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第40話 風雲急変
菩提寺でパスを降りた烈は階段を上がり正門を潜り本堂を通り越して住職の居住区へと進む
「水萌!お願いが在るのよ!」と烈が謂うと水萌はドアを開けて「烈、いらっしゃい!」と出迎えてくれた
烈は家の中へ招かれ、茶を出され啜り、一息付くと城之内と倅の竜之介がやって来た
城之内は「烈、どうしたんだ?」と問い掛ける
烈は早瀬から赤児の入った籠を受け取ると
「この子を少しお世話してくれないかしら?」と謂う
城之内は「え?赤児??うちも赤児生まれたばかりだから………」と困った顔をする
だが水萌が「大丈夫じゃ!一人見るのも二人見るのも対して構わぬ!」と言ってくれた
竜之介が「俺もお世話します!で、何時まで預かれば良いのですか?」と問い掛けた
「施設に入る手筈を整えるまでの期間、お願いしたいの!」
「この子は戸籍がないのか?」
「そうなのよ、捨て子なのよ!
だから施設の方の方へ一度移して、捨て子として申請して戸籍を作らねばならないのよ!
直ぐには受け入れ態勢出来ないから、一週間くらい見てて欲しいのよ!」
水萌も「承知した!」と答えた
烈は赤児を見て
「少しの間、此処で過ごしてね!
そしたら戸籍を作り名前を付けられるから、そしたら貴方の星を詠めるわ
そしたら貴方の望む果へ導いてあげられるわ!」と言った
赤児は『寒くなくて、飢えなければ、何処でも構わぬよ!』と言った
烈は赤児の頭を撫でて「そんな日は二度と来ないわ!」と言葉にした
烈は城之内に向き直ると「お願いします!」と深々と頭を下げ頼んだ
城之内は「止めてくれ!水萌の子供がちゃんが生まれる様に護ってくれたからこそ、俺は我が子を手に出来た!お前には感謝しても足らないのに………」と謂う
「あのね城之内、そろそろ竜之介の嫁を貰わなきゃなのよ!」
「え?本人がそれを望みますか?」
「止まっていた時間が流れ出すわ!
あの隼人でさえ………止まった時間を歩み出したわ
そして一生も……皆が己の時間を生き始めるのよ
近い内に…………人の世にも禍が飛び火するわ!
人は無意識の内にそんな危機を感じ取り、最適解を導き出そうと止めた時を動かし始めるのよ
竜之介もね、例外なく伴侶を見つける事となるでしょう!
出会った瞬間に護り通したいと思える人と出会えるわ………
その瞬間 竜之介は愛する人を射程範囲内に留める事となるわね!
それ程に大きな禍が来るからね、人は本能で側にいる人を求めたり、家族を作ろうとするのよ!」
「そんな大きな災厄が来ると謂うのか?」
「そう、それは人の世も例外なく巻き込まれる事となるわ!」
「聞いても構わないか?何故なのか?」
「鳳凰が生まれるからよ!
鳳凰は生まれた瞬間、総ての理を逸脱した力を放つのよ!
それは時空さえも歪めてしまう力の放出となり………人々に禍を撒き散らす…………天界も魔界も人の世も………その禍は降りかかるわ!
人はそんな危機を本能で感じ取るのか?
子孫を残そうとするのか?
ボクの周りで妊娠しまくる現象は少なからず、それも含まれてるとは想うのよ!」
「ならば、竜之介も止めてた時間を動かし始める……と?」
「そうね、まぁ動かないなら竜ゅー馬に蹴り飛ばして貰うわよ!」
と謂うと城之内は笑って
「それは良い!」と言った
そして烈の連れて来た子を腕に抱き
「この子はどんな星巡りをしているんだ?」と問い掛けた
「この子は理の外に出来た子
だから一族の者には【穢れ】として処理されし子
だからボクは一族から引き離し、新しい道を用意する事になる子なのよ!」
「そうか………こんな幼き子に…………
解った、引き受けよう!」
と了解してくれた
「この子は力持ちだから、アタマに直接話しかける事も可能なのよ!」
烈が謂うと『宜しく頼む!』と城之内の頭に直接語り掛けた
「赤ちゃんのミルクや産着は後で持って越させるわ!」
「あぁ、この子は軽過ぎるからな!」
「取り敢えず一週間、頼むわね!」
「了解した!」
水萌はお布団を出して赤児を寝させた
「城之内の子に影響が出たなら、即座にラインして!直ぐに動かすから!」
「あぁ、よく見ておく事にする!」
そう言い頼むと烈は慎一に頼みマイクロバスでお迎えに来て貰う事にした
竜馬は「あの子………どうなるの?」と問い掛けた
「どうなるかは?今後決めて逝かないとなのよ
まぁ理を超えて生まれた【存在意義】を考えないとならないから、今夜母ぁーさんに話さないとなのよ!」
何かまた問題を抱えたのか?と竜馬は想った
慎一がマイクロバスで迎えに来てくれた
乗り切れないから一陽もマイクロバスを運転して2台で来てくれ、烈達は飛鳥井の家へと帰宅した
飛鳥井の家に帰宅すると、烈は着替えに行き………
夕飯になっても来なかった
流生が部屋に様子を見に行くと、烈を集中して机に向かい何やらやっていた
「烈、夕飯の時間だよ?」
肩を叩き、訴える
すると烈はやっと正気になったのか?
兄に目を向けた
「夕飯の時間だよ!烈」
「流にー、もうそんな時間なのね………」と呟いた
キッチンに行き夕飯を食べる
夕飯を食べ終わると、キッチンにいる母に「少し話がしたいです!」と申し入れた
康太は「良いぞ、何処で話す?」と問い掛けた
榊原が「応接間に行きなさい!」と謂うと烈と康太は階段で下がり、応接間へと向かった
応接間のソファーに座ると康太は
「話はなんだ?」と問い掛けた
「鷹司青葉は神の子を腹に宿す巫女として、歴代の主要な存在をこの世に産み落として来たのは知ってますか?」
「あぁ、知ってる!」
「その青葉、80の年で役割を終えたと言うのに、無理やり神と契り子を成した
そして己の命と引き換えに子を生む落とし………その命を費やした
その子は綺堂の部屋にいたそうなのよ
閉鎖された綺堂の部屋の………家具を処分していたら赤児が見つかった
何時生まれたのか?
何日位、其処にいたのか?
解らないから鷹司はその子を【穢れ】として処分しようとした
それを節ちゃんが哀れだと助け、ボクに託したのよ!」
康太は言葉もなかった
其処へ榊原がお茶を淹れ持って来た
「………その子は今?」
やっとの事で問い掛ける
「菩提寺へ一週間位の予定で預けてあるわ!
行き成り飛鳥井へは連れて来られないからね! しかも力持ちなのよ………」
「嘘、力持ちなのか?その子……」
「ボクの頭に直接話しかけて来るのよ!」
「え!柚と同じ力を持つのか?」
「柚なんて足元にも及ばない力を持ってるわ
生まれ落ちてどれ位経ってるのか?分からないけど、テレパシー使える子なんて………そうそういないわよ!」
「めちゃくそ力持ちか………その力、緑道を越すか?」
「みたいね、己のルーツもよく知ってる
釈迦にその子の真髄を探って貰おうかと想うのよ!」
「いきなり釈迦はハードル高くねぇか?」
「…………でも何者なのか?分からないから……余計警戒しちゃうのよ」
だからの深層世界を探ると謂うのか………
己の秘める世界は誤魔化しは出来はしないからだ
「ねぇ母ぁーさん、何故今なのかしら?
何故今、色々と問題が持ち上がるのかしら?
其れは鳳凰誕生だけの禍だけじゃない………
何かきな臭い何かを感じるのよね………」
康太は唸り「オレもな、きな臭い感じはしてる
でも何が?なのかは解らねぇかんな手の打ちようがねぇんだよ!」とボヤく
「今年のGWは何処へも行けずに終わってしまったわ………
ボク等は何処にも行けてないのよね……」
「だな、そもそもお前がドゥバイへ行った日からGWは始まっている
そして帰国してもう終わてるかんな………」
「本当に腹立つわ!
GW返してくれないかしら?」
と烈は携帯を取り出すと何やら画面を必死に見て、何やら操作していた
「烈、その子はどうするのよ?」
「取り敢えず一度は施設に入れないと戸籍が出来ないからね、その手続きを始めるわ!」
「なら、明日、逢わせてくれねぇか?」
「良いわよ、母ぁーさんの目から視てどう映るか教えて下さい!」
「了解!其れよりも紅花、卵産んだんだな
早産で銀龍はかなり気を使って倒れそうになってたぜ!」
「鳳凰だからね………そりゃ難産よ!
しかも卵のお産だけでもかなり理を歪めてしまうから……銀ちゃんは少し休ませないとね!」
「鳳凰の………誕生をオレは忘れていたかも知れねぇ………天魔戦争の終盤に在った鳳凰の出産は総てを巻き込んで荒れに荒れて世界は荒廃の一途を辿った…
各国で戦争や争いが巻き起こり………世紀末の人類の消滅論まで出て、箒星が流れだけで死ぬとまで騒がれたって謂う程だったのにな………
神がまだ人と共に行きていた時代にだぞ?」
「でも鳳凰を欠いて魔界は成り立たない!
輪廻転生の軸が鳳凰がいなくば成り立たない!
幾ら荒れようとも………避けては通れない現実だからね!」
「師匠達から聞いたのか?」
「そうよ!」
「其れでもお前はその道を選択したのならは、突き進むしかねぇやんか!」
「………………解ってるわ!」
「明日は菩提寺へ行くとする!
不穏な動きがあるならば弥勒を呼んで見る事にする!」
「今年のGWは潰れたから、来年は沖縄か北海道へ行きたいわね!」
「でも烈、オレ等はGWよりも先に、北海道満喫出来てるからな、別に休日は人が多いし構わなかったんだよ!」
「ゴメンね、でも何で4月29日だったのかしら?ボクのGW返して欲しいわ!」
ボヤいている烈を他所に聡一郎が
「隼人が皆に話があると呼んでます!」と言い呼びに来た
烈は「晟雅ゃ来てるのかしら?」と尋ねた
「ええ、神野は無論だけど、小鳥遊も須賀も柘植も相賀も来てます!」
「真央たん達は?」
「客間にいるよ?
もう飲んでるから移動しないと思うよ!」
「もう飲んでるのね………」
「まぁまぁ彼らにとったら命の水だからさ!」と笑って烈を連れて行く
烈と康太と榊原が客間に行き席に着くと隼人は立ち上がり、真剣な顔をして皆に一礼した
そして顔を上げると覚悟をした瞳をして
「オレ様は皆に話があるのだ!
聞いて貰いたくて皆に集まって貰いました!」と謂う
皆は何も謂う気はないのか?
黙って隼人を見ていた
「オレ様は…………ヨーコを愛しているのだ………
ヨーコを妻にして………飛鳥井の家で………幸せに暮らしたい………
お願いします!どうか許して下さい!」と頭を下げた
烈は何も言わなかった
康太も何も言わなかった
ならば、誰も何も言える筈などないのだ…………
沈黙が続く中、聡一郎の携帯が震えた
聡一郎はコッソリと携帯を見た
するとラインの発信者は一生だった
どうやら文面からして帰国して帰って来たみたいだった
聡一郎に帰国を告げ「何処の家にいる?」とラインをして来たのだった
聡一郎は「本当に彼奴はタイミングの悪い……」とボヤいた
康太は「どうしたよ?」と尋ねる
「一生が帰国して来たんですよ!」と聡一郎は告げた
康太も「よりによって今夜帰らんでも…」と呟いた
聡一郎は「仕方ないので迎えに行きます!」と言い
「タワマン横にまだ住んでます!」とラインを送信しといた
『おっ、なら近くまでタクシーで来てるわ!』
聡一郎はその文面を見て
「近くまで来てるそうです!」
と言い迎えに行った
暫くすると、一生と力哉が飛鳥井の家に帰って来た
「ただいま!」と謂うが皆 何だか雰囲気が変だった
一生は「あれ?俺??帰って来ちゃ駄目だった?」と呟いた
康太は「お帰り一生!今は少し話し合いの最中なんだ、悪いけど黙って見ててくれねぇか?」と謂う
一生は黙ってその場に座った
烈が何のリアクションもしないから………
榊原は康太を見た
康太は「オレを見るな!」と謂う
「でも………隼人は君のでしょう?」
「隼人はオレのでも、ヨーコは烈のやんか!
オレが良いぞ!おめでとう!なんて二つ返事で答えられる訳がねぇんだよ!」
榊原は困った顔をして烈を見た
烈は「その話、今日中にカタを付けないと度目なのかしら?」と問い掛けた
榊原は困った顔をして
「一応の報告でしょう!
君はヨーコの雇用主でなんだし……」と言葉にした
「あ~雇用主なら、ボクの片割れに言って!
ボクは今はそんな些末な事に囚われていられないのよ!
やらなきゃいけない事が山積してるのよ!
ある程度の道筋は付けなきゃなのよ
少し難問も抱えてて、今は時間的にも余裕がないのよ!
だから取り敢えず聞いたわ!
晟雅ゃ、今のボクにリアクションは期待しないでね!」と言い客間を出て行ってしまった
隼人はショックな顔で崩れ落ちた
阿賀屋が「彼奴は今、他の事を考える余裕なんてねぇんだよ!
だから許してやれ!
あのお子様はお前が思うより重い荷物を背負ってるんだ!」と謂う
鷹司も「儂の家から難問も押し付けた故……今後の道筋を着けると言ってる以上は、時間なんか無いに等しいのであろう!
許してくれ、烈を忙しくさせたのは鷹司でもあるのだから!」と慰める
紫園も「俺も烈の頭を痛めてる問題背負わせたからな、だから気にしなくて良いだよ!隼人!
お前は烈の兄ならば、忙しい弟の為に時には我慢もしてやってくれ!」と謂う
隼人は「蒼佑、鷹司、紫園………有難う!」と謂う
康太は「おめでとう隼人!オレはお前が誰かを愛してくれて嬉しい…………
だけどよりによってヨーコか……
鳳城葵が結婚して副社長の座をヨーコで埋めた
それがまた欠けるんたから………考えるのも嫌になるってもんだろ………
結婚を反対云々より、結婚は賛成しても、その後を考えれば手放しで喜べねぇだろ?」と謂う
隼人は「理解してるのだ……でも急ぎすぎたのだな……
ケジメを着けねば!と思ったのだ!
で無くば康太と烈に合わせる顔など無いのだ」と謝った
康太は「妊娠して急いてるとかじゃねぇんだよな?」と問い掛けた
「それはないのだ!避妊してるし、皆から許しがなくは子供は作らないと決めているのだ!」
「ならケジメ………なんだな……」
ケジメを取るのは良い事だけど………問題山積してる今は止めてくれ……と思った
ヨレヨレのヘロヘロになる程疲れ果ててるんだから…………と我が子の事を想う
一生は帰国したばかりで
「え?どんな状況なのよ?」と理解が追いつかなくて問い掛けた
聡一郎が取り敢えず一連の話をしてやる
それを聞いて一生は「複雑やんか………友としては祝福してやりてぇけど、烈を思えば手放しでは……祝福出来ねぇわ!」と謂う
康太はいい加減辛気臭い雰囲気に嫌気が差して
一生に「お帰り一生!どうだった?イギリスでの生活は?」と話題を変えた
「めちゃくそ忙しかったな、覚える事は山程あるし、必死に吸収して覚え帰国した
やはり今までの遣り方じゃ………勝てる馬なんて育てられねぇって実感した!」
「ならば、それを生かして頑張ってくれ!」
「北斗は………イギリスで最低でも2年は帰国は出来ない寄宿舎付きの学校に入った
その学校は調教師やプロの飼育員を育てる学校で、無事合格出来て送り出した!
でも何故今、北斗を国外に出したのか?
と色々と考える事もあった………」
一生がそう言うといつもの間にか姿を現した弥勒が「其れはな一生、北斗は海坊主が愛した女の落とし胤だからだよ!」と答えた
一生はそれを聞いて「あ~納得したわ!北斗も僕は今倭の国にいちゃ駄目なんだ!って言ってたし………ひょっとして?とは思ったけど聞く訳に逝かねぇからな……」と謂う
弥勒は座り阿賀屋にコップを渡されるとグビグビ飲み始め
「烈はかなり前から隼人と、そこのおなごの仲は知っておった!」と謂う
康太は「だよな、彼奴の星詠みは右に出る者はいねぇかんな!」と謂う
「ドゥバイでどんな仕掛けされても大丈夫な様に、神々と力を合わせて、色んな細工を施し、やっと掠り傷で終わったのによぉ〜問題山積かよ……」とボヤく
康太は耳聡く「おい!弥勒!無傷じゃねぇのかよ!」と食って掛かった
「掠り傷はしてるぞ!
当たり前やろ?あんなに銃弾が飛んて、ラグナロクの戦士が斬ったって言っても、銃弾の欠片は飛んで来るだろうし、カラフやローマ法皇を護る為にバリヤ出したんだ!
バリヤの外にいた彼奴が無傷の訳ないやんか!
だからこそ、ローマ法皇は烈の功績を称えるように頭に手を翳して『和平の立役者として先導して逝かれる事を望む』なんて言葉を送ったんだよ!」
「でも怪我してるなんて………誰の目にも解らなかったな………」
「当たり前やんか!光のヴェールで包んだ先が視える訳ねぇだろ?」
「本当に準備万端やり遂げやがったのか………」
「まぁ久遠にはピキッと青筋浮かべられ消毒されて泣いてたけどな!」
「言わねぇからなアイツは!」
「彼奴はそんな下らない事を言うよりも家族との時間を送りたかったんだよ!」
「弥勒…………オレを泣かせる気か?」
「………泣かせる気はねぇが、それが真実だならな!伝えとかなきゃ烈が怪我した意味がねぇだろ?」
「烈………なにする気だ?」
「うるさいハエは一気に潰す気だろ!
観世音に制裁を与えに行くついでに、神取は完璧潰す気だ!」
「あ~アレな、良くもまぁ菩薩の子を追い出せるよな?あのワイドショー見てて笑っちまったぜ!」
「まぁ俺も菩薩の端くれじゃから………観音寺の菩薩の心中察するに………怒り心頭だろうな……とは想う」
「お前は菩薩より上の転輪じゃねぇかよ!」
「まぁ元は同じ様なもんさ
んな事より飲むぞ!
んな通夜みてぇな顔で飲むな!
酒が不味くなるやんか!」
と、飲兵衛の中へ入り酒を注ぐ
後はもう隼人の事なんか眼中にないかの様に飲みまくり………飲兵衛の夜は更ける
何か言いたい気もあるが………
何も言えない
言葉が出ないからだ………
康太も何も言う気ないのか?
一生と仲良く飲んでいた
「で、答えは出たのかよ?」
康太はボソッと小声で問い掛けた
一生は何もかもお見通しか………と苦笑した
「あぁ、今度話を聞いてくれねぇか?
烈も込みで聞いてくれねぇか?」
「あぁ、何時でも聞いてやるぞ!
でもな………烈が色々と問題抱えてて……時間取れるか?解らねぇんだよな!」
「其れよりも………何故紫園が住み着いてますの?」
聡一郎は観世音家の御家騒動のニュースを開いて見せた
一生はそれを見て言葉を失っていた
「観世音って……あの観世音だよな?
なら彼奴は菩薩の倅って事なのか?
其れともそんな縁は今世はないのか?」
「嫌々 何時の世も彼奴は菩薩の倅で、芸道を生きる能楽師としてしか生きられねぇだろ?」
「なら愚かなだな……追い出してもあの才能には勝らねぇだろ?」
「其れでもな人は夢見るんだろ?」
「まぁ夢見ても………烈に禍根も残さず消されるんだろうな…………」
「何故そう想う?」
「だってあの髪、戦闘モードだろ?」
「まぁ桜の季節からずっとあぁだぞ?」
「え!俺がイギリスに行く前からだよな?
なら相当大きい何かが来るのかよ?」
「だな、鳳凰が生まれるからな……」
「紅花、卵産んだのか?早くね?」
「少し早いが元気だそうだ!
そして誕生の瞬間……禍が降り注ぐからな………
魔界は鳳凰は二代目で前回の誕生の時は天魔戦争を更に熾烈に破滅へ向かわせた……と言わしめ……破滅の災害を齎した…とまで謂わせてる禍を撒き散らしたからな
烈も用心するってもんだ!
そして烈のまわりの女が次々と孕むのは……そんな生存本能を掻き立てられてるのかもな……
人は最後の瞬間 子孫を残そうとするから、まさに今、そんな感じになってる!」
「……言葉もねぇよ………」
「そして止まったままの時間も動き出し………
人は悪足掻きの日々を送るんだよ!」
「…………」
後は言葉続かなくて、静かに飲んでいた
烈は自分の部屋に竜馬を呼び、編集に取り掛かった
烈を心配してメンバーがやって来て、RODEOÑやStrong Hiの奴等もやって来た
皆でわいわい編集をする!
すると其処へ翔達が飲み物の差し入れをしてくれた
「翔にー有難うね!」
「烈………赤ちゃんと一緒にいた?」
と翔は突然……問い掛けた
烈は「ええ、いたわよ!」と答えた
「その子………とんでもない力持ち?」
「そうよ?どうしたの?」
「その子……烈の横にいるわよ!」
「え!嘘!ボクは眼がないから霊じゃないのは視えないのよね………
しかもボクはホラーは嫌いなのよ!
本当に止めて欲しいわ!」
と烈は震えて嫌な顔をする
霊なら視えて祓うのに………と、翔は笑い………
「僕………その子に呼ぼれてるわ……」
「え?嘘………なんて言ってるの?」
烈は慌てて問い掛けた
「真贋と共に来い!と言ってる………」
翔は烈を視て、そう答えた
「………なら明日一緒に行きましょうね………」
呼ぶのは何か意味があるのか?
はたまた………何か策略があるのか?
解らないが………行くしかないと思っていた
翔は飲み物を運び終えると、烈の部屋を出て行った
編集は夜中まで続き、メンバー達は客間の飲兵衛と合流して朝まで飲んでいた
子守唄のプロモも完成した
RODEOÑとStrong Hiのメンバー達は、週明けに帰国する事になった
隼人の新曲のプロモと子守唄のプロモも完成した
写真集の写真も選出され編集部の方へと回され、印刷所へ依頼された
特典の新曲はBlu-rayが付くと告知した
値段は強気の15000円!
予約特典で隼人のポストカーをランダム配布と付けた
写真集に入ってない写真をランダムで付ける
今回の写真集は予約印刷となり、予約した人だけが購入出来る通販となった
書店に置く事のない出版となった
其れでもショートVerの宣伝CMをYouTubeに流すと、話題となり予約はかなりの数を叩き出していた
予約した以上はキャンセル不可となる同意書に✔いれないと予約出来なくしてあるから、キャンセルしてもお金は取られてしまうのだ
そんな購入方法を烈の指導の元、初めての取り組みだがやるのだった
須賀も柘植も相賀も、初めての取り組に勉強させられ、自分達の事務所でも取り入れよう!と話をしていた
其れには、新しい風を是非にも取り入れたいのだ
全国オーディションキャラバンを三社合同でやりたいと、思っているのだ
それにはやはり烈の存在は不可欠なのだ………
が、その当事者は………音信不通になっていた
烈は宴会の翌日以降、音信不通になっていた
飛鳥井の家族には連絡は着くけど、烈だけには連絡が付かないのだ……
無論 烈の両親は『烈関係をオレに聞くなよ!視えねぇし、何やってるかなんて知るか!』と、一蹴される
取り敢えず竜馬には連絡は着いたが、メンバー達はイギリスへ帰国してて【R&R】としての活動はリーダー待ち………と謂われる
神野達は………烈が連絡をして来るのを待つしかなかった
街を歩けばRODEOÑとStrong Hiの新曲が流れている
全米でも倭の国でもイギリスでも流れまくっている曲だった
隼人と早瀬はまた忙しく仕事する事になった
隼人はあの日から………烈を目にする事はなくなった…………
その烈だが、宴会の翌朝
翔と康太と榊原と弥勒と共に菩提寺へ行って、赤児と遭っていた
弥勒は赤児を見るなり……その強い力に眉を顰めた
康太も「此れは緑道を越える………神の領域を持ってるやんか!」とボヤいた
榊原は赤児を抱き上げ
「君は性別はどっちですか?」と問い掛けた
烈が「多分男の子よ、鷹司青葉が妊む子は男子のみ………だからね……」と謂う
「なら君は一希(いつき)を名乗りなさい
一縷の希望を抱いて生きる強い子になりなさい!」と名を付けた
烈は「飛鳥井一希………あ、母ぁーさん!」と叫んだ
康太も「あぁ、解ってる!名を付けた瞬間、この子の果てが決まった!」と果てを視て謂う
康太は一希を抱き上げて「共に生きようぜ!乱世の世を!」と口にした
赤児はニャッと嗤うと
『元より承知、我は乱世の世を正す為だけに、この世に産み落された
鷹司ではなく、貰われた先の子になる為に命を永らえさせた!
其れは鷹司青葉が………鷹司の終焉を詠んでしまった故に起きた悲劇……
巫女の青葉は鷹司が終焉を迎える事を許しはしなかった
だからより力を持ち、より能力に長けた子を望んだ
其れが我だ…………
が、青葉は鷹司の理を揺るがしたとされ神に処刑された
青葉はそれを笑って迎え………消えて行った
『どんなカタチであれ鷹司が遺るならば、我のした事は無駄ではなかった!』
と、遺し消えた
そんな我は鷹司の神に生かされ、外に出された
其れは鷹司が歪む事を懸念しての事!
我は恨んてなどはおらぬ!
が、我は理を外れた者として………鷹司には関われぬが………鷹司に影響を持てる家へ行きたいと願った!それを叶えて飛鳥井の者を寄越してくれた
其れが全容じゃ!』
と、皆の脳に直接話しかけて来た
弥勒は「鷹司の終焉……確かに緑道は死にかけ、下手したら鷹司は当主を失い瓦解する所だったわな!」と謂う
康太も「だな、何処まで逝っても鷹司青葉は家の為に生きたか………それで消されるなど哀れだな……」と呟いた
烈は「青葉の名誉の回復はそのうちしてやるわ!
総ては家の為、家の存続の為、其れ以外に無いのならば、鷹司は認めて受け入れるしかない!
消されたと言っても、青葉は鷹司の輪廻の枠に入れて次に強い巫女が生まれるまで転生するわ!」と言葉にした
康太は「だよな、でねぇと鷹司の次代は誕生すら出来ねぇだろうからな!」と謂う
力の強い子を孕めば、母体の方が負けてしまい死産となる
腹の中で死ぬか?生まれて後に死ぬか?
母体が弱ければ、生まれた子に何らかの影響は出るのだ
況てや神と契る事など………生半可の力持ちでは不可能となるのだ
榊原は「この子は飛鳥井が引き取りましょう!
まぁ一人増えるも二人増えるも同じ事!
一陽やプーには仕事を作ってしまいますが、其れも皆で手分をけすれば不可能ではないでしょう!」と言ってくれた
康太は「………伊織、その真意は?」と問い掛けた
「その子ね、昨夜から僕の所に来て、延々と理に着いて話をしたりしていたんですよ!
で、根負けして………解りました!君は飛鳥井で引き取ります!
その代わり他の子に影響を及ぼしたら………消しますよ!と釘を差したら、総て承知!と答えられました!なので引き取ります
昨夜から名前を考えていたんですよ!」
榊原の言葉に成る程……と納得した
翔も「その子………僕の所にも来てましたし、烈の横にずっといました……」と謂う
烈は「ボクは視えないのにね、本当にホラーだったわよ!止めてよね!」とボヤく
赤児………嫌 一希は翔を見て
『其処の者の本来の姿を、此処に導いてくれた礼に開眼させてやろう!
近い内に開眼の儀をやるとしようぞ!』と嗤った
烈は「あ~其処まで規格外な事しちゃ駄目よ!
飛鳥井の家に行ってからやってね!
まずは戸籍を作らなきゃ、だから!」と謂う
『それは残念な事じゃ………ならば近い内に……じゃな!
真贋と宗右衛門よ、儂は飛鳥井の礎に入って今後は転生をしようぞ!』
康太は烈を見た
烈はそれを受け止めて
「ならば貴方は飛鳥井の家が道を外れない為に、軌道修正を掛ける為だけに転生を果たし、1000年続く果てへと次代の宗右衛門と共に導く存在になって下さい!
是正を司る者となり飛鳥井を果てへと正す者となれ!」
と宣言した
康太は「ならば菩提寺の忌日に遺さねぇとな!
此れより、飛鳥井が道を逸脱しそうになったら、鷹司が道を逸脱しそうになったら、是正を司る者として転生して正しき道へと導く者となる存在と記す!」と告げた
「今世はラッキーね、入れ替わりの顔見せに是正を司る者まで手に入れられたんだから!」
「だな、それ程に世紀末って事なんだろ?」
康太と烈の言葉に一希は
『鳳凰が誕生するのであろう!
ならば主等の家の継ぐ子は能力の底上げが必要となるであろう!
今のままだと吹き飛ばされ、ミジンコにされても文句など言えはせぬぞ!』
と告げる
「ならば戸籍を手に入れ飛鳥井に来たら、それは貴方の役務にしちゃうから!」
と烈は謂う
『神祖………おられるのだな……
主は神祖の信頼も得ているのだな………』
「信頼を得てるかは解らないけど、愛なら沢山あげてるわ!
なんたってボクの子だから!」
『ならば、儂も主の子になる!
初めて視界に入れたのは主だから、主を親として孝行するとする!』
「なら愛でもって育てないとね!」
『……なんか胸の中が暖かくなる………
何なのだ?この感情は…………』
康太が「それは嬉しいと謂う感情だ!
お前はこれから、そんな沢山の感情を知る事になる!だから曲がらずに逝け!良いな!」と告げた
『承知した!疲れたので寝る事にする!』
と言い一希は眠りに落ちた
烈は孤児院のスタッフを呼び寄せ、一希をスタッフに預けた
連絡を受けやって来た孤児院のスタッフに
「飛鳥井神威が手続きをしに来るから、そしたら飛鳥井の誰でも良いから戸籍に入れさせるから、其れまで孤児院で面倒見て頂戴!」
孤児院のスタッフは一希を受け取り
「承知しました!それでは総ての手筈は神威弁護士にお願い致します!」と言い連れて行った
想ったよりも早く片付き烈は大きく息を吐き出し安堵した
烈は「この機会だから、カズ呼んで話をしましょうか?」と問い掛けた
康太は「だな、話をしたいと言ってたしな!」と謂う
「ボクはこの後少し消えるわ!
弥勒と共に潰しに逝かないと駄目な所が在るからね!」
その為に弥勒は菩提寺にまで着いて来たのか?と納得した
康太は「なら保養施設の3階に移動するとするか!」と言い、保養施設の3階に移動した
榊原は一生をラインで呼び寄せた
「菩提寺の保養施設の3階に来て下さい!」
そうラインすると、即座に一生から
『解った!直ぐに行く!』と返信があった
暫く待つと一生が保養施設の3階に姿を現した
一生は榊原からのラインだったから康太と榊原だけかと思ったら烈がいて驚いていた
榊原は一生を座らせてお茶を淹れに向かった
康太は「案外早く話を聞く時間が取れたわ!」と謂う
一生は康太を見た
康太は「話がしてぇんだよな?なら話せよ!」と促した
一生は暫し沈黙して………覚悟を決めて静かに話し出した
「イギリスに到着して暫くして力哉から話があった……
俺は何の話だろ?と思った………
すると力哉から別れを切り出された………
少し前から考えていて………イギリスに来てその考えは………決意へと変わった………と言われた
力哉は近い内に飛鳥井を出る…それで俺との仲は終わりだと謂われた……」
辛そうに話す一生に康太は困った顔をしていた
何となく………力哉が一生と別れる未来は視えていたのだ………
だからと言って何が言える?
烈はずっと黙ってPCの画面から目を離さずにいた
康太は烈を見た
その視線を感じて烈はPCの画面から目を離す事なく
「………で、カズはどうするの?」と問い掛けた
「え?……」
「呆けないでよ!話をしてるんでしょ?
ならその問いに答えないさいよ!」
と呆れて言う
一生はグッと奥歯を噛み締めて
「………俺に………引き止める権利なんかねぇよ!」と答えよ
「権利か………そんな権利誰にもないわよ!
権利とかじゃなく………って言っても……今のカズは聞く耳持たないんでしょうね……」
一生はムスッとして「其れはどういう意味だ?」と喧嘩腰で問い掛けた
烈はPCの画面から顔を上げると一生の瞳を貫いた
「貴方は何故その台詞をリキちゃんが吐いたか?解らないでしょ?」
「解らねぇよ!解れと言うのかよ!
俺はそんなに物わかりの良い男じゃねぇよ!」
「愚鈍で鈍感で時々周りも見ずに突っ張る
そんな貴方じゃ見えない事の方が多いんじゃない?」
一生は爪が食い込み血が出そうになる程に………強く握り拳を握り締めた
「止まった時間も動かせない自分の癖して、人にばかり求めるのは止めなさいよ!」
辛辣な言葉の暴力だった
一生は握り締めた拳に爪が食い込みを……血を流していた
そんな一生を烈は冷たい瞳で見て
「まさか、永遠に一緒にいられると思った?
ならば貴方は永遠に一緒にいられる為にどんな努力したのかしら?」と問い掛けた
烈の熾烈な言葉が一生を追い詰める
「永遠に一緒なんて夢物語よ!
なんの努力もしない奴の元に来る幸せなんでないわよ!」
と現実を告げる言葉を吐く
解ってるさ……
解ってる…………そんな事は……
だが少し位………夢見たって良いじゃないか!
それを愛だと………求めても良いじゃないか!
「切り出された別れの真意も見極められない
何故なのか?貴方解らないし、知ろうとしない!
なのに未だに悲劇の中にいるのは止めなさいよ!」
一生の心が限界を迎える
総ての心を暴かれ弱い自分と向き合わされる
一生はそんな遣る瀬無い想いを見せつけられて………テーブルを思い切り叩いて
「解ってるよ!そんな事は!!」と叫んだ
「解ってないわよ!貴方は!」
そう言い烈はツカツカと一生に近寄ると、胸倉を掴んだ
「貴方はリキちゃんの心を何も知らないわよ!」
康太は烈が殴られないか………と警戒して、慌てて止めようとする
が………烈は思い切り一生を抱き締めた
一生は呆然として
「烈…………」と呟いた
怒りも………理由の解らぬ衝動も……総て包まれ、一生はやっと目が醒めた想いをする………
「戸浪の家系は後継者以外は短命なのよ!
其れは………代々そう言う契約を結んたからなのよ
後継者問題で一族が殺し合わない様に、神祖海神(わだつみ)が戸浪と結んだ契約なのよ
そして戸浪の直系男子は………体内に悪い物(癌)を抱えて他界する
それは戸浪が存続する為に決められた理だから、誰一人例外なく
戸浪本家後継者以外の兄弟は短命とされてるのよ
戸浪宗玄は後継者を戸浪海里に指名したから……
リキちゃんの父親は………今のリキちゃん位の年に癌で他界してるわ!
だからリキちゃんは、それを知っているから常に健康管理には気を使ってるのよ
でも春先の健康診断で再検査が入ったのよ
リキちゃんはイギリスへ行った時には………検査の結果を知っていた………
そして一生には内緒にして………と謂れ幾つかの病院へ検査をしに行っているわ
オリヴァーがその手配をしてボクの耳には入ってるのよ!
リキちゃんはそんな検査の結果を見て………自分の中には戸浪の血が流れてて長生き出来ないの知ったのよ
自分を亡くして………一生が生きられるのか?
どう考えても一生よりも自分は早く死ぬ運命だと知る
リキちゃんはずっと悩んていた………悩んで悩んで………出したのよ答えを
…………その結果が貴方に別れを告げる事よ!
死して別れを告げたならば……貴方は追い掛けて来てしまうかも知れない……
そうさせない為に告げた別れなのよ!」
一生は言葉もなく………烈を見ていた
そして止めどなく涙が溢れて…………止まらなかった
「リキちゃんは魔界へは逝かない!
それは神のいる世界に何も力を持たない自分がいるのは耐えられなくなるから…………
だから次に転生するならば、ちゃんと笑って幸せだと感じられる家族の子供として生まれたい………と結論を出したのよ
もうじきカズの止まっている時間も…………否応なく動き出すわ
もう逃げ道なんてないわ…………
リキちゃんを亡くせばまた時を止める?
それは彼は望んでないのよ……」
真実を聞かされ………一生は烈に助けを求めた
「烈………烈…………俺はどうしたら良いんだ?」
「愛してるなら離れない選択をしないよ!
今世だけにしても、悔いのない日々を送りなさいよ!
死した時、二人が時を分かつまで……一緒にいる道を選びなさい!
そして死したら………ちゃんと見送ってあげなさい
まぁボクもね魔界で何の力も持たない奴として生きていた時は、辛かったわ………
だからリキちゃんの気持ちは解るのよ
相手が神ならば尚更……生きる世界の違いを感じて臆病になるのは当たり前じゃない!
そして出来る事ならば………違う自分の人生を送りたい想いを夢見るのよ………」
一生の嗚咽が部屋に響く
「カズは常に皆の中心にいる存在でしょ?
だから解らないだろうけど………力のない奴が魔界で生活するのは本当に大変なのよ
夏海が良い例でしょ?苛められ蔑まれ………其れでも生きて来たのは愛かあったから………
雅龍が愛する妻を全力で守り支えたからなのよ
それを感じられないならば、当の昔に命を絶ってたわよ!
熾烈な虐めの矛先にいなきゃならない自分は、本当につらくて惨めでやるせないモノなのよ
明彩でさえ心は折れて廃人のようになったじゃない…………
ボクなんか復讐に燃えて、復讐する事だけしか考えられなかった………そんな奴もいるのよ………
そんな場に………リキちゃんは逝かせちゃ駄目でしょ?」
優しい烈の声が一生の心に染み渡る
「そんな事………考えもしなかった……
俺は…………俺は永遠に一緒だと思っていた………」
「永遠に共にいるのは、当たり前の事じゃないのよ!父ぉーさんや母ぁーさん達も何もせずに永遠を共になんか出来ないわよ!
まぁカズはカズなりに愛してる者を大切にしているのならば、此処で止まった時間を動かしなさい!
永遠に時間は止まらない
鳳凰が誕生する今、そんな生易しい事はさせてはくれないのよ!
だから腹を括りなさいよ!カズ!
この先は生半可な思いじゃ………へし折れてしまうしかない!
貴方は炎帝が友なんじゃないの?
共に生きて来た悪童なんでしょ?
ならば乗り越えられない壁なんかない!
違うかしら?」
「違わねぇ!俺は赤龍!誇り高き四龍が一柱だ!
そして緑川一生だ!飛鳥井康太と共に生きて来た四悪童だ!」
「なら向き合いなさい!
その前に止まってる時間を動かさなきゃ!
って事で弥勒!お願い!」
烈が謂うと弥勒は指をポキポキ鳴らしながらやって来た
「おう!任せとけ!」と謂うと、全力で一生を殴る満々で一生の前に立った
榊原が背後に立ち受け止める準備が整うと、情け容赦なく一生は殴り飛ばされた
吹き飛ばされた一生は、榊原が受け止めた
「目を醒ますのよカズ!」
烈が謂うと、一生は憑き物が落ちた様な顔をして
「あぁ、目が醒めた!
有難うな!烈!」と礼を言った
「カズ、久遠先生ぇーには話は通してあるから、リキちゃんを引っ張って行きなさい!
ステージ2程度でこの世が終わると悲観してんじゃないわよ!とボクが言ってたと伝えといてね!
寛解するまで気の長い作業になるだろうけど、二人で力を合わせて乗り越えて下さい!」
「………あぁ……」
一生は烈に深々と頭を下げた
烈は「さぁ弥勒行きましょうか?」と謂う
弥勒は「おー!逝こうぜ烈!」と言い、二人して神の道を開いて………消えた
一生は「何処へ行ったんだ?」と康太に問いかけた
康太は「知らん!烈関係の事をオレに聞くな!」とボヤいた
榊原が「次は神取羅刹……もとい、飛鳥井蓮を討たねば、飛鳥井の株価は常に操作されてるので、動いたのでしょう!」と謂う
一生は康太を見た
康太は「総ては宗右衛門がカタを取る!それにオレは口も手も出しちゃぁならねぇんだよ!」と答えた
一生は言葉もなかった
康太は「そう言えば戸浪は短命なのか?
万里の弟の千里を養子に出して戸浪と縁のなき者になったのは………その所為か………
神祖 海神に頼み千里を戸浪の轍から外し、関係なき者にした
其れでも力哉は短命の宿命までは変えられなかったか…………」と呟いた
「俺は力哉がなんと言おうと、今世だけでも離れる気は皆無だから、最期まで一緒にいる!」
「なら直ぐに久遠に連絡を入れて動いて貰えよ!
烈が出てるなら美緒辺りを使い、高名な医者だってチョイスしてくれそうだ!
其れで二人が年老いて天寿を全うするまでは、共にいられるだろ?
まぁ魔界に行ったら伴侶でも探せよ!」
「魔界へ行っても俺は、独身のまま扱き使われそうだ!」
「まぁそれも人生だ!」
康太が楽しそうに笑うから………一生は其れでも良いと思えた
ならば今世は悔いのない日々を送ろう…………
一生は立ち上がると「なら行ってくるわ!」と言い歩き出した
康太は笑って「健闘を祈る!」と言い送り出してやった
榊原は何も言わず見送った
康太は「あぁ………一生の止まっていた時間が動き出した………」と呟いた
あの夏………愛する人と無理矢理別れさせた日から止まっていた時間が動き出した
無理矢理に動かした時もあった
だがそれは不本意な行為だと………時を刻ませるのを諦めたのに………
今 一生の時は刻まれ………動き出したのだ
カチカチと時を刻む音がする
一生は今を生きる決意をして、時を動かしたのだ
榊原は「誰にも告げず内緒でポリープのオペしちゃう子ですからね………一筋縄では逝かないんでしょうね………」とボヤく
「………其れでも彼奴は頑張るさ!
烈に結構追い詰められてたからな………烈を殴り飛ばすんじゃないかってヒヤヒヤしたぜ!」
「本当に………彼は容赦が有りませんね!
真髄を針でズブズブ突き刺して目を醒させるんですから………」
「だな、あそこまで追い詰めるなよ……と、思っちまった……でもあそこまで追い詰めなきゃ、本音すら吐かねぇからな………」
「まぁ何はともあれ、今世紀最大の禍(わざわい)が来る前に踏ん張れる様になりましたね!」
「だな、何か最近、一生はオレよりも烈の謂う事の方が良く聞くんだよな?」
「あぁ、それ僕も想いました!
まぁ百戦錬磨の宗右衛門ですから、生温湯に浸かっていた赤いのなんて赤子の手をひねる位のモノでしょう!」
「ったくな……でも永遠に一緒って中々無理なんだな……」
「………力のない者が………魔界へ行き許可され暮らすとしても………それを由としない者もいますからね………難しい現実が壁となりますからね………」
「オレも………昔はかなりイジメがあったな……
オレは屁でもなかったし、兄者と黒龍が常に共にいてくれたからな………其処までのイジメは体験してなかったけど………
熾烈なイジメに日々窶れて行く想いをしてる奴等には………地獄なんだろうな………
まだ地獄の方が生温いかもな………精神的には追い詰められねぇからな………」
地獄で更なる地獄な日々を送る……
想像を絶する日々なのだと想う
康太は「さてと、週明けからお仕事だから、家でダラダラして過ごそうぜ!」と謂う
榊原は優しい笑みを浮かべ
「それは良いですね!」と言い飛鳥井の家へと帰って行った
家に帰ると、お引越しの真っ最中で、家族は荷物を纏めては台車に乗せていた
玲香は「烈から連絡があり病院の裏に帰るわよ!との事じゃから、皆して荷物を纏めておるのじゃよ!」と告げる
慎一が「荷物を運び終わったら、ハウスクリーニングの業者が入ります!
そして皆がまた暮らす時も来る時も出て来るので、管理会社の者が管理をしてくれるそうです!」と告げた
康太と榊原も部屋に行き、荷物を纏めた
そして運びだし病院の裏の家へと異動する
病院の裏の家の玄関のドアを開けると、甘い花の香が充満していた
流生の温室の花が綺麗に咲いているのだろう………
皆 部屋に荷物を移動させていた
兄達は烈の部屋の荷物も持ち、部屋へと移動する
そして自分達の部屋に荷物をいれるよりも早く、弟の部屋の片付けをしてから、自分達の部屋に荷物を入れた
その後は窓を全開に開けて、空気の入れ替えをしてから、掃除を始めた
慎一はヨーコの荷物は総て隼人の部屋へと移動させ、ヨーコが使うべく部屋は一陽の部屋となった
リフォームして部屋を増やしていたのだ
慎一から「ヨーコは隼人の部屋へ移動なさい、との事です!その部屋に一陽が住みますから!」と告げるとヨーコはショックを隠せずにいた
「もう………我は居場所がないのか………」と謂う
慎一が「あ~、そう言うのとは違うから!
隼人が妻だと公言したから、夫婦ならば同じ部屋に!との事ですから!」と謂うとヨーコは頬を染めた
隼人はヨーコと共に部屋に荷物を入れた
ヨーコは気配を消して育っていたのか?
同じ空間にいても、気にならない存在だった
隼人は神経質だ
役者として台詞を覚えている時は、殆ど部屋に閉じこもり覚える
そんな時に邪魔されると否応無しで、相手を嫌いになる
が、ヨーコは隼人が役に集中しているならば、と仕事するのだ
自分の部屋で仕事して、隼人など構わない
其れがやけに心地よくて……ヨーコを大切にしたい!と想う様になったのだ
隼人の部屋は二部屋とリビングがある
其々一部屋を自分の部屋にして共有スペースに、互いの共有のモノを置く事にした
すると、とても心地よい空間が出来上がっていた
そんなこんなで、引っ越しは終わり、病院の裏に住む事になった
近い内に新居は出来上がる
そしたら本格的な引っ越しとなるのだ
引っ越しが終わり皆 リビングにやって来る
その中に烈の姿はなくて……何処へやら行って留守だった
榊原と康太もせっせと、片付けをして一段落するも、ソファーで一休みした
すると、やはり我が子の事が気に掛かる
康太は「怪我しねぇと良いんだけどな………」と心配して呟いた
榊原も「本当に………僕は君と烈の心配ばかりしてる気がします………」と言葉にした
「すまねぇな……オレ等はこんな風にしか生きられねぇかんな!」
「解ってます……でもまさか我が子の心配までせねばならないなんて……思ってもいませんでしたよ!」
そう言い榊原は笑う
その顔に………康太はド直球で欲情した
そんな艶めいた康太を目にして、榊原はベッドへ直行して行った
ベッドに押し倒し執拗な口吻して、体を弄る
ズボンの中の股間が…………痛い程になり………
後は欲望のまま………互いを貪りあった
飛鳥井の家族は引っ越しを終えて、病院の裏に戻って来た
一生は嫌がる力哉を捕まえて、久遠の所へ行った時には、烈から連絡が入ってるのか?
久遠は「おー!力哉、やっとこさ来たな!
烈がステージ2でこの世が終わったみたいに悲観してるんじゃねぇ!って言ってし、やる事をやらずに悲観するのは俺が許さねぇぞ!」と迫力で言う
そして「さてと専門の病院へ連れて行くから、一生 お前は帰れ!入院決まったら慎一に連絡入れてやるし、さっさと帰りやがれ!」と追い出された
そしてタワマン横に帰ると引っ越しの真っ最中で、一生は力哉と自分の荷物を纏めて持ち運びしていたのだった
そして病院裏の家の引っ越しも終わり、慎一が作った引っ越し蕎麦を食べていると………
康太と榊原の不在に気付き一生は
「新婚はベッドの上が………」とボヤき蕎麦を食べていた
聡一郎が「子供の前で止めてよね!」と怒る
「この中で本当に初いのレイだけやんか!」
レイは首を傾げて「うぶゅ?」と問い掛けた
聡一郎が「気にしなくて良いからね!」とお蕎麦を食べさせた
「穢れなき存在の耳を汚すのは止めなさいよ!」
「はいはい!」
一生が答えるとレイの飛び蹴りが飛ぶ
「はい は、ひとちゅ!」
「んとに烈の教えかいいな!」とボヤく
皆が蕎麦を食べ終わる頃、康太と榊原がキッチンへやって来た
聡一郎と慎一と一陽は二人の蕎麦を用意する
一陽が茹でて、慎一が冷やす、聡一郎が麺つゆを用意して食べさせる
レイはニコニコ笑いながら、デザートの杏仁豆腐を食べていた
康太は「良いの食ってるなレイ!」と声をかけると、レイは笑顔で「あんにょん!」と答えた
聡一郎は「あいみょんと杏仁掛け合わせた新語ですかね?」と笑う
そして響と奏にもスプーンで掬ってたべさせてやっていた
「「うみゃい!」」も双子はご機嫌だった
そんな中【R&R】のメンバーは何故か難しい顔をして、杏仁豆腐を食べていた
一生はそっちも気になるから「どうしたのよ?」と問い掛けた
竜馬が「航空会社のCMをやる事になってるんですよ!
で、リーダーからより飛行機に乗ってる感満載の空の旅!って映像を撮りなさい!と言われてるんだけど、飛行機の何処らへんにカメラ仕掛けたらより一層、飛行機に乗ってる感味わえるのか?
悩んてるんだよ!」と話す
「飛行機の旅か………実際飛行機は雲の上を飛ぶ
でも中々CMとか見てると、座席に座って空の旅を飛んでる飛行機の映像は流れるが、臨場感なんて味わえねぇからな………
だから初めて飛行機に乗った奴なんて、空の上にいるって事に感激するだろうし、窓の外を見ていたくなるんだよ!
北斗がそうだったぜ!
飛行機は初めてじゃねぇが、今までは外が見れる席じゃなかったから、って言って窓際の席に座らせたらずっと外見てたからな
夢中で外を見ていたぜ!
本当に雲の上を飛んでるんだね
時々雲の中を飛んでるのが解って、何だか嬉しいって言ったからな!」
竜馬は「雲の中!烈は直ぐに寝ちゃうから見てなかったよ!」と謂う
康太は「彼奴は神眼持ってるから、寝てても景色は見えてるぜ!
360度全方向から視えるからな!」と謂う
「真贋?こーちゃんと同じ?」
「違う、神の眼で神眼、彼奴は寝てようが起きてようが、外を視えてるのは変わらねえぞ!
だからこそ、飛行機の飛ぶ姿が頭に浮かぶんだよ
そして飛行機の旅ならば、やはり雲の中、乱気流に揺れる機体、そして雲が流れる自然と一体になり空を飛ぶ飛行機とか解ってるんだよ!」
「え?烈ってそんなに凄い子なの?」
「神眼は素戔鳴尊が持ってる第三の目だ!
それは倅にも受け継がれ、孫にも受け継がれてる能力だ!
神の力は継承だからな、親から子へ、そして孫へ継承されて行くんだよ!
素戔鳴尊は天地の天候も変えられ、見えない世界を視る
そして倅の大歳神は大地に愛されし素戔鳴尊の妻の力も継承してる
だから歳神を名乗れるんだよ
なんて種明かしを話してみたりして!」
と言い康太は笑った
竜馬は「空……空……カメラで曇ってどうやったら撮れるんだ?」と思案して言う
一生が「なら飛行機の後ろから飛んでやろうか?」と謂う
竜馬は「え!そんな事……良いの?」と謂う
「良いぞ!協力出来るならしてやるさ!」
「ならデルタス航空と撮影の日程を決めた日にお願いだよ!一生!」
「了解!」
そんなやり取りを見て康太は「一生!どうなったよ?」と問い掛けた
一生は顔の引っかき傷を指差して
「何かめちゃくそ暴れられたし、変態扱いされぜ
でも無理矢理担ぎ上げて、病院へ連れて行った
久遠が帰国してて、烈から連絡来てるから、って俺が言おうと思ってた台詞も言われた…」
「なら専門病院に入院したのか?」
「今は検査の為、正式に入院する時、慎一に連絡するって……俺に連絡じゃなく慎一だぜ!」
とボヤく
が、康太は笑い飛ばして
「だってお前、イギリスに行く時にハイスペックな携帯にするって変えたやんか!
久遠はそれを知らねぇから慎一に連絡するしかねぇやんか!」と教えてやる
一生は「あ!!忘れてたわ!明日にでも久遠に電話番号を教えねぇとな!」と謂う
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