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第34話 永寿嘉福 貴方の幸せを願う………❶
康太は烈の指示で兵藤が動いてると想っていたから、意外過ぎて即座に電話をかけ
『オレは知らねぇぞ!
お前が動かしてるんじゃねぇのか?』と問い掛けた
「ボク、ほんの少し前に三神に叩き起こされたのよ、やる事があるんだから起きやがれ!って………
だからボクは何の指示も出してないのよ……」
『なら別ルートが貴史を使ってんだろ?
お前、ドゥバイ行くやんか、その下拵えさせられてるんじゃねぇのか?』
「あ………そうなるわよね……
ボクね、狗神に食い殺される運命だったんだけど…………母しゃん………運命変えた?」
烈は母を気遣い問い詰める様に問い掛けた
『…………お前を欠いてこの先は続かねぇからな……
お前の星が生命の危機を告げていたから、ほんの少しだけ………運命を捻じ曲げた
その煽りを喰らい熱が出した……』
ここ最近元気な康太が珍しく熱を出したのは、そんな経緯があったのかと…今更ながら想う
「母しゃん………そう言うの辞めてね!」
『ならお前もそう言うの辞めろよ!
お前が高嶺や晃嗣を背負う必要なんてない!
オレの果ての軌道修正なんて………掛けなくて良い!』
「それは無理よ!ボクは飛鳥井宗右衛門として、真贋を果てへと導く義務があるからね!
小さな石ころや綻びは絶対に許されない!
遥か昔からそうして来たじゃない!
ならば今世もそれはボクの義務じゃない!」
『烈…………オレはお前が心配なんだよ………』
母の想いが痛い程に解る……
「母しゃん、今夜料亭でお食事しない?」
だから母を労る言葉を吐く
康太はそんな息子の想いが解るから
『別に構わねぇぞ!美味いの食わしてくれるなら皆喜んで行くだろうし!』と答える
家族としての絆や愛が其処には在った
だから烈は笑って
「なら予約入れておくわね!」と謂う
康太はそれを受け取り『おー!仕事を仕上げねぇとな!』とやる気になるのだった
「なら料亭に予約入れたらお迎えのバスをタワマンの前に待機させるわね!
今日は全員定時退社よ!」
『了解!伊織にも父ちゃんや瑛兄にも言っとく!』
と言い電話を切った
烈は即座に料亭に連絡を入れた
「今夜 55人位の予約取りたいんだけど、大丈夫かしら?」
敢えて個人の携帯に掛けて予約を口にする
電話を受け取った方は喜んで
『良いよ!何時でも好きに使って!
なら腕を振るわなきゃね!』と言ってくれるのだった
「シゲ君ありがとう!
で、お迎えのバスを飛鳥井建設の近くの大きなタワマンの前まで5時半頃に来て欲しいのよ!
大丈夫かしら?」
『兄貴に言っておくよ!
待ってて、飛鳥井建設近くのタワマン………あ、直ぐに出て来たよ!
このマンションの入口の前で良いのかい?』
「そうなのよ!頼めるかしら?」
『烈の頼みなら何だって聞くよ!
なら5時半にお迎えのバスを向かわせるね!
その時、俺も同行するから!』
「それは嬉しいわ!大好きよシゲ君!」
『烈!俺も大好きだよ!烈!!
もぉ烈の頼みなら何だって聞いてあげるよぉ〜』
そう言い烈は電話を切った
それを見ていた竜馬は「本当に人誑しなんだから!」とボヤいた
そして烈は電話を切ると兵藤に電話を掛けた
ワンコールで電話に出ると『烈!!起きるの早くないか?何時もなら一週間は寝てるやんか!』と叫んだ
「兵藤きゅんイベントやるわよ!結婚式もやるわよ!それを終えたらドゥバイよ!
何処にいるのよ!今夜は宴会よ!」
『俺はお前が起きねぇから正義にお前の変わりに手伝わされ扱き使われてんだよ!』
とボヤく
「なら、それ切り上げてボクの所に還るのよ!
貴方はさ獅童に預けられた存在だから、まだまだ修行中なのよ!って事で宗右衛門に帰還命令出されました!と言い帰ってらっしゃい!」
『了解!お前今何処にいるのよ?』
「【R&R】のマンションよ!
宴会に行く時まで此処にいるわよ!」
『お前寝てたから知らないかもだけど、鷹司緑道入院してるぜ!
一時は危ない時があったらしい…………が、閻魔に蹴り上げられ生き返らされた…とボヤいていたぜ!』
「えんちゃんには緑道来たら即座に蘇生して!って頼んであるのよ!
こんな危うい均衡の時に緑道亡くして鷹司は存続は不可能だからね!」
『〘烈が死んでる場合じゃないだろうが!と言ってたから貴方は生き返り、馬車馬の様に働きなさい!〙と閻魔に言われた………と言ってたぜ!」
「なら緑道は死んではないわね!」
『あぁ、生きてる、節子が烈に感謝したいって連絡して来てる!』
「あ~感謝とかは要らないわ!
なら獅童に感謝返して貰うとするわ!
獅童に今夜奢らせるわ、それでチャラで良いわ!
獅童、総連絡取ってね!」と謂う
竜馬と兵藤はセコっ……と心の中で想う
ケチな烈ならば、仕方がない…………
兵藤は『ならマンションの方へ行くとするわ!』と言い電話を切った
鷹司は即座に屋敷の者に連絡を取り、緑道生命の恩人に恩返しをせねばならぬ!と申し付け料亭のお支払いは鷹司に回して下さい……と、緑道付きの者に約束させた
鷹司は「お支払いは兄者がしてくれるそうじゃ!」と謂う
烈はならば、今夜は思い切り楽しまねば!と喜ぶ
メンバー達は55人って盛りすぎじゃない?と想ったが……最初からこのつもりなのか…と感心していた
烈は神野達にも今夜の宴会を告げた
せっせと皆に声を掛ける
そして予定の55人に連絡を入れ終わると、全員が5時にタワマンに行くよ!と約束してくれた
烈は皆に「今夜は楽しむわよ!」と謂うと皆喜んだ
「何とか55人、集まったわね!」と計算しながら呟いた
阿賀屋は「はみ出るヤツいたら阿賀屋の方で奢ってやるよ!」と謂う
「大丈夫だと想うわ……兵藤きゅんが正義ちゃん連れて来ても何とかなるわよ!」
「政治屋連れて来やがるのか………」
「まぁ彼は人畜無害だから大丈夫よ!
喧嘩売るなら地獄に落とされるの知ってるからね!」
「それはそれで…………最悪な事してるなお前………」
とボヤく
暫くして兵藤が堂嶋を連れてやって来た
堂嶋は「烈、入院してたんだろ?大丈夫なのか?」と問い掛けて来た
烈は「大丈夫じゃないわ!でもやる事が山積してるから叩き起こされたのよ!
それを片付けないとならないのよ!」とボヤいた
堂嶋は「康太も無茶振りするな……」と呟いた
「母しゃんに、じゃないわよ!
天界にいるお偉いさんに叩き起こされたのよ!
穢れも痛んだ部位も治してやるから、起きてさっさと働け!と叩き起こされたのよ!
まぁ今起きてギリなのよ!
これ以上の遅延は許されないのよ!」
堂嶋はそれに対して何も言えなくなっていた
「正義ちゃん用はそれだけ?」
「ドゥバイへ行く日はアメリカを経由して、飛行機を乗り換えて行く事になった
今 倭の国からの直行便は停止されてるからな
デルタス航空が臨時便を出してくれる事になった!」
竜馬はそう言えばそんな事言ってたな……と漠然と聞き流していた
が、ヘンリーが「あ!デルタス航空……飛行機に乗せて貰う変わりにCMを【R&R】がする事になってるらしいよ!」と謂う
烈は「飛行機のCM………まぁそれもドゥバイ後ね!」と謂う
烈は兵藤に「明日アーネストが観世音紫園の所へ行くから通訳してね!」と伝えた
兵藤は「了解!」と快諾した
堂嶋は「ドゥバイへは4月26日に向かう事が決定した!
ドゥバイ時間の4月29日世界へ向けてドゥバイは新しい風を吹かせる事となった」と連絡事項を口にした
烈は冷ややかな瞳を堂嶋に向け
「了解したわ!それが終わらないと……何も始まらないからね!」
「お前が……背負う必要などない!」
「正義ちゃん、魔界で世界会議を開いた者の死命でもあるのよ!
ドゥバイを見届けて、やっと次へ駒を進められるのよ
この停滞した流れの悪い政治も流れ出すわよ!
一番邪魔な鴻池の一族がボロボロ死んで、いなくなるしね!
力だけ在った一族は………此れでチェックメイトなのよ!」
「飛鳥井宗右衛門が終焉の章を唱えた!
……と、誠しやかに騒がれているけど…………本当なのか?」
「あら、情報が早いわね!
本当よ!あの一族はボクに狗神ぶつけて潰そうとした!
御蔭で穢れたし、穢れに内臓食い破られそうになったし、入院してたのはその所為よ!
そして鷹司緑道が死に掛けて入院してるのも、その所為よ!」
「え!摂家 五家 の鷹司家 当主様が、か?」
「そうよ、まぁそんなに簡単に楽になれるなんて思わないで欲しいからね
えんちゃんには頼んでおいたのよ!
鷹司緑道が地獄に狗神と共に堕ちたら、狗神は畜生地獄の牢獄へ閉じ込め、鷹司緑道は生き返られせてね、ってね!」
「……お前は甘くはないからな…………仕方ないか…」
「そうよ、そんなに簡単に楽になれるなんて思わないで欲しいのよ!
無論 正義ちゃんもね、地獄に堕ちた瞬間
えんちゃんが蹴り飛ばして蘇生してくれるから安心してね!」
にこやかに言われても………喜べないって…………
堂嶋は想うが言葉には出来なかった
烈は「正義ちゃん、この後何か用がある?」と問い掛けた
「嫌、ない、だから康太達と飲もうと来てる!」
「なら大宴会ね!」
烈は嬉しそうに謂う
が、少し疲れてソファーに横になっていた
夕方までメンバーとイベントの話をして、慎一がマイクロバスでお迎えに来てくれタワマンへと向かう
タワマン前に皆を降ろすと、慎一は車を戻しに行った
タワマンの前はもう皆が待っていた
康太は烈を見付けると
「おい!大移動じゃねぇかよ!」とボヤいた
タワマン前には神野達四人が森 紅緒を連れて来ていた
そして久遠と義泰と志津子も立っていた
榊原真矢 清四郎夫妻と兵藤美緒もいた
夫の昭一郎は今夜は残念な事に不参加となっていた
派閥の世話役やらせられ、何かと忙しい今日此の頃だった
阿賀屋 鷹司 神威もウキウキで合流
翔は弟を見付けると駆け寄って抱き締めた
大空は双子の籠を大事そうに手にして、弟の傍へと向かう
響と奏は「「れちゅ」」と甘えていた
レイも烈に抱き着いていた
烈は「御影とヨーコは今 倭の国にいないから、不参加なのよ
今夜から台湾へ工場視察に向かってるわ!
また今度宴会開くから、その時参加となるわ!」と謂う
榊原は「免震構造のラインを増やす為、でしたね?」と問い掛けた
「そうなのよ!何だかウッズスタンの免震構造システムの受注が増えて今のラインじゃ追い付かないのよね!」
そう話してると大型バスが停まった
葛西茂樹がバスから降りると、皆に深々と頭を下げた
そして顔を上げ「お迎えに上がりました!」と笑顔で挨拶すると、康太は「葛西やんか!元気にしてたのか?」と問い掛けた
葛西は「はい!元気にしてます!それでは皆様、バスにお乗り下さい!」と謂うと、皆はバスに乗り始めた
総員 55名の大移動だった
まぁ半数以上は飛鳥井の家族なんだが………
今はそれでも一生達がいなくて少し少ない22名だった
バスに乗ると葛西の料亭へと向かう
烈は竜馬と共に乗り込み直ぐに寝ていた
榊原は「料亭……始めていたんですね……」と呟いた
聡一郎は「旅館も始めて大盛況だよ!そりゃそうだよね、宗右衛門の指導の元、始めた家業だもんね!」と謂う
悠太はニコニコと座っていた
料亭に到着すると、女将と若女将がお出迎えしてくれた!
若女将はなんと………龍ケ崎みすれ……
彼女は今にもはち切れんばかりのお腹をしていて、笑顔でお客様をお出迎えしていた
康太は「すみれ!もう時期出産か?」とそのお腹を見て謂う
すみれは笑顔で「もう予定日過ぎてるので明日から入院します!」と答えた
「元気な子を産めよ!」
「はい!」
とても美しい笑顔だった
水を得た魚の様に、料亭の女将として生きる方が性に合っていたのか?
すみれは生き生きとしていた
烈は長い廊下を康太と並んで歩いた
「すみれはね、ある程度自由に泳げる場がないと、壊れてしまう子なのよ
政治屋の妻になるには遜色ない子だけど、それだと常に気を張り続けなきゃならない
そしたらその内……心が壊れてしまうのよ!
ならば、葛西に恋心を諦めさせ独り立ちさせ、支えて生きる姉さん女房にさせた方が、すみれには有ってるのよ!」
「そうみてぇだな、良かったよ
あんな美しく元気で溌剌としたすみれが見られて………気にはなっていたんだよ……」
婚約破棄になって以降、龍ケ崎斎王にも聞くに聞けず…………どうしたものか?と悩んでいたのに…………
今のすみれの方が断然 性に合っているのは見て取れた
美緒も婚約破棄して以来、すみれの事は聞く事は叶わず………どうしていたか?気にはなっていた
そうか………料亭や旅館の女将として生き生きとして生きて、子も産まれると謂うのか………
美緒は安堵していた
玲香はそっと美緒を抱き締めた
烈は「すみれ、張り切ると生まれちゃうわよ!」と謂う
「愛する人の子を立派に誕生させずして、嫁など名乗れはしない!
安心なされ、ポンッと産んで見せますとも!」
すみれは強がってそう言うが葛西は妻を案じて
「すみれは明日の入院の準備をしなきゃ!
もう大丈夫だから、休んで来てよ!」と優しく謂う
二人の間にはちゃんと愛があり、互いを労り、互いを想い、未来へ繋ぐ確かな絆が在った
葛西がお部屋へ案内する
女将はすみれを気遣い休ませ、自分がその分頑張ろうと接客していた
葛西の姉や兄もご挨拶に来て、家族で頑張っているのが解る
壊れて、空中分解してしまった家族が…………今此処に再生され絆を更に強くして家業を盛り立てようとしていた
お部屋に入り皆が適当に座ると、お料理が運ばれて来た
「烈、安くて美味しいの沢山作ったからね!」
と葛西が謂う
烈は「ありがとう、シゲくん!」と礼を口にした
慎一は「あのフルーツが有るなら、別料金支払うので貰えませんか?」と葛西に問い掛けた
葛西は即座に新鮮なフルーツを運んで来た
葛西の兄と葛西と雇った板さんとで腕を振るい料理を作り運ぶ!
仲居を雇い、家族だけで手が回らない時が出来たから、料亭と旅館込みで働かせれば良いのよ!
そしたらバランス取れて良いし、人件費もそんなに嵩まないわよ!と烈のアドバイスを貰い、上手い事回していた
活気付く料亭の雰囲気に悠太は安堵して料理を食べていた
真矢は料理を口にして「美味しい!」と謂う
皆も料理に手を付けて「美味しい!」と感激していた
清隆は「優しい想いがこもった味だね!料亭と謂うと、どうも格式だって……何か美味しいけど高級感しか味わえないのが多いのに……」と驚いていた
瑛太も「本当に美味しい!懐かしい味だったりする!何この煮っころがしは!」と里芋の煮っころがしを食べて感動していた
葛西は「それは烈のお気に入りの煮っころがしなんです!お客様に出したら、料亭なのに煮っころがし!!でも美味しいから文句無し!と言われた料理なんですよ!」と給仕に来て謂う
阿賀屋も「本当に懐かしい味の料理も盛り込み、高級感も出して憎いよな!」と唸らせる
鷹司も「酒も宗右衛門の口利きで良い仕入れ先紹介して貰ったらしくてな、日本酒、洋酒、どれも客に合わせて出されるんだよ!
本当にこの酒が飲みたくて来ちゃうんだよ!」と酔潰れるコース真っしぐらだった
真矢は「此処の料亭は皆にも紹介したいわ!」と謂うと、烈が「是非に紹介しといてね!その時は必ず飛鳥井宗右衛門プロデュースと入れといてね!」と言った
下手な客には来て貰いたくないから、宗右衛門を入れろ謂うのだと真矢は想った
真矢はニコッと笑顔を浮かべると
「そうするわね!」と答えた
響と奏もキャッキャッとはしゃいで嬉しそうだった
レイも烈の横で嬉しそうだった
相変わらず凛は服を脱ぎ太陽に怒られ、椋は兄達と仲良く話していた
その姿はスッカリ家族の一員となっていた
ある程度料理が出尽くすと、葛西は
「兄さん 姉さん 母さん、今日は上がって構いません!明日はすみれに付き添いお願いします!」と言い、無理をしない様に上がらせた
烈は立ち上がると皆に向かって
「ボクは白馬でのイベントの翌日に久遠譲、森紅緒の結婚式の予定を立てました!
出来ましたら、皆様 その時はお越し下さい!」と結婚式のお知らせを口にした
久遠の横に座る紅緒は、スッカリ馴染んでいた
康太は紅緒を視ると妊娠に気づき
「おっ!既に仕込み済みかよ!」と揶揄した
それを受け烈は「そうなのよ!流石母しゃん!
紅たん妊娠したのよ、責任取らないなら義泰にメス持たせて追いかけ回させるつもりだったのよ!」とボヤく
義泰は「烈、儂は何時でも倅に覚悟を決めさせる為にメスを持ち追いかけ回す所存だぞ!」と謂う
久遠は「本当に辞めてくれ!あんたは本気で刺すから油断がならねぇんだよ!」とボヤいた
「何を!宗右衛門の為、紅ちゃんの為ならば志津子だってメスを持って追いかけ回すぞ!」
義泰が謂うと志津子はニッコリ笑い
「当たり前じゃないの!譲!
今度は泣かしたら………その命ないと想いなさい!
ねっ、烈、私は倅に厳しく、嫁には甘い祖父母になります!
ですが二度と拓美と拓人の二の舞はさせません!
厳しくも甘い祖父母目指します!」
とメロメロで謂う
久遠は「紅緒、こんな両親だが、仲良くしてやってくれ!」と謂う
紅緒は笑って「はい!」と答えた
双子は紅緒に「「べにたん!」」と呼ばれてメロメロだった
「響、奏、元気だった?」
「「らったよ〜」」
「それは良かったわ!」
紅緒は優しく双子の頭を撫でた
烈は「紅たんの挙式、鷹司から御当主様と妻、そして獅童と妻をご招待するから!仲良くしてやってね!
緑道が妻 節子は三人の子持ちで、獅童が妻 梨紗子は四人の子持ちなのよ!
紅たんと同じになるわね!
紅たんも四人の子持ちになるからね!」
烈が謂うと殆どが【え??】と声を上げた
「先生ぇーはね、双子作るプロなのかしら?」
康太も「あ~双子ばかり拵えやがるな!」とボヤいた
聡一郎は「紅ちゃん双子身籠ってるの?」と問い掛けた
「Xmasの夜は何とか堪えたけど、茶飲み友達の【茶】が取れる前に仕込みやがったのよ
今 3ヶ月だから年明けに姫始めでもしたのかしら?」
と計算して謂う
康太は笑って「愛が募ったんだろ?野暮は言ってやるな!」と取り成す
「野暮は言わないわよ!
だから大切にするのよ!
ボクの大切な紅たんだもんね!きょーちゃん!」
烈が謂うと柘植が「そうです!烈が大事にしてる紅緒ですから、泣かせたら私も許しません!
幸せにするなら、文句は言いません!
親を一度に亡くした紅緒が何度も何度も自殺未遂をおこし…………絶望して過ごさないでいてくれるならば、許しますとも!
だから皆に報せる為に放映権もぎ取り盛大な挙式やる事にしたんですよ!」と謂う
相賀は「紅緒の父的な存在として、こんなに嬉しい事はない………」と号泣して顔を覆う
紅緒は「すみませんでした………私は生きる屍として………何もかもに絶望していましたから………
唯一無二の救いだった両親さえ亡くし……癌が発見され、ならばチャンスだとばかりに死のうと想っていました
だけど烈に『そんなに死にたいなら死んじゃいなさいよ!まだらっこしい事してないで、今 此処で 引導渡してあげるわよ!』と謂れ閻魔大魔王様を呼ばれた時は…………流石と殺されると想いました
そしてそんな事を考えてる自分が…………死にたくないのだと………想いました
それからは烈が私の道を引いてくれました
名前が悪いのよ!と言ってくれ森先生の養子にしてして下さり、紅緒と謂う名前にして………
生まれ変わった気で生きてきました
上手く逝かなかった事も、絶望して諦めた事も………名を変え生まれ変わってからは上手く行く様になり………心にゆとりが持てる様になりました
もう………逢う事さえ諦めていた我が子にも………
この前会えました
あの子達を見た瞬間…………会えなかった時間も蟠りも…………総てなくなりました
私は、もう一度あの子達の母でいて良いと言われました…………
そしてこの年になって…………また子を授かれました………本当にあの時死ななくて良かった………」
と、涙を流しながら静かに語った
久遠は紅緒を優しく抱き締めた
二人の間の後悔も時間も………総て消え去り今は愛だけが深く二人を繋いでいた
烈は「ボクの子にラブラブビームはまだ早いのよ!」と言い双子の目を隠す
聡一郎は「久々の新婚気分なんです、許してあげなさい!」と謂う
烈は聡一郎に双子を渡して
「なら、そーちゃん早く寝かせてよ!」と謂う
聡一郎は笑って「隼人、子守唄!」と謂う
隼人は烈と竜馬が最近作った子守唄を歌い始めた
神野は「何?この歌?凄いリラクゼーション効果抜群の歌は何!」と問い掛けた
竜馬が「俺と烈が双子の為に作った子守唄です!」と答えた
「その歌、配信とか考えないの?」と問い掛けた
それ程聞いていたい歌だった
アカペラで此れなら、曲が着いたら凄い事間違いなしだった
竜馬は「それはリーダーが決めるっす!」と謂う
烈は「紅たんが生む子の子守唄になるなら考えなくもないわね!
まぁそれも追々ね、その前にイベントだから!
その後に全国放送の挙式イベントだから!」と謂う
神野は「全面協力するから!」と謂うと須賀 柘植 相賀も頷いていた
アーネストとジョージは神野、柘植、須賀、相賀に「観世音紫園をご存知か?」と尋ねていた
相賀は「能楽師………観世音紫園殿か………儂は彼の父の観世音宗達殿とは面識はあるが、今はその者は鬼籍の人じゃから………繋がりはない!」と答えた
神野 柘植 須賀も「「「全く知りません!」」」と答えた
阿賀屋は「彼は世情を嫌い、イベントがなきゃ出ないし、イベントは能面を着けてだから素顔さえ一般的には知られちゃいねぇよ!」と謂う
それを聞いていた神威は「紫園って観音寺のシオか?」と問い掛けた
阿賀屋は「あ~飲み仲間だったな、多分同一人物だ!でもそれは口外無用だぞ!」と笑って答えた
神野は「どんな方なんですか?」と問い掛けた
「あ~、烈命!」と答えた
嫌々………そんなんじゃなく、容姿を聞きたいのに……
阿賀屋は「素顔も能面みたいに左右対称の完璧なツラしてやがって、皆が口を揃えて謂うイケメンだよ!
本人はその顔が大嫌いで………
『あ~そう!大嫌いなのね!』とそのツラに飛び蹴りかましたのは烈だ!」とは爆笑して謂う
神威も「『お前の倅容赦ねぇのな……』と未だにボヤかれるぞ!」と謂う
倅…………と謂う辺り………大歳神の腐れ縁か……と康太は想う
ジョージは「……明日行きたくない………」と怖がった
榊原は「何故、その人の名が出るんです?」と問い掛けた
アーネストは「烈が白馬のイベントで使うんです!で、我等は裏方で手伝う約束したら………是非逢って来なさいよ!と言われたんです!」と話す
康太はアーネストを視て
「あ~かなり触発されて相乗効果期待出来るんじゃねぇの?
今回のイベントで逢っとけば縁は繋がり何時かお前達は繋がる運命だと謂う訳だ!」と謂う
アーネストとジョージは「「ならば、お会いして来ます!」」と謂う
神野は「逢う時も面つけるの?彼は?」と素朴な疑問を口にする
阿賀屋は「もう駄目!!」と腹を抱えて笑い出した
康太は「菩薩の倅を笑い飛ばすな!」と小声で言った
観世音菩薩の子だから、観世音を名乗って許される存在!
そして人の世の名前 観音寺………観音菩薩の省略した名称だろうが!
阿賀屋は「その倅に飛び蹴りかましたのは、お前の倅だぞ!」と謂う
康太はもうヤケクソになり
「烈はな、竜馬に出逢って3秒で飛び蹴りかましたヤツなんだよ!
トレパンマン履いてたのに、だぞ!」と謂う
竜馬は遠い目をして
「あの日………俺のプライドは粉々になりましたとも!」とヤケクソで言う
兵藤は、それ笑えねぇって…………と、想う
が、美緒は「宗右衛門は昔も今も破天荒を売りにしておるのじゃな!」と玲香と志津子と仲良く飲んでいた
その夜は騒いで飲んて、楽しい時間を過ごした
そして料亭でお泊りした
次の日 朝を食べて家へと還る
慌ただしい日常へと戻って行った
翌日 アーネストとジョージと双方のメンバー達は、阿賀屋の家の者にお迎えに来て貰い、観世音家へと出向いた
阿賀屋は「迎えを寄越してやる!お前達が行って会える存在じゃねぇからな!」と謂う
要は、それなりの人間を連れて逝かねば、門前払いされてしまう程のお家柄だと謂う事だ
同行するのは兵藤と竜馬だった
通訳も兼ねての同行だった
阿賀屋はバスを手配させ、それで迎えに越させた
それに乗り、観世音家へ向かう
バスは白馬並みの山沿いを走り…………ひたすら山へ山へと向かう
空気は美味そうだが…………何もな…………くはない
在った、とても美しい日本庭園が見えた
竹藪が鬱蒼と続き、その切れ間に日本庭園が見えた
立派な数寄屋造りの日本家屋が並ぶ屋敷が見えた
曲者等通さぬ勢いの正門は立派な門が閉じていた
駐車場にバスを停めると、阿賀屋の家の者はスーッと息を吸い
「阿賀屋家から参りました!
昨日申し入れをした者をお連れしましたので開門、お願い致します!」
と大声で呼び掛けた
兵藤は、おいおい、インターフォンとかねぇのかよ?と想った
直ぐ様 大きな門がギギギギギィィィ〜と開けられた
門が開くと屋敷の者が勢揃いして並んで頭を下げていた
竜馬は言葉もなかった
何?これ?時代間違えた?
それともタイムリープしちゃった?
其れ位、重々しい雰囲気にやられた
阿賀屋の家の者は兵藤達を先に通して、後を歩く
一番見晴らしの良い部屋に通されると、人数分 座布団が敷いてあった
座布団の上に座ると、茶托が静かに目の前に置かれた
そしてそれに口を着け暫く待つと………
水も滴る良い男……を体現したかの様な男性が部屋に入って来た
阿賀屋が言ってた様な
『素顔も能面みたいに左右対称の完璧なツラしてやがって、皆が口を揃えて謂うイケメンだよ!』
と謂う言葉通りの青年の姿にRODEOÑのメンバーもStrong Hiのメンバーも言葉をなくしていた
男は静かに流れる様に座ると辺りを見渡し
「あれ?烈は?」と問い掛けた
兵藤は「烈は退院したばかりで無理出来ないので、【R&R】のメンバーと構成考えてます!」と伝えた
「失礼、私は観世音紫園、貴方達が遭いたがってる者です!」と言い、小さな声で「朱雀来ちゃったよ………」と呟いた
兵藤は「え?何ですか?」と問い掛けた
紫園は「いいえ、何でもないです!で、要件は何です?私も暇ではないので的確に素早くお伝え下さい!」と謂う
竜馬は「烈が貴方に会いに行けと言ったんですよ!そしたら嬉しい相乗効果と縁が繋がり、
果てへと繋がるから………と言われた
だから来たんです!
我等だって暇じゃない!」と喧嘩腰で返した
アーネストはそんな竜馬をドウドウと落ち着かせ
自己紹介した、そしてメンバーにも自己紹介させた
ジョージも自分とメンバーと自己紹介する
アーネストは「貴方は所作がとても美しい方なのですね!」と英語で話す
兵藤が通訳しようとすると、英語で「それはありがとう!」と返し能の話を英語でした
兵藤は通訳必要ないやんか………と想った
そして何だか見た事のある顔だな…と考える
神威とも毘沙門天とも飲み仲間なんだよな?
あ!!!!「ガード下の飲み仲間やんか!」と叫んだ
神威の横にボサボサ頭で何時も黒縁眼鏡かけて、ヨレヨレのジャージ着て飲んでる奴だ!とハッキリ理解した
紫園はクスッと笑いを漏らすと
「あ、解っちゃった?」と謂う
「何時もは汚いやんか!」
「あれは休日モードの私です!
オン・オフは確りとしてるんです!」
笑うと雰囲気が変わる
能面のような整った顔に人間味が溢れる
アーネストやジョージ、メンバー達は積極的に話をし、二時間の予定はあっという間に過ぎた
屋敷の者が来て、紫園は立ち上がると
「イベントで逢いましょう!」と言い残し部屋を後にした
後は阿賀屋の家の者にまたバスで送って貰い帰っていく
RODEOÑとStrong HiのメンバーはStrong Hiのメンバーは観世音紫園と謂う能楽師として生きる誇りを持つ青年との出逢いに触発されて視野を広げる切っ掛けになったのは確かだった
烈は竜馬が戻るのを待ち、YouTubeでイベントを告げるつもりだった
竜馬が戻って来ると少し不機嫌だった
烈は竜馬に「不機嫌?」と問い掛ける程に不機嫌オーラを醸し出していた
兵藤は「ソイツは鼻に付く言い方されて少しだけ不機嫌なんだよ!」と説明した
それで烈は納得した
「あ~彼はそんな話し方しか出来ないわよ!
蒼佑と同じで、上に立つ者としての教育しか受けてないからね!
でもまだマシになったのよ!」
アレでマシとか………そりゃ烈が飛び蹴りカマして当たり前か…………と兵藤は想った
烈は笑って兵藤に「解った?」と問い掛けた
兵藤は「解ったよ、神威のガード下の飲み仲間だって!」とボヤいた
「シオ君は悪い子じゃないのよ!」
「お前に掛かったら、どんなワルガキでも、悪い子じゃないんだろ?そんな所、康太ソックリやんか…………」と更にボヤきを深くする
烈は笑って「竜馬、さぁお仕事よ!」と切り替えさせた
チケットはSOLDOUTしてるが、【翌日に結婚式イベントを開催するので、参加したい方はチケットを購入の上、ライスシャワーと紙吹雪を持参で参加して下さい!】と告知をするつもりだった
烈が「YouTubeの中でプライベートイベントだと告知したいのよ!」と謂う
そんな話し合いを、飛鳥井の家のリビングでやっていた
ヘンリーは「何処で撮影する気?」と問い掛けた
「応接間、カーテン閉めちゃえば横は高い塀だし解らないわよ!」
あの応接間はリビングと違い、集光は期待出来ない部屋だった
その分、ライトアップは完璧な部屋で、暗さを感じさせない造りになっていた
応接間に機材を運び込み撮影の準備をする
其処へ神野達が来ると知らせを受け、兵藤が迎えに行った
応接間で待っていると、神野達がやって来た
「結婚式の放映権取れたぜ!」と言いやって来る
烈はそれを聞き、「ならチケット販売お願いね!半分は球団側に残りの半分は久遠先生ぇーの新婚旅行費と三社共同にあげるわ!」と謂う
今回は利益は一切受け取らない気でいるのだと解る
須賀は「ならそのお金で旅行に行こうよ!多分足らないから、折半で払わないと駄目になるだろうけど、それでも行きたいよ!」と謂う
「直君、去年のアメリカイベントの後に生まれた子はまだ手が掛かるし、きょーちゃんちの子も生まれて半年位だから手がかかるわよ!
なのに、ボクに付き合わせて悪いと何時も想ってるのよ!」
柘植は「私は烈が両親を呼び寄せてくれたので、妻の両親と私の両親がサポートをしてくれてます
そして私も家では妻と共に子育ては頑張ってます!なのでたまに烈と行くと謂うのならば、妻は喜んで送り出してくれます!」と謂う
須賀も「私も日頃から烈が妻の話を聞いてくれてるので、息抜きが出来るし、妻の両親共に榊夫妻の大ファンでXmasイベントに招待した日、泣いて喜ばれました!
以来、烈関係の用事は何を置いても優先なさい!と妻の両親には言われてるのです!」と話す
撮影の準備が整うと竜馬が「烈!用意出来たよ!」と合図を送る
烈は竜馬の横に座ると、兵藤はカメラを作動させた
「【R&R】リーダー烈です!」
「サブの竜馬です!」
この定番挨拶からメンバーも挨拶をして始まる
「白馬のアマ野球リーグの球技場を2日借りて、1日は、イベントに使い!後1日はボクの世話になっている方の結婚式を行いたいのです!
結婚式だけどお祭り騒ぎして行うつもりなの!
球団側へ使用料をお支払いしないと駄目だから
1日目は球団側へ半分の使用料を支払います
そして後の半分は白馬の桜の維持費に寄付します!
当日 出演して下さる方は、ノーギャラで参加して下さり、白馬の桜の美しさを伝える運動に協力して下さる事になりました!
そして2日目のイベントも球団側へ半分はお支払いします!
後は新婚旅行代と、関係者の打ち上げに使いたいと想います!」
そう言い烈はペコッと一礼した
後を竜馬が続けて
「結婚式イベントに参加されたい方々はチケットを買われライスシャワーか、紙吹雪を持参で参加して下さい!
で、その結婚式を誰がやるか?と謂う事ですが
我等がリーダーの主治医 久遠譲氏と、一度は離婚したけど、再び親として生きる覚悟を決め再婚を決められた森 紅緒さんです
お二人には誰よりも幸せになって欲しい!
なので今回は会場が遠くて観られないと謂う方々の為にテレビ放送も、もぎ取って下さいました
イベントまでの日々も残り僅かとなりましたが、それまでの日々に森 紅緒の苦悩に満ちた半生を皆に知って欲しいと想い、YouTubeで流す事も決めました!」と告知した
ヘンリーが「楽しみだね!イベントも結婚式も全力で頑張るよ!」と抱負を述べた
メンバー達は頷いていた
烈は今回のイベントの抱負を口にした
「ボクは白馬の地がとても美しく皆の記憶に残れば良いと想って、今回のイベントを決めました
今回のイベントのコンセプトは【奉納】
我等は多くの犠牲の上に立つ事を忘れてはいけない
そして桜はずっとそんな悲劇の歴史も見て来た
美しく咲き誇り、パッと咲いて、潔く散る
そんな想いを込めて悼みと遺す歴史を織り成して行えれば良いと想いました!
このイベントの前に白馬櫻堂神社以て、奉納の舞を納めたく想います!」
「では来週のイベント楽しみにしてて下さい!
チケットはこの後、eーナプラ以て売りに出します!宜しくお願い致します!」
竜馬が謂うと皆 頭を下げお願いをした
其処で配信は終了した
着々とイベントへ向けて準備を進める
それに伴い森紅緒の半生もYouTubeで流した
結婚式の幼くも幸せな風景から始まる映像は、何処から見ても幸せの絶頂だった
が、それがボロボロと壊れて行くのだ
視点は紅緒サイドからと久遠からのサイドからと
視聴者が何方かを依怙贔屓しない様に公平に作られていた
愛人の子として生まれた久遠は、何処か懐疑的で人と付き合う事すら距離を取り………
そして愛した人は芸能界と謂う世界に生きる人間だと…………理解していたが………深くは理解していなかった………
世間の目が久遠に注がれる
その頃 派閥争いに巻き込まれ……芸能人なんかと結婚して浮かれやがれて!と八つ当たりされ
小さなミスも久遠の所為にされ日々窶れる想いをしていた
紅緒は双子を抱えての育児に、日々窶れる想いをしていた
まともな思考判断の出来ない二人がいた
久遠は追い詰められて想うのだ
こんな愛人の自分なんかが、一丁前に人並みの結婚をしようとしたから…………不幸にしてしまったのだと………
そして紅緒も想うのだ
こんな未熟な自分が双子なんて育てようとしてのが間違いなんだと……………
すれ違い………ボタンの掛け違いが酷くなる
久遠は離婚届を事務所の関係者に渡して、財産も総て妻に残して……自分は身一つで国境なき医師団に参加して……戦地へ
紅緒はオンオペ育児にノイローゼになり、ボロボロになり…………子を手放した………
そして生きる為に生活する
絶望の中………泣いて泣いて………明日を……恨んだ
絶望の中、それでも生きていかねばならないと立ち上がった
女優として生きる覚悟をして、知名度が上がって来て仕事も順調に行っていた
久遠は生き長らえ、国境なき医師団の任期を終えて倭の国へ帰国した
そして転々と病院を流れ渡り………母親が病気だと発覚して横浜の地へ戻り……総合病院の医師に収まる
紅緒は女優として賞を受賞したりして知名度が上がった頃…………両親を一度に事故で亡くした
そんな頃……癌が発覚した
真っ暗闇の絶望の中にいた
もう泣く涙も出て来やしない………
久遠は母を亡くした
たった一人の肉親を失った……
二人は時を同じくして、絶望の中にいた
だが………明日を信じて歩き出す
簡単なものではない道程を……歩いて行く
そして二人は………時を経て
親として生きる覚悟を決めた
二人の間には双子がいたのだ
腹を痛めて産んだ我が子だった
遠くから見ていた我が子だった
「親としての責任を取りなさいよ!」
烈の声が流れる
「親なれば、我が子の事を1秒たりとも忘れた事はありません!」
紅緒の声がする
遠くから二人の会話を撮った様な映像だった
「ならさ、紅ちゃん、我が子が目の前で悪いことをしたとする、紅ちゃんはどつするのよ?」
「怒ります!」
「どんな風に?」
「ダメよ!……と!」
「……あ~紅ちゃん……それで聞く奴はいないわ!」
「え?」
「悪い事をしたら殴る勢いで怒る!
それが親の死命なのよ!
対価を取るのよ、怒ると謂う事は!
その手を振り下ろしたら?誰かが傷つくとしたら?
親は必死に止める!
虐待だ!折檻だ!と言われてもね!
………なんて言われても、我が子が誰かを傷つけるなら、それを止めなきゃ!
それが出来ないなら親は名乗っちゃ駄目よ!」
「烈の両親は……どんな風に止めるのですか?」
「先ずは己の行動に間違いはないか?を、聞かれるわ!何故そうしたのか?
親を納得させる!
親は納得の出来ない行為には、同じ目に遭わすわ!当たり前じゃない!
それが理不尽な暴力なら?我が子がその暴力を正当化したら?
そのまま生きる方が怖いと殴り飛ばされるわよ!」
「……それは正当化出来る暴力なんですか?」
「暴力に正当化なんて出来ないわよ!
ボクの両親は正当化なんかしてないからね!
【対価】よ、人を傷付けたならば、それだけの対価を取る!
暴力は何も生まない
解っていても、その拳の痛さを教えるの
殴られれば痛いんだと教えるのよ!
痛みを教える為に、敢えて両親は教える
それがボクの両親の教えなのよ!
そして人を殴れば!殴った方も痛いんだと教えてくれるわ!
それが親の教えだとボクは想っているわ!
だから紅たんは紅たんなりの母になれば良いのよ!
だけど、甘いだけの馬鹿親になるのは辞めてね!痛みを知らない奴にするのは愚かな親のする事よ!」
「烈が飛び蹴りしたのも………愛ですか?」
「愛よ!当たり前じゃない!
失敗したら間違いなくお陀仏になってるのよ?
愛じゃなくして何なのよ!」
紅緒は笑っていた
そんな隠し映像が流れる
その日のコメントは荒れに荒れた
子供に手を出すのは虐待!書き込みと
愛ある教えですね!と謂う書き込み
若い子達は【痛みを知る】知らない人の方が多い気がします………と書き込まれていた
烈は「己の行動は総て自分に返ると想うと良いわ!天にツバ吐けば己に返る!
人の振り見て我が振りなおせ!
そんな教えを我が子に教えないから………人は何時しか【痛み】すら知らない人になってしまっているのよ!」と遺した
再生数もかなり伸び、ニュースになる程の動画だった
そんな中 白馬のイベントは始まった
朝早く 飛鳥井の兄弟は白馬櫻堂神社にいた
真っ白な儀式の衣装を着て、手には神楽鈴を持っていた
このイベントの為に康太は我が子に練習を付けて完璧な調整をした
そして送り出す【奉納の舞】【彩花】だった
そして康太と榊原はその日、桜の里を尋ねた
まだ夜が明ける前に、二人は出向いた
我が師匠を叩き起こし
康太は師匠に「お師匠様、烈が貴方に桜を見せたいと申してるので、来て貰えませんか?」と言った
桜の季節はスッカリ終わっていた
葉桜満開で青々ときた木々が揺れていた
土御門孔明は「え?桜?もう終わってますよ?」と言った程だった
「我が息子が齎すマジックなんだよ!
お師匠の為だけに魅せるイベントだから来てくれねぇなら、縛ってでも連れて逝くぜ!」
その気迫に………孔明は降参するしかなかった
「何処へ行くんですか?
この里から出たら私は消滅してしまいます………」
「大丈夫だ!師匠!
貴方の歹が埋まっていた地ならば行けると言ったじゃないですか!
貴方はあの地からいなくなりましたが、あの地は………貴方が見たあの日からずっとずっと…………
変わる事なく美しく花を咲かせています!」
「あぁ………あの地の桜を見せてくれるのかい?」
「我が息子が、魅せるお師匠様へのイベントなんですよ!さぁ行きますよ!」
と言い車に押し込まれ連れて来られたのだ
白馬櫻堂神社に着く頃には、スッカリ夜は明け、太陽が燦々と照り付けていた
神社の御神木の回りにはプロジェクションマッピングが施され、その中央に翔達が立っていた
烈は御神木の横に立ち、それを竜馬と共に見ていた
白馬櫻堂神社の宮司と神主は不在だった
康太は孔明を連れて来て、烈の横の椅子に師匠を座らせると
「二階堂兄弟はどうしたよ?」と問い掛けた
「真央たんがね、桶のサイズの容器に入ったあんみつ御所望だから、それはそれは宮司も神主も白玉コロコロ作ってるわよ!
しかも桶のサイズの容器に5個は所望したからね
昨日からスタッフ総出で作ってるわよ!」
桶のサイズの容器のあんみつ………しかも5個
そりゃ全スタッフ総出でやらねぇと完成しねぇんじゃねぇかよ………
奉納の舞が行われる一時間は、スタッフは巫女の姿になり神楽を奏でる事になる
雅楽で使われる楽器の笙を悠一が、篳篥を三鶴が奏でる
その中 翔 流生 音弥 太陽 大空が舞い始める
先ずは【奉納の舞】
此れは地鎮祭の時に踊った舞だった
天地に、空に、木々に、大地に、地下に、生きる総てのモノに感謝を込めて贈る舞いだった
飛鳥井の5兄弟は息を切らす事なく舞っていた
康太の教えが大変宜しいのが伺える
プロジェクションマッピングは白馬櫻堂神社の桜を映し出していた
桜の中舞う奉納の舞はとても美しく………
孔明は涙を流してそれを見ていた
奉納の舞の後は【彩花】
始めて舞う舞だった
康太もまさか【彩花】を踊らせるとは………と想った
が、舞いの復活は必然として菩提寺に伝えて、巫女にも舞える様に仕込んでいる最中だった
翔達は神楽鈴のリボンを色取り取りのリボンに変えた
変え終わると演奏が始まる
【彩花】とは書いて字の如し
まるで花が舞う様に………
まるで花が散る様に………
クルクル回りながら舞う
それはそれは大変な体力の消耗する舞だった
それを烈が復活すると言う
そして多くの舞も復活させると決めて、動き出していた
そんな中での飛鳥井の兄弟の舞だった
菩提寺からは城之内優、妻 水萌、倅 竜之介が招かれて来ていた
鷹司からは退院したばかりの緑道 妻 節子、獅童 梨紗子が招かれて舞を見ていた
神楽鈴のリボンが艶やかに風に揺れ、息を呑む程に美しかった
映像は散りゆく桜の映像となっていた
桜は散りゆくが、花々は其処に咲き誇り……四季を彩る
そんな映像として映っていた
緑道は「誠………飛鳥井の神楽は美しい!
まさか………舞が康太から代替わりしておろうとは………」と驚きながらも、その美しさにため息を漏らし言う
康太は舞が後世に伝わる為に、世代交代しておいて良かったと想った
もう自分には此れだけ続けて踊る体力なんかない
そして何より…………こうして舞が繋がり、受け継がれて逝くならば………
此れで良かったと想うのだった
この場には神楽四季も招かれて来ていた
そして何故か……四季の隣には厳つい男と、その子供がいたりした………
この日、白馬に来ると烈は「マヒたん!四季ちゃんよ!今日は1日お世話をお願いね!」と言い引き渡されたのだ
「四季ちゃん、マヒたんと倅のリヒたんよ!」
烈が謂うマヒたんらしき男は筋肉隆々で、その隣のリヒたんと謂う子供はめちゃくそインテリ系な顔をして…………本当に親子??と疑いたくなる程に似てない
マヒたんと言われた男は「任せとけ!烈!」と言い四季の横に当然の様に座り………
四季は何なの!烈!!!烈ぅ〜〜〜〜!と心の中で叫んだ
四季のボヤきは白馬の空へ虚しく消え………
白馬櫻堂神社の舞は、皆の目の前で綺麗な花を咲かせ、幕を下ろした
康太は顔を引き攣らせてる四季を見て
「酷な事をしてやるな………」とボヤいた
烈は「あらそう?でも四季ちゃんクラスチェジした方が、この先楽に生きられるのよ!」とさらっと言う
クラスチェジ………どんな言い方よ?それ?
康太はなにか言う事を諦めた
「しかも、もう何十年も仙人みたいに使ってないんだし………」
烈の言葉にトドメを刺され、康太は爆笑した
白馬櫻堂神社の宮司と神主は「「最高でした!!」」と感激して烈にご挨拶した
烈は土御門孔明の手をギュッと握り締め
「ボクも最高のイベントの前哨戦が出来ました!」と笑顔で答えた
この舞はYouTubeで流される事になっていた
【R&R】の方ではなく白馬櫻堂神社のYouTubeで流されるのだった
スタッフは機材を素早く解体し球技場へと運ぶ
烈は兄達に「お疲れ様でした!疲れた後のあんみつは最高なので、飛鳥井が2つ貰う事にしました
真央たんは3つで文句ないわよね!」と兄を労り言葉にする
阿賀屋は「3つも要らねぇよ!節子、梨紗子、一緒にあんみつ食おうぜ!
あ、玲香と京香も一緒に食おうぜ!」と誘う
二階堂悠一は「もう白玉なんか丸めたくねぇよ!」とボヤいた
弟の三鶴も「僕も……あのムニュムニュ感………耳朶だって障りたくないってば!」とボヤく
烈は「お疲れ様でした!トータルで7個の注文を請け負って下さり、有り難う御座いました!」と礼を口にした
阿賀屋は「7個!!2つ増えてますがな!」と叫ぶ
「2つは悠一きゅんと三鶴ちゃんや、スタッフの方々が食べるのよ!」
カフェを開放して、あんみつを並べる
玲香や京香はスッカリ、鷹司の妻の方々と仲良くなり、美緒も御一緒させて貰い満足だった
皆であんみつ食べる
兄達は祭儀服を脱いで私服に着替えてから、あんみつを食べ始めた
疲れた体に甘みが染み渡る
双子も喜んであんみつを食べていた
烈はレイ達に「白玉は良く噛まないと詰まるわよ!」と注意する
「特に凛たん、良く噛むのよ!」と謂う
「わかってらぁー!」と言い凛は食べていた
緑道は「竜胆であるか?」と問い掛けた
竜胆はニャッと嗤うと「緑道であるか!久しいな!」と答えた
緑道は「今世は総出であるのか?」と呟いた
「今世は顔見せに重きを置いている!
真贋と宗右衛門が飛鳥井の轍から抜けられるからな!俺も来世は継ぎに総てを教え轍からは抜ける!此れは決め事となった!」
「総て………入れ替わると申すのか?」
「そうだよ、俺の継ぎは烈の横におられる双子の一人!」
緑道は烈を見ると蛇の様な子を二人連れていた
その横には………恐ろしい程に力を秘めた子が………
緑道は息を飲んだ
竜胆は「烈の横にいる外人風な子は次代の真贋を継ぐ子だ!」と答えた
飛鳥井康太と同じ力は持ってはないが……
等価位の力は秘めてる子だった
烈は緑道に「この子は次代の竜胆と恵方を継ぐべき存在!
神祖 龍神をなさる方なのよ!
そのお力は強過ぎて、分散させる為に双子でお生まれになった方なのよ!」と話す
緑道は「その外人風の子は?」と問い掛けた
「竜胆が言ったじゃない、次代の真贋を継ぐへき存在だって!
彼はボクの為だけに転生され、飛鳥井の轍に組み込まれた存在でもあるのよ!
ボクは今世限りの転生で、次はない
でもレイたんがボクの変わりに転生して飛鳥井を護ってくれるのよ!」
「…………人ではないな……その子は……」
「それを謂うなら………殆どの奴人じゃないじゃない!」
烈は笑い緑道の耳に「彼はニブルヘイム、その人よ!」と囁いた
「……!!!」緑道は言葉もなかった
「レイたんはボクの為だけに、存在するのよ!」
「れつ………」と言いレイは烈に抱き着いた
鷹司は「兄者、早く食べんとなくなるぞい!」と急かす
甘くて飽きそうな………あんみつだが、アイスを投入され、皆が「飽きないわね!」と食べるからなくなりそうだった
緑道は気を取り直して、あんみつを食べ始めた
「烈よ、鷹司もそろそろ………世代交代の時期かも知れぬ……」と謂う
「それは獅童に聞いてるわよ!
でもね………緑道を継げる者はそうそういないわよ!」とボヤく
康太も「力だけ在っても法力がなくば務まらぬかはな緑道は!
法力だけ有っても、力がなくば………バランスが大事だからな!」と謂う
「そうなのよね、世代交代必要なのは綺堂と海堂辺りからにしするしかないわよね!
獅童もね、【教える】才覚なくば跡は継げないし
【教える】才覚在っても、祓えねば務まらないのよね!」
「飛鳥井より難しいんじゃね?」
「そうのよ!御家柄に釣り合わぬ存在だと終焉を迎えるしかないしね!」
「それでボロボロ数減らしたもんな!」
「力も継承出来ず家仕舞いした家も多いしね!」
「だな、力は必ずや継承出来るもんじゃねぇかんな!」
「飛鳥井だって見極めて轍に取り入れねば、継承は無理よ!」
「だな、初代から存在する【血】なんてオレ等しかいねぇよな?」
「そうね、もう何度入れ替わった事か…………」
緑道はそれを聞いて「誠………難しい問題であるな!」と呟いた
「まぁ焦らずとも、ボクが死しする前に、黄泉鏡あげるからさ
後継者問題に直面したら、その鏡に話し掛けたら魔界に行ったとしてと出て手助けする事を約束してあげるわよ!」
「だな、オレもその時は出て助けてやんよ!」
心強い言葉を貰い、緑道は安堵の息を吐いた
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