五階で食堂へ行き和華子に紅茶と珈琲を持って行く用の容器に入れて貰い珈琲を一色に渡した
「熱いから気を付けてね!」と言い役員面談室のドアをIDを翳し開けて中へと入る
そしてエレベーターのタッチパネルにIDを翳し、エレベーターを呼ぶ
エレベーターが来るとそれに乗り六階へ向かう
六階で降りると、烈は宗右衛門の部屋のドアを開けた
部屋に入ると烈は秘書の遼太郎を呼び
「一色は1時間程 宗右衛門と面談と伝えといて!」と謂う
遼太郎は「了解しました!お茶さえ運ばせない用意周到じゃないですか!では伝えときます!」と言い部屋を出て行った
烈はPCを開くとホロスコープを開き、一色の運命を見つつ
「年末で約束の二年ね!
貴方はどの部署で働きたい?」と問い掛けた
一色は居住まいを正すと「俺は営業で働きたいです!それには建築をもっと知らねばならないので、現場と営業、交互に出向き勉強して、其れを売りにしてまた営業を掛けたいです!」と答えた
「もう恋人と一緒じゃなくても大丈夫になった?」
笑いながら烈は問い掛けた
一色は苦笑して「はい!もう一緒は嫌だと水野も謂うでしょう!」と返した
「貴方達は同じ傷を持つ、同じ星を持つ者なのよ
だから誰よりも惹かれ、誰よりも想いを分かち合ってしまう
一緒にいれば共倒れの未来しかなかったのよ!」
そう言い水野と一色のホロスコープを見せた
「このグラフの重なってる所は2年前の貴方達を投影した運命なのよ」
一色はグンッと落ち込んだホロスコープのグラフを見た
重なり堕ちるグラフは当時の自分たちを映し出していた
「二人は共にいたならば、共倒れで手を取り落ちぶれるしか無かったのよ
飛鳥井を辞めれば食うのにも困り……食い詰めるのよ、そして喧嘩が増え傷付け合う
そんな過去しかなかったからね、強引に引き離したのよ!
また広報宣伝部の体たらくブリは、貴方達だけの責任じゃなかったけど、ナメられ過ぎて水野の所為なのは否めなかった
だから強引に引き離し、別部署で働かせたのよ
貴方は天賦の才があるわ!
広報宣伝でも今ならは、営業で培った知識と話術で、トップになれるわ!
まぁ営業でもトップになれる力は持ってるわ
建築現場でもね、貴方は立派な職人になれるわ
だから選びなさい!何処へ行きたい?
まぁ二人一緒には出来ないけど、好きな部署に行かせてあげるわよ!」
「広報宣伝って紫峰圭祐、宣伝界の寵児と持て囃された人ですよね?」
「まぁ彼も色々あったのよ
天狗になってた鼻はポッキと折れてから、落ちぶれて飲んだくれて女のヒモになってた時もあるのよ、そんな彼をもっと地獄に叩き落とし、人並みになったから拾って広報宣伝課に据えたのよ!」
と世間話てるしてるようにサラッと言う
そして一色の瞳を射抜いて
「挫折を知り、人の痛みを知った人間と言うのは強いのよ!
そして人を思いやれる優しさを持つのよ!
だから今ならば、圭祐は貴方を正しい道へ導けるから、広報宣伝課でも良いと謂うのよ!
もう当時のロクデナシの社員は会社にいないし、選んでいいのよ!
貴方が行きたい所へ配属させてやるからね!」
と言う
「そんな大盤振る舞いして良いのですか?」
「良いのよ!ねぇ母しゃん!
一色はボクが好きにして良いんだもんね!」
と言うから、一色は慌てて振り返った
康太は奥のソファーから起き上がり
「遅せぇよ!烈!」とボヤいた
「ずっと待ってたの?ラインすれば良いのに?」
「直ぐに来ると思っていたんだよ!
あ~一色、おめぇは宗右衛門預かりだから、オレは何も言わねぇよ!」と言う
一色は「俺の知識で何処まで行けるか………広報宣伝課で挑戦してみたい気はあります!」と本音を吐露した
「なら行きなさい!
そして会社の為に働きなさい!」
「解りました!」
「新年 仕事始めから貴方は広報宣伝課に異動ね!仕事始めの日に、そう皆に告示しておくわ!
そしてけーちゃんにも話しておくわ!
この前 井筒屋の羊羹くれた日に話は大体しておいたから!
けーちゃんはシゴキ甲斐のある奴が来るな!と喜んでいたわ!」
一色はポケットをガサガサ探り、烈の前にカニパンを差し出した
烈は瞳を輝かせ「カニパン!」と喜んだ
ニコニコ笑う顔はお子様なのに…………
「クリスマスイベント楽しみにしております!」
「最高のにするからね!」
「はい!楽しみにしてます!」
「なら、いっちゃんは特別席確保しておいてあげるから、東京ドームのイベントは見に来てね!」
「東京ドームでやられるのですか?」
「そう、近い内に大々的に公表するわ!
まぁ遅い位なんだけどね……
と言う事で話は終わりです!」と謂うと一色は立ち上がった
そして深々と礼をしてドアを開けようとすると
烈は「遼太郎が外にいるから、エレベーター開いてもらって!」と謂う
一色は「解りました!」と言い部屋を出て行った
一色が出て逝くと康太は、烈の前に座った
「久遠の倅と虹、生きてるか?」と問い掛けた
「生きてるわよ!
本殿 儀式の間に3日閉じ込めてやって、迷いの森と繋いでやったのよ!
で、あの子達の未来を見せてやったわ!
虹は地龍が追い込まれた日々を地龍の視線で見せてやったわ!
そして先方 儀式の間から出て来たから部屋に放り込んでと頼んで来たから大丈夫よ!」
まぁ半殺し以上の精神的な追い込みをやったのだろう………
が、康太は何も言わない
死んでないなら、何も言わない
「あ、儀式の間を大歳神に頼んで迷いの森と繋いで貰っていたのよ!
そしたら、弥勒が堕ちて来たわよ!」
「え?弥勒???何で弥勒が?
一緒に儀式の間に入った訳じゃねぇんだろ?」
「弥勒は世紀の挙式の披露宴までは見たけど、後は知らないわよ!
本人も披露宴後、海坊主が初めて道を踏み外した場所を見たくて時を遡ったと言ってたからね
一人で時を遡って、時空の狭間に飛ばされ、迷い辿り着けないばかりか?
迷わされ……かなり迷ってた時に、偶然にも本殿 儀式の間を迷いの森と繋いでいたから、迷い込んだ弥勒がルーかスーと会って龍騎に繋いで儀式の間から出て来たと言ってたわ!」
康太は烈の話を聞いて「辿り着けねぇのか?海坊主の過去へは?」と問い掛けた
「那智って海坊主に仕えていた人いるじゃない
あの人は消えていない、元住職も死していない
ならば魔界で確かめれば良いかと想うじゃない
地獄にいないのよ、その人達………
死したと人の世では言ってるが死者ですらない
ハッキリ言って、海坊主関係者は何処を探してもいないのよ!」
「あんだよ?それ?………城之内の親父が死んだのは知ってるけど……地獄へ堕ちてもいねぇって………
それは死者さえ冒涜し過ぎじゃねぇかよ!」
「それは弥勒にも話してるし、当然 閻魔大魔王の耳にも入れたわ
閻魔の台帳には載ってる死者が地獄を探してもいない…………えんちゃん怒りまくっていたわよ!」
「そりゃ怒るよな伊織!」
康太に言われると、ソファーで寝ていた榊原も起き上がり
「そりゃ怒りますよ!
朱雀なんて領域侵犯だ!って怒りまくりますよ!」
烈は「父しゃんまでいたのね、えっちぃ事はしてないでしょうね!」とボヤいた
榊原はソファーに座り「してませんよ!君を待ってて寝ちゃっただけです!」と謂う
烈は「母しゃん達いるって知らなかったから、飲み物ないわ!」と謂う
康太は「別に良い!それより………今夜弥勒んちに逝かねぇか?」と謂う
「え?弥勒?良いわよ!」
「なら連絡入れとくな!」
と言いラインをした
烈は「多分………ボク弾かれて家には入れないかも………」とボヤく
康太は「んな事ねぇだろ?」と不思議そうに言う
「海坊主が自分が住んでいた家に………ボクを上げると思う?
多分………気とか気配とか、ボクと母しゃん間違えているから、ボクが弾かれるわ!
家の前までさっき送ったけどね………多分車から降りて玄関の前へ行っても中へ入るのは無理だなって感じたわ………」
「まぢかよ………取り敢えず弾かれるなら………
海坊主はお前をオレだと認識してるって事になるし、行ってみようぜ!」
「解ったわ、ボク食堂に行ってご飯食べたら菩提寺へ逝くわね!
レイたんが………何するか解らないからね
案外 レイたんは根深く恨むから……」
康太はそれを聞いて大爆笑した
「少しじゃねぇのかよ?」
「少しは【R&R】のメンバーやりゅーまだけよ
レイたんは案外根深いのよ
少しじゃなく盛大に恨んじゃうからね!」
「それは総てお前関連だけだろ?
お前が大切なんだよ、アイツは!」
「解ってるわよ………母しゃん」
「なら伊織、オレ等も昼にしようぜ!」
「良いですね!逝きましょう!」
そう言い三人は宗右衛門の部屋を出て食堂へ向かった
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