43 / 62
第43話 着実邁進 ❶
屋敷の者は『大丈夫に御座いますお館様!
あのバスは15人までなら乗れます!』と伝えた
皆で迎えに来たバスに乗り東都日報へと向かう
神野は「アポ取ってるのかよ?」と問い掛けた
「………まだ、でも誰かしら対応してくれないかしら?今枝いたら話は簡単なんだけど、最悪、社長の名前出すから構わないわ!」
そんな問題じゃないんだけど………
が、何も言えなかった
東都日報の駐車場へ入ると警備員に来訪を告げて中へと入れて貰う
「社長か、今枝に用があるのよ!」と謂う不遜な子供の顔は………見覚えがあり警備員は即座に通した
駐車場に車を停め、東都日報、本社社屋へと進んだ
東都日報 社屋に入り直ぐに待ち構える受付に立ち烈は
「アポはないけど、今枝浩二か飛鳥井豊に会いたいのだけど?」と声を掛けた
受付は声のする方へ顔を向けた
が、目線の先に訪問者は居なくて、受付嬢は立ち上がって、カウンタースレスレに立つ子を見た
少し小さい子が尊大な着物を着て立っていた
小学生位の子が………と想い、その顔にハッとした
烈は「あ、飛鳥井烈が来たと伝えて下さい!
飛鳥井 宗右衛門でも構いません!」と謂う
受付嬢は「少しお待ち下さい!」と言い社長へ連絡した
「社長!受付に飛鳥井烈様と申す方がお見えです!」と伝えた
すると『すぐにお通しして下さい!
全社員に飛鳥井烈君が来たならば、失礼のない様にと、申し付けてありませんでしたか?
直ぐ様お通ししなさい!』と少し怒り含んた声で謂う
受付嬢は「今すぐにお通し致します!」と答え内線を切ると
「どうぞ、このエレベーターで直通で最上階へ行けます」と言いエレベーターを開けて、烈達が乗り込むと深々と頭を下げ見送った
エレベーターは直通で最上階までノンストップで向かい、最上階で降りると烈はエレベーターを降りた
阿賀屋も紫園も神野達もエレベーターを降り、烈の後ろを付いて逝く
社長室のドアをノックすると、今枝浩二がドアを開けてくれた
今枝は「どうなさったのですか?」と烈に問い掛けた
烈は何も言わず社長室へと入りソファーに座ると、肘置きに肘を付いて唇の端を吊り上げて嗤った
「莫迦なお屋敷の莫迦な御家騒動にそろそろ終わりを迎えたいので、ここいらで一発デカい花火でも打ち上げようと思ってね!」
御家騒動と聞き社長の飛鳥井豊と今枝浩二は
「観世音家の事ですか?」と問い掛けた
「そうよ、宗家を継いだ木偶の坊では継承は無理なのよ!
何故ならば、観世音は神の領域の家系!
一般の人間に表現出来る事なんて何一つないわよ!
まぁ、こんな事言ってもアタオカかと思われちゃうけどね!」
豊は「いいえ、我等は観世音の家の歴史は承知しております!
なので世阿弥と観阿弥の交互で転生なさる事も承知しております!
今の屋敷の人間に、それが理解出来なかったからこそ………愚かな夢など見たのでしょう!」と話す
烈は流石 新聞社のトップを務める存在!
極秘情報だとてトップになれば、知らされると謂う訳なのだろう…
「で、此処に観世音紫園をお連れしました!
紫園は新しく菩薩の守護される地に居を移され、観世音を継承し、宗家として世間に知ら示して逝くつもりなのよ!
で、社長にはそのお手伝いをお願いしたくて来たのよ!」
今枝浩二は「何をすれば宜しいですか?」と問い掛けた
「観世音家 宗家の離脱!
強引に家を奪われ追い出され総てを無くしたが、観世音紫園は観世音家当主として新しい道を切り開く事にした!と伝えて欲しいのよ!」
「其れで阿賀屋様と共に?」
「そうね、記者会見開くつもりだからね!
正装で練り歩いているのよ!
目立つでしょ?そりゃそれを狙ってるからね!」
烈はそう言い嗤った
今枝は「ならば、俺は俺の仕事をしよう!
で、取材今からやりますか?」と言い出した
「そうね、直ぐにお願いね!」
今枝は編集部に連絡して会議室とカメラマンと録音係の手配をした
用意出来ると今枝は「其れではお願いします!」と言い立ち上がった
慌ただしく編集部の中を、正装した三人と芸能事務所のトップが四人並んで歩く
その光景は………その場にいた者を凍り付かせて………動きを止めさせた
その場には何事だ?とやって来た雑誌の編集長 脇坂篤史が立っていた
脇坂は少し前に烈にエッセイやコラムの依頼とかした事もあるが………一切引き受けては貰えなかった
烈は横を通り過ぎ様として足を止めた
「脇坂篤史、貴方には何度かエッセイやコラムの依頼を貰いましたね!」と小さいけど存在感半端ない子供に話し掛けられて………脇坂は少しフリーズしていた
が、自分を取り戻し苦笑して
「はい、今も諦めてはいません!」と答えた
「ならエッセイなら引き受けてあげるわ!」
「え?…………」
「貴方と話せる周期が来たから、声を掛けたのよ!」
「その周期が来なかったら?」
「そりゃ永遠に無視よ!」
飛鳥井康太の様に皮肉に唇を吊り上げて話す姿は、確実に康太のお子様だと疑う余地もなく想う
「でもボク今忙しいからまたね!
お茶菓子あるなら、ヒョコッと遊びに来るわよ!」と言い歩き出し後ろ手に手を振られた
まさに台風一過……
烈が会議室に消えると……皆は正気を取り戻した様に動き出した
「凄いな……あのお子様………」と脇坂は思わず呟いた
油断したなら………次の瞬間消されてしまいそうだ
実際 人一人消すのも容易い力を持つと謂われているお子様なのだ………
破滅の序章なんて生易しい終焉や崩壊の呪文を唱えた……と騒がれているお子様なのだ………
でも目の前を通り過ぎた姿は…………
「今枝ぁ、ボクね紅茶ね、猫達はサイダーね!
他は珈琲出してくれると嬉しいのよ!」と嬉しそうに話す姿は………年よりも幼く見えた
今枝は笑顔で烈と話していた
脇坂は………今枝………お前……笑える笑顔持ち合わせたんだな………と失礼な事を思っていた
そして気を取り直して仕事へ戻った
編集部の子らは「あの子は?【R&R】のリーダーですか?」と問い掛けた
脇坂は「今は違うよ、正装をなさっていたからね、多分………飛鳥井宗右衛門として来てらっしゃるんだよ!君達、失礼のない様にするんだよ!
其れは社長からも言われてるだろ!」と注意をした
後はもう言葉もなく………皆仕事に取り掛かった
今枝は社内で一番大きな会議室に烈達を連れて行った
そして観世音紫園の取材を始めた
カメラマンが紫園の写真をパシャパシャ撮っていた
今枝は「貴方達の写真も収めても構いませんか?」と問い掛けた
「構わないわ!でもちゃんとボク等の名前を出してくれる、ならね!」
「無論です!貴方を出す以上はちゃんと名前は出します!
其れで今回の対価は?何ですか?
こんな独占取材させて貰うので対価無しでは、無いですよね?」
「対価、支払わうわよ!当然じゃない!」
「違います!我等に求める対価です!」
「ないわよ、今回は本当にボクの我儘だから、支払わなきゃならないのはボクの方なのよ!」
「いいえ、独占インタビューならば、此方は損は有りません!」
「なら三社共同事務所で四大都市圏オーディションやるから、その告知を載せて貰えれば嬉しいわ!」
「それだと貴方には何の得にもなりませんよ?」
「別にボクは得だとか損だとか思わないわよ!
対価は取るわよ!
ボクはタダ働きする程、安い人間じゃないから!
でもその対価はボクにとってその時最大と想えるモノだから、三社共同事務所のオーディションは充分対価となると判断したモノだから、それで良いのよ!」
「了承しました!
三社共同事務所の四大都市圏オーディションの告知ですね!
そのオーディションは始まる前から特集を組み、裏方の努力も伝えつつ成功を収めたいと想います!」
「ありがとう、今枝ぁ!
ボクね、今枝大好きよ!
ボクの謂う事を聞いてくれるから好き何じゃなくて、ちゃんと聞いてくれて判断してくれる!
其処に妥協も打算もない
そんな生き方がね、本当に美しいのよ貴方は!
流石 我が母が貴方の魂の輝きに惚れ込んだだけはあると思うのよ!」
「それは嬉しいです!」
最高の賛辞だと今枝は受け取った
そして仕事モードに入り、今枝はインタビューを始めた
今枝は「観世音家の御家騒動は有名な話ですが、根深い何かを感じていたのは、我らだけではない
お話出来る限りで良いので、分かりやすくお願いします!」とやはり斬り込む視線はジャーナリストだった
烈がその説明の為に口を開いた
「事の始まりは転生者 世阿弥が正妻の腹ではなく、愛人の腹から生まれた事が原因でした
愛人を作った事に正妻は怒りを覚え、日々毒を盛り死に絶えさせた
主治医を抱え込んで日々毒となる薬を飲ませ弱らせ他界させた
当主が他界すれば、自分の子が宗家を継げると思っていたが、反対する者が当然いて、正妻は反対する者を悉く排除して消して来た
今ならば観世音家が乗っ取れると、正妻は息子に宗家を継がせる為に紫園を追放した!
3年前に宗家を完全に継ぐまでは、紫園は屋敷に監禁状態で学校にすら通えなかった
学校には体が弱くて通えないと主治医の診断まで添えて………徹底的に閉じ込めた
外に出さねば自分の子供が宗家を継げると正妻は思っていた
が、正妻の息子には才がなかった
それで宗家を紫園が継ぐしかなかった
それがまた許せなくて………今回の騒動を引き起こした、それが総てです!」
「…………観世音紫園が愛人との子……それは誰が調べたのですか?」
「それはとある機関が秘密裏に調べた結果です!
そもそも芸道は引き継がれる伝統でもある
それが宗家を追い出した……なんてキナ臭い話題を調べない筈がない!」
「此れは書いても構わない話なのですか?
観世音紫園が愛人との子だなんて………」
紫園は「構いません!書いて下さい!
其処の部分を誤魔化すならば、その先の話があやふやになってしまう!
真実味のない話をする気は皆無!
我等は真実を書いて、真実を伝えて欲しいだけ!
そして………新しい道へ漕ぎ出す所存なのです!」とキッパリと伝えた
今枝はその意向を汲んで、全て書く気でもっと切り込んだ話を聞く事にした
「宗家の後継者が自由もなく、閉じ込められていたと?
その事に対して家の者は何も申さなかったのですか?」
「宗家が他界して以降は本妻が取り仕切り、総ての権力を手中に収めてからは、本妻に文句を言える存在などいなかった
そもそもが私は前世の記憶を所有する存在!
前世での繋がりもあるのに、学校に通えないばかりか、全ての通信機器も総て取り上げられてテレビすらまともに見た事すらないのです!
今世はこんな異常事態に身を置く事になりましたが、宗右衛門が私の星を詠んで下さり、反撃の好機へ導いて下さった!
なので白馬でのイベントが反撃の狼煙となり、以降私は観世音の家には帰ってはおりません!
そしてもう二度とあの屋敷には帰りません!
私は前世の継承の元、観世音の家の名を継ぎ、祝福された地へ移り住み活動して逝く事を此処に宣言致します!」
完全 反撃の狼煙を世間に公表した
今枝は一文一句、違う事なく文字を起こし伝えると決めた
そして「この映像は今夜の特番で流しても構いませんか?」と問い掛けた
阿賀屋も紫園も何も答えなかった
烈は宗右衛門の声で
「世間に公表する気で主の前に現れた!
なので好きにするがよい!
我等は負けはせぬ!
必ずや継承は続くと誓う
それがこの世に死命を持って誕生した者の務め!
我等は死命の元、生きておるのじゃからな!」と伝えた
そして「観世音紫園は今後、三社共同事務所に所属し、映画やドラマにも出て仕事の幅を広める事にした
それが観世音紫園の芸の肥やしに必ずやなると儂は思っておるからのぉ!」と続けた
相賀は「今後は紫園君がやりたい仕事を模索して、活動の幅を広げて行ってくれる手助けをする所存です!」と宣言した
烈は「シオ君!ご挨拶よ!」と謂うと、紫園は吹っ切れたような笑みを浮かべ
「観世音紫園は新しい道へ漕ぎ出し、仕事の幅を広げ、芸道を邁進する所存です!
どうか、今後も御贔屓にお願い致します!」と挨拶した
完璧な顔をした青年は、笑顔を浮かべると実に人間味の溢れた顔になった
完璧な顔故………冷たく能面みたいに感じるが、雰囲気がガラッと変わり……
何だか………モノクロがカラーに変わる
そんな変貌が新鮮で今枝は絶対に番組を押さえて流そう!と心に決めた
阿賀屋は「この後 記者会見を開きます!
なので今枝さんも是非に起こし下さい!」と謂う
この男は幾度も転生し芸道を守り続けた家の御当主
絶対に門外不出の存在なのに………
今枝は忖度もせず、泰然自若の姿で
「是非、伺います!」とだけ答えた
諂いもせず、媚もせず、己を貫くジャーナリスト
その魂は飛鳥井家真贋が惚れ込んだだけはある………と阿賀屋は感心した
烈は「此れにて終了で良いかしら?」と謂うと今枝は「はい!ありがとう御座いました!」と答えた
そして直ぐ様 編集をしに会議室を出て行った
烈は今目的の編集部へと足を伸ばすと、編集部の部屋に入って行った
「脇坂ぁ〜お菓子は?」
幼い顔して聞くから、何処か親近感が湧いてしまう
編集部の子達は皆 烈の傍に行くとお菓子を渡した
其れをクーが「烈、ヘルシーなのじゃないと久遠に怒られるって!」と止める
二足歩行の猫………編集部の子達は固まる………が、気を取りなして
「ヘルシーなのか、今はないわ!
あ!寒天ゼリーあるわよ!」
と女子社員が冷蔵庫から寒天ゼリーを持って来る
男子社員は「そう言えばリーダーはヘルシーなのしか口にしないって言ってたね!」と想います
スーが「幼い時に高カロリーと塩分増々の煎餅と和菓子食いすぎやからな!
食事制限掛けられてるんや!」謂う
ルーが「スー、お口チャックしないと叉尻尾齧られるよ!」と謂うとスーは黙った
阿賀屋も紫園も神野達もおもてなしされお茶をする
「さてと、お仕事の邪魔になるからボクは帰るわね!脇坂、お仕事根性出さないからボク遊びに来ただけになっちゃったわ!」
とボヤき帰ろうとする
脇坂は「なら編集長魂出します!お仕事引き受けて貰えませんか?」と申し出た
「其れは飛鳥井烈?それとも【R&R】リーダー烈?どっち?」
「飛鳥井烈君にです!」
「あら?ボクになの?
ボクなんて、なんてこと無い小学生よ?」
「いえいえ、貴方の世界観をエッセイにして欲しかった!
貴方が放った教育論は大人をも巻き込み、かなりの議論となりました!
そんな貴方の想いをエッセイとして連載してみませんか?
総てネットでやり取りしても構いません!
貴方の好きな様に書いてみませんか?」
「良いわよ、でも時間が合えば来たいわよ!
まぁエッセイ連載ラストを迎えた日には【R&R】メンバー全員で打ち上げしてくれるならギャラなして良いわよ!」
「時間がありましたらお越し下さい!」
「あら、でもボク今怖がられてるでしょ?」
「君は無駄な事はしない!
君は君の信念でその【力】を使う
君に近寄った位では発揮しないの解りますから!」
「あら?脇坂って本当に良い人だわ!
ボク懐いちゃいそうよ?」
「良い人か?は分かりません………が、君に何かする事はありません!」
「なら、少しお節介焼いてあげるわ!
はい、この病院に連れて行きなさい!
其れが貴方と話す周期なのよ!」
そう言い烈はクーから手渡された封筒を脇坂に渡した
脇坂はそれを受け取り「此れは?」と尋ねた
「お家に帰って見なさいよ!
きっと貴方の役に立つと思うわよ!
じゃあね、仕事の依頼はボクの方から連絡するからその時にね!」と言い立ち上がると皆とその場を去って行った
烈の猫は小さくなりポケットに入るのを…………皆は見ていた
脇坂は計り知れない子供に………
「あんな破天荒な子の親になった康太と伊織は、さぞかし大変だな………」と呟いた
規格外……そしてその分背負うべき荷物も違う
脇坂は気を取り直して仕事に戻った
因みに烈が渡した封筒の中身は紹介状だった
執筆活動を始めると脇坂のパートナーは食事さえしなくなり、不摂生が祟り入院していた
が、一向に良くならなくて……脇坂は気が気でなかった
それを何処で知ったのか…………
恐るべし子だと想いつつ…………
有り難くその紹介状を使い、パートナーは転院した
紹介状の病院の方がパートナーには合っていたのか?病状は快方へ向かっていた
脇坂は心から烈に感謝した
……が、一向に烈から連絡はなくて……エッセイの仕事の依頼は頓挫していた
と謂う経緯まである、後日談だった
東都日報を後にした烈達は、竜馬から連絡が入り元 三木淳夫記念館跡地に向かった
今は多目的ビルとしてイベントホールやライブ会場も商業施設も入った立派なビルへと生まれ変わっていた
遊び感覚と、商業施設として成り立たせる為に飛鳥井恵太 木瀬真人 城田琢哉等 製図部のホープが製図を担当し、其々の個性を活かして引いたビルだった
思い切っきり遊びのイベントホール
ライブ会場
広々とした会議場
ガラッと打って変わって商業施設、貸しオフィース、等など多目的ビルとして生まれ変わったのだ
そして10階から上は売りマンションとして、全て完売していた
地上30階 地下4階のビルはとても立派に完成していた
ビルの一角には三木淳夫の政治の功績をオブジェとして取り入れた資料館も入っていた
そのビルの広々とした会議場を使い記者会見は行われるのだった!
既にそのビルに到着している竜馬と兵藤は会見の準備をしていた
其処へ烈達がやって来て合流した
マスコミ各社には既に今日、午後四時から記者会見を開く事は通達していた
四時に開く辺り、夜のニュースに組み込む気満々なのが伺えられた
烈がやって来たのを見付けると、竜馬は傍に近寄った
「お疲れ!烈、どうだった?練り歩いた効果有った?」
「どうなのかしら?
効果は解らないわ!」
「まぁ此れからはどデカい花火上げるから大丈夫か!」
「そうね、でもお腹減ったし、スー達にシュワシュワお願い出来るかしら?」
「そう言うと思って控室に用意してるよ!
烈は伊織のお弁当預かってる!
クー達のは一陽が作ってくれたよ!
晟雅達のは慎一が作ってくれたよ!」
「父ぉーさんの!なら食べなきゃ!」
竜馬は烈を引き連れて控室に向かった
烈は然りげ無く兵藤を見て竜馬に
「拗らせてる?」と呟いた
竜馬は「あ~何とかしてやって!烈が入院中にシャルロット連れて来ようとしたけど、拒否ったからね!」とボヤく
「竜ゅー馬、クリスに連絡入れて、ボクの謂う事聞く気ないなら破談にするわよ!と脅しといて!」
「了解っす!直ぐに動くとするっす!
今夜は上のマンションで打ち上げやるっす!」
「晟雅ぁ飲兵衛仲間呼びなよ!皆 喜ぶわよ!」
神野は笑顔で「それは良い!」と言い慎一が作ってくれたお弁当を受け取った
烈は弁当を食べつつ阿賀屋に
「会見が終わる頃、緑道に話があると伝えてくれないかしら?」
と伝えた
阿賀屋は何も聞く事もなく「了解!」と言い鷹司緑道に「宗右衛門が話があるそうだ!」とラインした
緑道は最近やっと携帯を所持した
そしてやっとラインで要件は伝えられる様になった
その前までは緑道付きの御付きの者に話を通して、その御付きの者がご当主様にお伺いを立てて………と時間は掛かるし面倒臭い事をしていたのだった
烈が「維新(明治)から進化のない家だわぁ〜」と言ったから、やっと進化を取り入れた時代に合った家を目指したのだった
因みに家臣達は皆 携帯を使い家族や友人達とは連絡を可能にしていた
緑道だけが時代から取り残されてしまっていたのだった
その緑道だったが、妻 節子に教えられ、やっと携帯を使いこなせる様になって来たのだった
緑道は「了解した、何処へ行けばよいのじゃ?」と返信した
阿賀屋は「最上階に緑道呼んで良いのか?」と烈に問い掛けた
烈は「そうね、其処へ呼んで頂戴!」と謂うと阿賀屋はマップを貼り付けて送信した
そして始まる記者会見だった
四時きっかりに記者会見は始まった
通達を貰ったマスコミ各社は会見場に詰め掛けていた
当然 会見場へ逝く記者やカメラマンには阿賀屋様と宗右衛門殿には失礼のない様に!との通達を受けてやって来ていた
記者会見の進行を務めるのは三木竜馬だった
「お時間が来てましたので、此れより観世音紫園の記者会見を始めさせて貰います
司会を務めさせて戴きますのは、宗右衛門に指示を仰いでおります三木竜馬が致します!
其れでは記者会見を始めたいと想います!
最初は宗右衛門、そして阿賀屋蒼佑氏による説明、そして観世音紫園氏による説明
その後に質疑応答となりますので、宜しくお願い致します!」
立派な司会者然として姿だった
烈が育てて来た成果が此処で垣間見られた瞬間だった
烈がマイクを取り毅然とした声で
「本日は観世音紫園の記者会見にお集まり頂き本当に有り難う御座いました!
観世音紫園は、宗家を継いだにも関わらず家を追い出されました!
あの家はもう終わったも同然!
日々廃れ、日々終焉へと向かって逝く地と成り果てました!
なので観世音紫園は新しい地で、新しくスタートを切りたいと想います!
今後は世阿弥と観阿弥から続いた能楽師として築き上げた芸道を新しい地で始めたいと想います!
観音の祝福の地へと居を移しスタートしたいと思います!
当然 現在 観世音宗家を名乗るあの家は終わります!
何もかも奪い、宗家を名乗る愚か者には………
必ずや神の鉄槌が下るでしょう!
才なき者に観世音は継げはしない!
それを今後観世音紫園が立派に証明致す事でしょう!」
と言い切った
次に阿賀屋がマイクを受け取り
「観世音家は継承せねばならぬ才がある!
その才がない者が観世音を継ぐなど言語道断!
受け継がれるべき者には前世の記憶がある!
今 観世音の当主を名乗る者にそれがあるとお思いか?
答えは無論ない!
前世の記憶を所持した者は、此処にいる観世音紫園のみ!
我等は前世より絆を繋いだ者なり!
それを此処に宣言するとする!」
そう宣言した
阿賀屋は、マイクを紫園に渡した
「私は観世音紫園、前世から受け継ぐ継承者の記憶を所持する正当な後継者として、此処に宣言致し、新しい地へ移り芸道に邁進する事を此処に宣言致します!」
と言い、紫園は観世音家が今までして来た経緯を話し始めた
物心付く頃に父は他界した
宗右衛門が言うには、観世音宗達は日々少しずつの毒を盛られを、弱らせられ他界したとの事だった
宗家は自分の子が継ぐ!と本妻は言ったが、反対され想い通りには逝かないから、反対する者を排除して全て自分の思い通りになる【今】を築き上げた
最初から紫園は消すつもりで、学校にも通わせず、外部に知らせずに本家の子は本妻が産んだ子一人と宣言して表は本妻の子だけ見せて来た
が、紫園が二十歳を超え宗家を、継がねばならぬ現実が来て………隠しても置けないと………
嫌々 宗家を継承させたのが三年前の23歳の時!
が、本妻は隙あらば紫園を消そうと狙っていた
そして白馬のイベントで家を開けた時に、紫園を追い出し行動に出た
観世音 本家継承者として本妻の子が宗家を継承した
が、紫園は既にその時には新しい地でスタートを切る事を決めていた
其れ等を、全て明らかにして御家騒動は幕引きとなる
記者達はその壮絶な状況に言葉もなかった
観世音紫園が新しい地でスタートを切る
それを広く世間に広める
其れは………今 宗家を名乗ってる者と、観世音紫園を同じ土俵に上げて、違いを比べられる事となるのだった
才能がモノを謂う現実が突き付けられた事となるのだ
質疑応答は無難なモノばかりで、敢えて阿賀屋と宗右衛門を敵に回す気はない事を知らせる様に友好的に扱われていた
まぁ誰も破滅の序章や終焉の章を唱えられたくはない…………と謂う事だった
質疑応答が終わると相賀 和成が口を開いた
「観世音紫園氏は我が三社共同事務所に席を置き、テレビの仕事も始めて、視野と見聞を広げて逝く所存ですので、何卒今後とも御贔屓にお願い致します!」
と貫禄の〆を放った
相賀和成、その名は芸能界に轟き、著名人、有識者の知人友人を持つ芸能界のドンと言っても過言ではない存在だった
その相賀が出て来て、三社共同事務所で仕事をさせると謂うのだ
もう何も謂う者はいなかった
今枝は「今後の活躍を期待しております!」と言い拍手を送った
他の記者も心よりの拍手を送り、記者会見は無事終了した
烈は控室に戻ると、緑道が来ていた
そして康太も榊原も飛鳥井の家族も榊原の家族も来ていた
皆 記者会見が心配で詰め掛けていたのだった
竜馬は「最上階で宴会やるから、烈は最上階の一番右端の部屋を開けておいたから使って緑道と話しておいでよ!」と謂う
烈は緑道と節子、そして獅童と梨紗子に
「なら行きましょうか!」と声を掛けた
康太は「ならオレも同席する!」と言った
榊原も「話し合いが終わったら着替えるんですよ!ジャージ持って来ましたからね!」と父として着替えを持参で来た事を伝えた
そして最上階へ上がり、宴会に使う部屋とは別の部屋へ逝く
竜馬が開けておいてくれた一番右端の部屋へと向かった
部屋に入りソファーに座ると烈は宗右衛門の声で
「主の家から見付かった子は、緑道、主が死ぬ事を危惧して鷹司家の終焉を詠んでしまったからじゃよ!
青葉は鷹司の終焉を許しはしなかった!
そして神の怒りを買い、この世を終えた
が、青葉は誰よりも鷹司の家の為に生きたおなごじゃ!鷹司の家の轍から抜けるのは儂が許しはせぬよ!」と伝えた
緑道は目を閉じ考え込み
「やはり儂は死ぬ運命じゃったのじゃな!」とボソッと呟いた
「まぁ運命は幾らでも変わるわ!
そんなに簡単に死ねるとは思わない事ね!」
烈に一蹴され緑道は深々と頭を下げた
「赤子は………どうなりますか?」
節子は祈る様に烈を見た
「母の許可を取ったので、飛鳥井の一族に迎え、1000年続く果てへの轍に乗せたわよ!
今後は飛鳥井の是正を司る者として、飛鳥井を、そして鷹司を、他の家を見張り正す者となる!」
烈が言うと康太は
「今世は顔見せに重きを置いた!
何せオレも伊織も烈も、来世は飛鳥井の轍から抜けるかんな!
だからこそ、完璧な明日を宗右衛門は築き上げる為に日々寿命を削って築き上げて逝ってる!
今世は是正を司る者まで配置出来て宗右衛門は万々歳だ!
だからこそ、鷹司青葉の存在を排除するのは許さねぇ!
閻魔とは宗右衛門が話を着けて、鷹司青葉の魂は来世も鷹司で転生すると決めた!
当然、鷹司の神にも納得させた!
まぁ緑道が死にそうにならなきゃ、こんな事態は引き起こさなかったんだ!
だから鷹司の方でも青葉の名誉の回復をしろ!
でねぇと宗右衛門が呪文唱えちまうぞ!」
と少しの脅しを入れて話す
緑道は「承知仕った!青葉の名誉の回復は此の命賭してでもやると約束しよう!」と約束した
烈は眉を顰めて「命かけちゃ駄目じゃない!
もう緑道いなくなっても、一希は返さないからね!そしたら鷹司滅ぶわよ!」と謂う
節子が「いつき?其れは赤子の名前ですか?」と問い掛けた
榊原が「そうです!ずっと僕に訴えて来てたので、名前を着けました!
そしたらパズルが嵌る様に、歯車がカチッと音を立てて飛鳥井の轍に嵌りました!
もう返せと言われましても返せない存在となりました!
近い内に飛鳥井の家へとやって来ます!
飛鳥井瑛太の戸籍に入り飛鳥井を名乗る事となる!それは揺るぎない明日へと繋がれた結果
なのでもう、あの子は飛鳥井の礎に収まった
なので緑道、死ぬ事は許しません!
無論 怪我も許しません!
死したら即座に生き返らせます!
なので只管鷹司の家の繁栄の為に頑張りなさい!」と言い切った
緑道は「伴侶殿は本当に情け容赦のない…………」とボヤいた
烈は「それが父ぉーさんだから仕方ないわよ!」と笑った
緑道は深々と頭を下げ
「本当に今回は飛鳥井には世話になった!
儂が死ぬ運命だった故に………青葉は家の存続に躍起になり………穏やかに死せる運命をかなぐり捨てさせてしまった…………悔いても………どうにもならぬ運命に迷い込んてしまった………
我が母を死に追い込んだ責任は取ろうと想う!
飛鳥井の方々にも………なんと礼を述べて良いのやら…………」と後悔を口にする
が、烈は「我等飛鳥井は鷹司、強いては摂家五家、他の家の是正をすべき家としての務めを果たしただけの事!礼には値はしないわ!」と答えた
康太も「だな、オレ等は青葉の名誉の回復、それだけしか望んでねぇよ!
青葉程 能力の高い女じゃねぇと神との子なんて孕めねぇかんな!
継ぎの巫女が誕生するまでは青葉は鷹司に置いて絶対的な存在とする!
そして継ぎが生まれたとしても、歴代鷹司を護った存在として家に刻む!
其処までしてやっとオレと烈に報いる事になるってもんだろ?」と笑いながら話す
「真贋と宗右衛門の【言葉】通りに致すと約束する所存!」
烈は「ならもう何も話す事はないわよ!」と言い宗右衛門の着物を脱ぎ始めた
榊原は即座にジャージを渡して、着物を受け取った
「本当なら掛けておきたいのですが………」と言いつつ畳む事にする
「多当紙は何処にありますか?」と問い掛けた
烈は「竜馬が持っているわ!」と謂うと部屋を出て一番大きな部屋へと入って行った
其処はもう………飲兵衛の巣窟だった
竜馬は「烈、料理あるからね!」と謂う
烈は「竜ゅー馬、多当紙何処?」と問い掛けた
竜馬はウォークインクローゼットから多当紙を持って来ると榊原に渡した
其れを受け取り、慎一は烈の着物を畳み始めた
そして綺麗に畳むと多当紙で包み、風呂敷をポケットから出すと風呂敷で包んだ
其れを竜馬に渡して「飲兵衛の巣窟なので汚れるので預かって置いて下さい!」と謂う
竜馬は着物を預かりウォークインクローゼットにしまった
観世音紫園は晴れやかな笑みを浮かべて飲んでいた
観世音紫園 新しい門出の始まりだった
その夜は竜馬の相続したビルの最上階で宴会をし、翌日皆 帰宅して行った
烈は家族が起きるよりも早く、弥勒と共にマンションを出て不在だった
兄達は「あれ?烈はまだ帰れないの?」と問い掛けた
両親は何も答えなかった
何処へ行ったかは?皆目見当が着かないから、答えようがなかったのだか……
だからそれ以上は何も聞く事は叶わなかった
烈と弥勒は北海道へと向けて飛行機に乗った
弥勒は嫌がったが………
「飛行機から吊るされたくなきゃ乗りなさい!」
と半ば脅して飛行機に乗せた
北海道にある神取総本家へと出向く事にしたのだった
神取総本家は今 一族を解体させ、一族の中から管理者を出して今後の話をする様になっていた
闇に染まりし者
鬼 畜生に堕ちた者
等を家から出せば、家はお取り潰しとなる
古くから続く家はそうして続いて、そうして生かされ果てへと逝くのだった
が、神取の家からは闇に染まりし者を出した
鬼の子も出した!
と謂う事でお取り潰しになった
今後はその財産や家をどうするか?の話し合いが遺されていた!
飛鳥井 宗右衛門が出る!と告知して神取の家は誰も手が出せぬ様に黙らせ、資産は凍結させてあった
その地へ出向くと謂う事だった
千歳空港まで神取の管財人が迎えに来てくれる手筈になっていた
空港入り口で少し待つと、黒塗りの自動車が停まった
運転手が「飛鳥井宗右衛門殿ですか?私は神取の管財人の神取義明と申します!
ささっ!どうぞとお乗り下さい!」と言い車から降りて後部座席のドアを開けた
烈と弥勒は後部座席に乗り込んだ
そして後部座席に乗り込むなり
「神取の墓はどうなった?」と問い掛けた
神取義明は「それは神取家の先祖も入れた墓ですか?」と尋ねた
「当たり前じゃない!
神取の名前を持つ者、一族、総て取り潰しが決まったのよ!
当然墓も遺しておけないわ!」
「……神取の墓は………そのままに御座います!」
「ならば半数以上が魑魅魍魎に取り込まれた…………感じかしら?」
「…………」
「そして貴方も……………弥勒院厳正による刺客かしら?神取の家は取り潰しは決定している!
そして貴方達が血眼になって探している、神取翡翠の魂は何処探してもないわよ!
彼女は闇に堕ちた………その体は闇に取り入られ闇に飲まれ………闇と同化して消えた!」
「だから冥府の闇に染まったお前なら、翡翠の魂を何とか出来るんじゃないのか!」
「まぁ何とかしてあげても良いわよ!弥勒院厳正!」
弥勒は驚いた顔で運転してる男を凝視した
北海道の地に降り立って瞬間
海坊主の気配がバンバンしていた
まさか…………管財人の姿に入り込んだと謂うのか?
弥勒はその可能性を感じてはいたが…………
認めたくなくて…………考えない様にしていた
神取義明は嗤っていた
弥勒院厳正その者の顔で嗤っていた
神取義明は「何故解った?」と問い掛けた
「だってわざわざ鴨が葱を背負って来てやってるんだもの、御本人登場して来なきゃ、弥勒を脅して飛行機に乗せて来た甲斐がないじゃない!」
「何故……倅が飛鳥井康太ではなく………主の様な小さい奴と共にいるのじゃ?
何故、そんな闇に染まった者を………護ろうとしておるのじゃ?」
「ボクが闇に染まってるって謂うならば、それはお前が原因じゃない!
お前が、宗右衛門の魂を冥府の闇に落とした!
お前はそれを知っていたから、源右衛門に来世転生しない者として話したんじゃないの?
だからこそお前は宗右衛門と距離を取った
闇に染まった自分を見分けられたら困るから、違う?」
「宗右衛門は冥府の闇に侵され消える筈じゃった!嫌、消えた!冥府の闇に堕とされ転生出来る筈等ないではないか!」
「冥府の闇に染まり、冥府の闇の一部になり魂は消滅する…………覚悟をした!
お前が冥府の闇に突き落としたのは魂は覚えているわ!」
「なら何故消えなかった!」
「助けてくれた方がいたからよ!」
「ならばこのまま死んでくれ!」
アクセルを踏み込み車は暴走を始めた
「飛鳥井宗右衛門は生まれて来ぬ筈じゃった!」
そう叫び、車は何台もの車に激突し、其れでも暴走を止めなかった!
止まる気のない車は…………ガードレールを突き破りダイブした
が、地面から根っこが伸びて来て、車は堕ちる事なく…………宙に浮いた状態となった
神取義明は「何故堕ちぬ!」と叫んだ
ガードレールを突き破り車は大破、そしてガソリンが溢れ出し引火…大爆発となり一巻の終わり………となる筈だったのに!!!
烈はずっと呪文を唱えていた
根っこは車をどんどん絡めて漆黒の闇を作り出していた
そして陽の光すら差し込まぬまで絡め取り、巻き付き、地面に降ろされた
そして地面に吸い込まれる様に堕ちて…………
弥勒は「吐きそうだわい!」とボヤいた
どんどん地下に堕ちて逝く…………
止まる事なく堕ちて逝く…………
そしてかなりの時間を掛けて堕ちて行った
「神取翡翠に前前前世に惚れて、以来ずっと好いて来た!何時か翡翠と…………夫婦になりたい!
と、想い生きて来たが、やはり今世も一度は夫婦になれたが、互いの生きる定めが一緒にいる事を許しはしなかった………
それにより翡翠は道を外した
子となる者と契って子を成した
それも鬼の子を……な!」
「五月蝿い!それがどうしたと謂うのだ!」
「お前は妻の気持ちを考えた事があるのか?
お前を恨み命を絶った妻の想いは無視か?
本当に人でなしのロクデナシね!」
「この想いをお前に解るのか!
幾度愛しても愛した人が手に入らぬ気持ちが!」
「家など捨てれば良かったのよ!
其れか婿入りすれば良かったのよ!
護るべき家なんて貴方にはないじゃない!
其れで悲恋だと言われても笑止千万よ!
愛してると謂うならば、共にいるべき道へ逝けば良かった!其れだけよ!
お前の優柔不断な想いの所為で、お前の妻は自らの命を絶った!
どれだけの人を苦しめて自我を通そうとしてるか?解ってる?
挙げ句……その果てに………闇に堕ちテスカトリポカの駒……笑えないわよ!」
正論を突き付けられて………言葉なんてない
烈は呪文を唱えると、車を搦めていた蔦がバサッと外れ、ドアを開けて外に出た
弥勒も外に出ると…………其処は………冥府だった
車を取り囲む様にして………首が3つに分かれている犬がいた
そして皇帝閻魔と四方を守護する守護神もいた
アレから冥府は聖神自らのテコ入れをして、神の総入れ替えを天空神と創造神とで始めた
中央に座するのが皇帝閻魔と帰還した皇帝炎帝
四方を守護する神々を据える事にした
冥府の審判官 アイアコス 死者の案内者 アヌビス 奈落の神 タルタロス その三神を管理する漆黒の闇の神 エレボス
役目を与え、復活させて冥府を護る存在として、盤石なモノとした
でなくば、押し入られたら、冥府を好き勝手にされる!
其れはさせてはならない!と判断し改革に乗り出したのだった
皇帝閻魔の横には四神が聳え立っていた
皇帝閻魔は「この者は?」と問い掛けた
烈は「弥勒院厳正の魂を入れた傀儡!
魂のみとなった弥勒院厳正は、器を渡り歩き神取の人間を食い物にして来た!
此処が年貢の納め時なのよ!
この地はテスカトリポカは入り込めぬ領域となる!よって彼奴の【眼】が覗き見するなんて皆無となる領域となるわ!」と答えた
漆黒の闇を司るエレボスが
『ならば身体と魂を剥離致すとしよう!』と告げた
死者の案内役のアヌビスが、その魂を捕らえる
すると冥府の審判官アイアコスの目が光り、その者の罪を計る
奈落の神タルタロスが身体を押さえつけると、漆黒の闇を司るエレボスが、その魂と身体を剥離した
烈は小さな瓶を取り出すと皇帝閻魔に渡した
皇帝閻魔は漆黒の闇を司るエレボスに
「その魂をこの中へ」と謂うと、エレボスは魂を小さな瓶の中へ入れて封をした
其れを皇帝閻魔に渡すと、皇帝閻魔は烈に渡した
烈はニコッと笑って「此れでやっと出会えるわね!」と呟いた
皇帝閻魔は人の体をした者を世界樹の中へ放り投げた
弥勒は「何処へ逝くんだ?あの身体は?」と問い掛けた
皇帝閻魔は嗤って「そりゃ穢れてなきゃ人の世で、穢れたら無間地獄でしょ!」と答えた
「あ~甘くはねぇ訳だな!」と謂う
烈は根っこを伸ばして車も世界樹の中へ放り込むと
「お世話になったわね!
皇帝閻魔、冥府を司る神々よ!
このお礼にデカスイカを冥府で完成すると誓うからね!」
と言った
皇帝閻魔は「それは嬉しい、楽しみにしておくよ!」と答えた
「ではボク達は冥府の上の仙郷へ寄って帰るわね!」と謂う
手を振り呪文を唱えると、烈と弥勒は姿を消した
そして転送して来た世界は…………弥勒には預かり知らぬ世界だった
弥勒は「此処は?」と問い掛けた
「此処は仙郷の端っこに在る領域!
ミストが濃い地となるのよ!」と告げた
確かにミストが濃くて………とてもツヤツヤになりそうな地だった
「この地はね元はお師匠様の暮らした地なのよ!」
「お師匠ってどいつよ?
お前の師匠は15人もいるだろうが!」
「ラルゴよ、一番最初のお師匠様なのよ!」
「ラルゴって七つ飛び山の方じゃねぇのか?」
「違うわよ、元は此処の仙郷にいたのよ
でもあの人、世情を嫌うからさ、誰も来ない七つ飛び山の方に行ったのよ
ホロで目眩ましかけて、ひっそり暮らしていたみたいよ!
まぁそのホロも母ぁーさんには通用しなかったってボヤいていたわよ!」
「まぁ炎帝だもんな、通用しねぇよな、んな目眩まし!」
「さてと用意するから手伝うのよ!
総ては閻魔大魔王には報告して、許可を取ってるから安心してね!
本当ならば魔界へ降りる気だったけど、邪魔者の介入を阻む為に冥府へ降りたのよ!」
烈はそう言うとサコッシュから紙とハサミを取り出した
そして小瓶を2つ取り出して並べた
「五色の短冊 私が書いた♬」と歌い切る
弥勒は何故に2番?と想うが口にはしなかった
チョキ チョキ
チョキ チョキ
人形(ひとがた)を切る
細身の人形
ガッシリ目の人形
弥勒にはサッパリ解らなくて
「あの〜、何をするんです?烈さん?」と問い掛けた
「弥勒ゅ、よーく瓶を見るのよ!」
目の前の小さな小瓶は蓋がピンクと青に分かれていた
「蓋がピンクと青?」
と見たままを言う
「ボクが謂う方の蓋を開けるのよ!良い?」
弥勒はブンブン首を振り頷いた
「まずはピンクの蓋を開けて!」
と言われピンクの蓋を開ける
すると瓶の蓋を開けると、白い煙の様なモノが出て来て、烈が差し出す人形に吸い込まれる様に入って行った
人形の紙は煙を吸い込み……………
人の姿になって行った
「次は青い蓋ね!」
と謂うと青い蓋を開けた
すると、やはり煙みたいなモノがモクモク溢れてて、烈が手にする人形に吸い込まれる様に入って行った
吸い込まれた人形は、人の姿になって行った
その姿は…………弥勒院厳正………その人だった
弥勒院厳正は何が何だか解らずにいた
弥勒は思わず、親父を殴り飛ばした
泣きながら「アンタ何してるんだよ!康太の子を幾度も殺そうとしやがって!」と怒りを露わにして怒鳴った
それを烈は止めた
「弥勒ゅ、少し待つのよ!
今はまだ意識と繋がってないから!」と謂う
弥勒は「此れが親父ならば、この女は誰なんだ?」と問い掛けた
「彼女は神取翡翠!
海坊主が愛した女よ!」と答えた
弥勒はギョッとして烈を見た
「飛鳥井の何代目かの時、より強い力を持つ陰陽師を生み出す為に、紫雲と飛鳥井が話し合い、より強い力を持つ美濃部の一族の者と婚姻を結んだ!
そうして代々飛鳥井はより強い力を持つ陰陽師を持つ事となった
今世生まれた子は紫雲龍騎と神取羅刹の双子だった
龍騎は紫雲家へ、羅刹は神取の家へ貰われて行った
可笑しいと思ったのよ、翡翠は前前前世から厳正だけを愛していたのに?
我が子になった子に手を出すかしら?って
で、写真を取り寄せ、家系図を遡って行ったのよ
そしたら美濃部の一族と繋がったわ
似てるのよ神取羅刹は海坊主の若かりし頃に!
それで翡翠は錯乱して愛した人を愛して愛して盲(めくら)になり愛しちゃったのよ
禁忌はご法度、喩え本当の親子でなくても戸籍上の親子ならば尚更ね!
で、翡翠は地獄に落とされた
だけど、弥勒院厳正を操るには翡翠は邪魔なのよ
だから冥府の横に出来た、ボクが彷徨っていた空間に落とした
何年か前に、その時空を正しに行った時には翡翠の魂は見つけていたのよ!
だからボクは闇の中にいた魂を掬い上げて清めた
そして姿を持たせずにこの地で暮らさせた
この度 厳正来るから翡翠には瓶の中へ入って貰い、人形に移して姿を与えた
それが総ての経緯です、解らない事はないかしら?」
弥勒は「あぁ………親父は美濃部の一族の末裔だったな………」と呟いた
「解体された美濃部の一族は!バラバラに散らばり名ある家に貰われたり、養子に入ったり続いていたのよ!
それが悲劇となり………雪ちゃんを生み出してしまったのよ!」
人形になった海坊主は、何故此処にいるのか?
解らないでいた
烈は皮肉に唇の端を吊り上げて嗤うと
「正気に戻った?」と問い掛けた
厳正は「主は………誰なのじゃ?」と問い掛けた
「ボクの名は飛鳥井烈、飛鳥井宗右衛門を継ぐ者よ!」と答えた
「儂が追っておったのは主なのじゃな…………」
「そうね!」
「主の命を狙ったのに…………何故………儂を助ける?」
「助けた訳じゃないわよ!
惚れた女一人護れなかった貴方に、罰を与えようと思ったのよ!」
「…………どんな罰じゃ?」
「終われない時を二人で過ごしなさいよ!
この地はミストが濃い地だからテスカトリポカ程度の神じゃ覗けない地だし、二度と駒には出来ない!
貴方は弥勒院厳正としての転生はさせないわ!
源右衛門とはもう共に転生は出来ない!
友と呼べる存在を裏切ったんだもの仕方ないわよね?」
「…………あぁ……」
厳正は苦しげに返事をした
「でも愛した女と共にいさせてやるんだし、文句はないわよね?」
「…………翡翠は……何処にいたのじゃ?」
「だから冥府の横に闇のはみ出た異空間あったじゃない!其処に堕とされ消えかかっていたのよ
しかもかなり闇に汚染されて、最初は誰かさえ解らない状態だったわ
まぁそんな状態だったけど、捨ててはおけないから闇を抜きこの地に魂だけ存在させておいたのよ
で、どうやら?神取翡翠だと最近記憶を取り戻したみたいでね、ならば海坊主捕獲して此処に入れとけば良いかと思ったのよ!
此れは閻魔大魔王様の許可を得ているからね!
無許可で勝手にやってる訳じゃないのよ!」
「儂は…………消さなくてもよいのか?」
「別に消さなくても良いわよ!
貴方程度の存在などボクには脅威にもなりはしないからね!」
「…………そうか………」
「貴方さ………倅に詫びは入れときなさいよ!
貴方を討つ為に来てるんだから………」
海坊主は弥勒を見た
弥勒の目の前には……………幼き頃見た父の姿が在った
「親父………俺はお前を見たら殴り飛ばしてやりたいと………ずっと思っていた………」
「なら殴れば良い!」
「アンタは………お袋の事………愛してなかったのかよ!」
「愛したおなごは唯一人……翡翠だけじゃよ!
だが………佐和子の事は……苦しめる気はなかった………悲しませる気もなかった…………
結婚した以上は大切にする気でいた…………が、愛したおなごが道を違え………子を生んだと聞いた時………儂は居てもたってもいられなかった…………
結果…………佐和子は全てを諦めて己の命を絶った…………一人で逝かせてしまった…………
ならば儂は………絶対に幸せになってはならぬ………
そう………心に決めていた………」
弥勒は心が痛くて仕方がなかった………
痛くて……痛くて…………泣けて来た………
「だから………闇に堕ちたのか?」
「元々が儂は………美濃部の一族の者として闇の部分で暗躍する役割を持っておった者!
其れに目を付けられ………気付いたら取り込まれておった…………
そして沼の様な………底無しに深い闇に搦められ抜け出す事さえ叶わなくなった
飛鳥井宗右衛門は………飛鳥井から消える存在だと聞いた…………
源右衛門の元へ下った時にそう聞いた………
だから箸にも棒にも引っ掛けなくてもよい………と!なのに何故………主は存在するのじゃ?」
「其れは助けてくれた方がいたからよ!
此れは本当に奇跡だった…………
二度と起こらないであろう奇跡………
そうしてボクの命は繋がれて今に至る!
それだけの事よ…………」
「お前の事をずっと追っていた………
飛鳥井康太だと思って追っていた………なのに?
蓋を開ければ別人だったとか……………」
「血は繋がらないけど、ボクはあの二人の魂を与し子だから!似ていたとしても当たり前の事なのよ!元を辿れば始祖の神々を創ったのは皇帝閻魔だから似て当たり前なのかしら?」
「お前はそう言えば神だったな…………」
「そうね、然程有名な神でもないから存在感なんてないし、聞いたとしても……そんな神いたの?程度の存在感で悪いけどね!」
「神を相手だが………主には勝てると思っておった…………」
「最近では早く滅ぼしてくれ………と思っていたでしょ?」
海坊主は驚いた顔をして烈を見た
「弥勒院厳正は滅んだ!
もう貴方はテスカトリポカの駒じゃない!
この地からは出られないけど、二人で仲良く生きて行きなさいよ!
何も無い世界だけど互いがいれば良いんでしょ?
慣れたら田畑を耕して食べ物を作り暮らしなさい!」
「そんな…………事をして良いのか?」
「良いんじゃない?
もう貴方を縛るモノなんてないから!」
「…………一つだけ聞かせてくれ………」
「何?」
「何故………北海道に儂が現れると思った?」
「だってもう貴方の駒いないじゃない!」
「え?!」
「貴方の意のまま動いてくれる駒はもういないじゃない!ならば本人が出るしかない!
そう思ったのよ、そして出て来たのよ!
ガードレールを突き破り大破して殺す
そして自分もやっと解放されて………消えられる
そんな願いがバンバン見え隠れしてたわよ
そして最後に翡翠の事を聞きたい………
愛した女が………苦しまずに逝ってくれたならば、それで良い………と思っていたんだろうけど、それは貴方の希望しかない現実だったのよ!
実際は翡翠の魂は今後貴方の邪魔になる
だから存在ごと冥府の横に出来た歪の異空間へ入り込んだ
闇に染まり、あと少しで闇に溶けて消える所だったわ…………」
「翡翠だけは………翡翠の魂だけは安らかに眠らせてくれると言ったのに!!」
「そんな貴方の足を引っ張る様な事をする訳じゃないじゃない!
彼奴はセコくてズルくて約束なんて最初から守る気なんてない!
死しした瞬間、異空間へ突き落としたのよ!
その後に、ボクの魂も異空間に落とされたのよ
ねぇ、翡翠、そうよね?」
烈に翡翠と言われた女は顔を上げて優しく微笑んでいた
「はい!何もない闇しかない空間に綺麗な魂が堕ちて来ました!
其れが飛鳥井宗右衛門の魂でした!
私は記憶を無くしていた………何も分からない自分が恐怖だった
だけど貴方は其れを聞いて下さった………そして貴方が在る方に助けられて転生を果たした時、必ず助けに来るからね!と申し出て下さり私を球体で包んで下さった……
だから私は自我を保て、人としての心を取り戻せた…………修羅に堕ちた私なのに………
貴方は生きろと申した
其れこそが貴方の贖罪だから………と言い私を果てに繋いだ………」
「翡翠、惚れて惚れて好いて忘れない男よ!
貴方の悲劇は羅刹が弥勒院厳正の若かりし頃に似過ぎていた…………其処から始まった修羅の道
だから貴方は惚れた男とこの地で暮らしなさい!
まぁ家はあるし、ミストの濃い地だから腹も減らないし、生きて行けるから!
その日々に色を付けるのは自分達の死命よ!
どんな明日を築いたか?時々見に来るから!
厳正、貴方の倅も時々見に来るからね!」
海坊主は晴れやかな顔で笑うと
「ならば倅に誇れる日々を送らねばな!」と言った
倅に悔いる日々ではなく、誇れる日々を、と謂う辺り本当に豪快な奴だと烈は思った
翡翠も「明日を生きろと申すならば、我は貴方に誇れる明日を送りましょう!」と言った
烈は笑って「そんな事謂うと海坊主がヤキモチ焼くわよ!」と謂う
翡翠は烈を抱き締めて
「良いのです!絶望しかない闇の中………私の希望は貴方でしたから…………」
と言った
烈は「明日を生きて、今を楽しむのよ!」と声を掛けた
翡翠は烈を離すと「はい!」と答えた
烈は「それじゃ行こうかしら?弥勒!」と声を掛けた
「…………こんな危険な奴生かしといて良いのかよ?」
ともだちにシェアしよう!

