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第44話 着実邁進 ❷
「良いのよ、もうテスカトリポカの駒じゃないんだから!もう弥勒院厳正よ、この人は!」
弥勒は父を見た
父も息子を見た
息子は「もう康太にも烈にも手を出すんじゃねぇぞ!」と口にした
父は「儂はこの地から出る術は持たぬ………何処へも逝けぬ………身じゃからな………」と答えた
何もしない、何も出来はしない………と謂う
烈は「依代に魂が定着して、その身の闇を全て昇華したならば、無間地獄の魂の修練場へ連れて逝ってあげるわよ!
其処で佐和子の魂が1日でも早く転生出来る様に助けてあげなさい!
彼女は自ら命を断つ大罪を犯したから、修練場からはまだまだ出られないけど、手助けしてくれる人達がいるならば、頑張れるかもね!」と笑う
弥勒は死ぬ程憎い相手に手伝って欲しいか?と思った
「人はね、死する時、総ての想いを走馬灯に映し出して悔いも無念も断ち切って逝くモノなのよ
悔いがあると、この世に未練を持つ
そうすると、その魂は先へは進めないのよ!
佐和子の中にまだ憎しみが有るからね、ならばその憎しみは本人にぶつけて昇華するしかないじゃない!
其の任を背負うのは厳正と翡翠、それでなくてはならないのよ!
だから生かして体も与えたのよ!」
「お前って…………本当に情け容赦ねぇよな……
其れは康太以上に厳しい……」
「そう?みんな笑って仲良くなんて虚実だと想うからね………きっと歪んでるのよボクは…………
あの人を手放した日から…………ボクの明日は歪んで………捻くれてしまったのよ………」
遠くを見ながら謂う烈の姿があまりにも儚げで………弥勒は烈を抱き締めた
「お前は………もう誰も愛さないのか?」
「そうね………誰かを愛したいわ!
でもボクがこの世で何より大切にしたいのはレイたんだから……それを理解してくれないなら難しいわね!
ボクもニブルヘイムも愛してくれ包みこんでくれる人探してみるわ!」
切り離せない程に大切な人…………その人ごと愛してくれる人を探す
烈は絶望なんかしていない
大切な人がいてくれるから………未来をちゃんと見ていた
弥勒は「お前には、強い母ちゃんも厳しい父ちゃんもいるもんな!そしてお前を愛している兄達も家族もいるからな!」と口にする
烈は幼い子の様にニコッと笑うと
「そうなのよ!ボクは本当に幸せだと思えるのよね!」と言った
その言葉に弥勒は吹っ切れた気がした
弥勒は厳正に向き直ると
「俺はお前を許していない!」と言った
厳正はその瞳と言葉を受けて
「あぁ………それでよい!」と言った
「だから………此れこらも俺はアンタを見張っておくと決めた!」
「え?…………」
「もう道を外れるなよ!
飛鳥井宗右衛門が描いた道を外れるな!
俺も外れねぇ様に見張るとする!」
「高徳………」と名を呼び頷いた
「ならな親父!また来る!」
「あぁ………身体には気を付けて!」
弥勒は父に背を向けると歩き出した
涙が頬を伝う…………
憎かった
母を苦しめやがって………と腹も立った
だが今…………そんな思いなんか何処かへ逝ってしまっていた
今は………父が父でいてくれて有り難う………
そんな思いで一杯だった
烈は「翡翠、取り敢えず此処で暮らすのよ!」と謂う
翡翠は「はい!この地を終の棲家として、より良いモノにして行きます!」と笑顔で言う
「雪は魔界で生きてるわ!」
「え…………」
「鬼の雪は魔界へ
そして人の部分を北斗として人の世に!
炎帝は一人の人間を2つに分けて配置した!
鬼の雪は………魔界へ来た時会わせてあげるわ」
翡翠は静かに首を振った
「貴方の子よ
雪を罪の子のままにしないでよ!」
「烈さん…………」
「母の想い、あるんでしょ?」
「我が子なれば…………忘れた日などありません
消されようとした………あの子を厳正に助けて!と助けを求め………生きながらさせた………
何処かで生きていてくれれば良い
そう思って来ました
それと同時に………生まれて直ぐに喋った真っ赤な髪をして角のある子は鬼子として生きて逝くしかない…………もう、生きてはいまい………と思っていました………」
翡翠は顔を覆い………後悔を口にした
「悔いるのは止めなさい!
そう言ったでしょ?
悔いる想いも抱き締めて愛してやれなかった想いも、総て込めて【今】愛してやりなさい!
貴方の体が依代と一つになり定着したならば、魔界へ連れて逝ってあげるから、貴方は悲しまさせ苦しめた佐和子を支えて、雪と親子の絆を結びなさい!そしたら貴方の中の母性が……貴方を強くしてくれるから…………」
翡翠は言葉もなく何度も頷いた
烈は厳正を見て、何も言わず背を向けて弥勒の後を追った
弥勒を追う道すがら、烈は閻魔に仙郷外れまで鳳凰に迎えに来てくれと八咫鏡の欠片で創った通信機で頼んだ
閻魔は『即座に鳳凰を仙郷外れまで行ってくれる様に頼みます!
烈が魔界へ来るのは禁足地の跡地の件で、ですか?』と問い掛けた
「そうよ、道筋立てないとだからね!」
『了解しました!直ぐに行かせます!』
そう言い閻魔との通信を切り歩き出す
弥勒は少し離れた場に立っていた
烈は「ボクは魔界へ逝くけど弥勒ゅはどうする?」と問い掛けた
「魔界に何をしに行くのよ?」
「禁足地の跡地の道筋を立てないと駄目なのよ
ボクは少し魔界にいるから、人の世には六月の中旬頃にしか還れないわ!」
「なら俺もその間は魔界にいるとする!
海坊主は駒から外れたとしても、手を変え品を変え来る馬鹿野郎いるだろうし、お前のピンチには出てやると約束する!」
「………もう厳正は仙郷に行ったのに?」
「あぁ、それでも俺はお前を助けたいと想う!
お前には本当に…………助けられたからな
その恩を返す位させてくれよ!
まぁお前は食えないのは受け取らない!って言うなら、俺はお前の仲間になるから!」
「もう仲間じゃない!大歳神と仲良く飲み仲間してくれてるじゃない!
ボクはね本当の父も、飛鳥井の父も大切なのよ!
だから大切にしてくれるのが嬉しいのよ
弥勒ゅはもう仲間よ!
この先はもっと熾烈な闘いになるからね
弥勒ゅは少し武術習いなさい!
宝力だけで逃れられる敵じゃない
ワラワラ来たら素戔鳴尊や金龍だって手も足も出なかったからね………
弥勒は魔界にいるなら道場に通いなさい!
そして人の世に帰ったら菩提寺に通い赤帯と薙刀、弓矢、ライフル何でも習うのよ!」
其処まで熾烈な闘いとなると言うのか…………
弥勒は言葉もなかった
鳳凰が迎えに来てくれ、烈と弥勒は鳳凰の背に乗り魔界へ向かった
弥勒は「何でタイミング良く鳳凰来るのさ?」と問い掛けた
鳳凰は「閻魔に迎えに行けと言われたのさ!」と返す
烈は鳳凰の身体の焔の濃さを目にして
「いい具合に脂が乗って来てるわね!
柵も苦悩も乗り越えた強さが焔に出てるわね!」と言葉にした
鳳凰はキイッーと鳴くと嬉しそうに羽搏き
「総てはお前が敷いてくれた果てへと逝けるからだ!」と謂う
「奥さん元気になった?」
「あぁ、最近じゃ銀龍の武術教室に通い始めて友達が出来たと話してくれる程になった!」
「あぁ、銀ちゃん頑張っているのね
一時期は倒れたと聞いて心配してたのよ!」
「少しの間は休まれていた
妻も何度も見舞いに行った程じゃからな!」
「次代の鳳凰の歪みにやられたのよ
正常な磁場に身を置けば元気になるのよ!」
「…………今更ながらに………鳳凰の誕生する禍を痛感する………まぁ自分もそうやって誕生したんだけどな…………」
「其れが定めだから為す術なんてないわよ!」
「其れでもな………力になれるならなりたい
黒龍にもそう伝えている………」
「なら力になってあげなさいよ!
まぁ誕生する時は近寄ったら負けるわよ!」
「…………黒龍に背負わせてしまった…………」
「黒龍は背負わされたなんて思ってないわよ!
本当にあの夫婦は仲が良いからね、二人で乗り切ってくれる筈よ!
まぁこの先は愛がなきゃ乗り切れないからね!」
「妻への愛なら腐る程にあるのにな………」
「ほーちゃんはそれで良いのよ!」
「烈…………」
「ほーちゃんは何も心配しなくて良いのよ!
奥さんと仲良く、どんな苦難も乗り越え頑張るのよ!でないと鳳凰の齎す禍に負けるわよ!」
「頑張るよ烈!」
「程々で良いわよ!」
そんな話しをしてると閻魔の屋敷に到着した
鳳凰は二人を閻魔の邸宅に下ろすと、元気良く飛び去った
閻魔の執務室の方へ行くと、受付の鬼ちゃんが
「閻魔様なら執務室で待ってます!」と伝えた
「あり難うね鬼ちゃん!
後で食堂に逝くと良いわ!
クロスに頼んでデカスイカ持って来て貰うから着けてあげるわよ!」
受付の鬼は喜んで「やった!」と謂う
烈と弥勒は閻魔の執務室へと向かった
閻魔の執務室のドアをノックすると、閻魔自らドアを開けた
「烈、待っていました!」
そうして部屋の中へ招き入れる
閻魔は「烈が必要としていた材料は揃えております!」と伝えた
「ボクは戦士達から天魔戦争の時の影像は手に入れているから、それを投影して流して魔界の皆に天魔戦争を伝える事にするわ!」
「はい!それで良いと想います!
我等は知らねばならない………のですから!」
「ボクは少しだけ魔界に滞在するから、今後の事は道筋は立てられるわ!」
「あの広大な敷地は………歴史博物館と慰霊塔だけしか決めてないのですか?」
「あの敷地の中に学校を移転しようと考えているわ!
もっと拡大して、専門分野を増やして作る事となるわ!
まずは子供と呼べる年齢の者から常識を学ばせる
そして青年と呼べる年の者には適性判断させて、職を手に付けさせる!
その道のスペシャリストを育てる教育にも重きを置くわ!
鬼達は増える一方だから、鍛冶職人やら大工等にも職業を加えて働かせる
そして閻魔庁の分所を置いて、戸籍とか管理させるわ!魔界には戸籍もないからね
神々も閻魔庁で管理して逝かないとなのよ
神が増えるわよ!
その為の改革であり、教育なのよ!」
「解りました!まずは慰霊塔ですね!
この地は炎帝と皇帝閻魔により昇華された土地
もう穢れる事はないとのお墨付きを貰いましたから!」
「ねぇえんちゃん、貴方の倅が継ぐ魔界が………穏やかで豊かになる事を夢見て、日々を闘って行きましょうね!」
「ええ、炎帝や青龍が還る魔界が、妻や倅の還る魔界が、そして君が還る魔界が絶望しちゃうモノにはしたくはありませんからね!」
「聖戦士達が還る日も近いわ!
もっと練度を上げて魔界を護らなきゃね!」
「ええ、あのガタイの良い戦士はやはり………彼ですかね?」
「天魔戦争で闘った英雄は素戔鳴尊だけではないからね………生きてさえいれば……英雄だったわ!」
烈が言うと弥勒は「おい!それって!!!」と叫んだ
「多分 火之迦具土神よね?」
「伊弉冉と伊弉諾の子供……本当に存在するのかよ?」
「それを言うなら天照大御神なんな存在しないわよ!我が祖父素戔鳴尊も、ね!」
「天魔戦争は古来の神々も駆り出されて闘って来ましたからね………私は終盤に母上と父上により生み出されました
…………が、その頃は天界も魔界も負け戦に戦力注ぎ込み引くに引けれない状態でしたからね………
その時に多くの神々が消えました
そして消えれなかった神々は………亡霊となり日夜闘っていましたから………」
「そんな闘いも………記憶から薄れ、知らない存在が増えて来た………
だからこその、歴史博物館なのよ!」
弥勒と閻魔は声を揃えて「ですね!」「だな!」と納得した
烈は歴史博物館の製図を司録に言い持って越させた
司録は「烈、持ってきたぜ!」とあの禁足地に建てるべき絵図を持って来てテーブルの上に広げた
閻魔はその絵図に釘付けになっていた
広大な敷地に建つ建物の数々を目にして、閻魔は言葉もなかった
閻魔は大きな工場群を指さして
「この倉庫みたいな建物は?」と問い掛けた
「工場も増設して広げて行く気なのよ!
半分は慰霊塔や歴史博物館、学校や職業訓練の建物になるけど、残り半分は工場を広げる気なのよ
ボクが魔界にいる間に、測量して敷地面積を測って杭まで打っておく事にするわ!」
「慰霊塔はどうしますか?」
「九曜神に依頼は掛けてあるわ!
レイたんがかなり大きな創世記の泉の雫の結晶を渡しておいたくれたから、それで作ってくれる事になってるから、基礎を作っておかないとなのよ!」
「では取り掛かりますか?」
「そうね、敷地面積測ったら、ボクは一度人の世に還るけど、また戻って来たら再開するからね!」
「了解しました!」
閻魔は立ち上がると烈と共に執務室を出た
そして禁足地へとゲートを開いて中へて入る
其処は美しい花々が綺麗に咲いていた
烈はその綺麗な花畑になってる地を目にして喜んでいた
「工事に入る所の花々は公園の花壇とか、歩道の横に植えて、一株も傷付けない様にお願いね!」
と謂うと閻魔は鬼達に指示をして、スコップを持ち花々を避難させた
通路となる道を作り、花を避難させると、ロープと杭を鬼達に持たせた
基準となる地に印を入れて行き、確実に敷地面積
計る事にした
魔界には測量の技術はなく、江戸の時代に使っていた方式、間縄(けんなわ)などを使い印を付けたロープを区画に打ち付け建物の敷地を正確に測量し区域を作った
そして建築の区画を決めて行く
それを鬼達や建物に携わる専門学校の生徒達とで、作業をした
魔界へ来て起きてる間は禁足地で過ごし、建築の指示を出していた
途中、烈は人の世に行き、竜馬と連絡を取った
神の道を使い人の世に出ると、烈は飛鳥井の家に行き、お風呂に入り着替えをした
そして竜馬に電話を掛けた
ワンコールで出た竜馬に
「竜ゅー馬、頼みがあるのよ!」と話し始めた
『烈、何処へ行ってたの?』
心配して竜馬が問い掛ける
だが烈は要件を竜馬に伝え始めた
「竜馬、ボクは六月の中旬まで還れないのよ!
だから頼みがあるから聞いて欲しいのよ!」
竜馬は息を飲み『何?要件は?』と問い掛けた
「早瀬頼朝の身辺調査を頼めるかしら?」
『頼朝の?良いよ、直ぐに暦也に依頼を掛けるよ!』
「星が………揺らいでるのよ
悪い方に転がれば………彼の芸人人生は終わるわ!
今は分岐点に来てるのよ!」
『即座に動いて貰う様に話しとくよ!』
「其れと、井筒屋のある商店街、桜町商店街と名前も改めてスタートしたじゃない!
だから七夕イベントやりたいのよね!
少しでも町おこしならぬ、商店街起こしをして盛り立ててやりたいのよ!」
『因みにどんなイベントにするの?』
「ボク今、飛鳥井の自分の部屋にいるから、竜馬来てよ!そしたらPCで説明出来るし!」
『了解!直ぐに行くね!』
そう言いラインを終えると暫くすると、竜馬が烈の部屋にやって来た
烈は竜馬に七夕イベントの概要を説明し、ポスターを作り商店街の至る所に貼り出す様に頼んだ
竜馬は「了解っす!楽しいイベントにするっす!」と喜んだ
そして烈の見てる前で、暦也に電話して早瀬頼朝の身辺調査を依頼した
暦也は『即座に取り掛かる!』と返事をして電話を切った
烈は竜馬に「人って弱いから………どうしても漬け込まれたら………揺れちゃうのね………」と呟いた
竜馬は「人ってそう言うモノだから仕方がないよ………頭では解るんだよ………
でも心が虐げられた時を埋めたいのか?
求めちゃうんだよ…………」と言葉にした
心理学を熟知したならではの言葉に、烈は静かに目を閉じた…………
「きっとボクにはそんな純真な心なんかないのね………」
「違うよ、烈は人の星が詠めちゃう人だから…………そんな諫言に惑わされたりなんかしない、其れだけだよ!」
「其れでもね………心なんか要らない…………
そう思った想いは………ボクを疑り深いヤツにしちゃったのよ!」
「そんなリーダーの元、俺等は集まった!
俺等を導くは、其れ位用心深くなきゃ駄目って言う事なんすよ!」
竜馬の言い草に烈は笑った
「何よそれ!」
「其れより烈、何か食べたっすか?」
「そう言えば………此処数日マトモに食べてないわね………北海道へ行ったのに海鮮丼食べる前に殺されかけたし………」
「北海道へ行ってたっすか!
何も食べてないなら、デリバリー取るっす!」
そう言い竜馬は烈を連れて応接間へと移動した
烈は「ボクまた出なきゃならないのよ!
竜ゅー馬はボクが指示した事を頼むわね!」と告げた
「了解っす!」
竜馬は即座にデリバリーを頼んだ
あまり待つ事なくデリバリーが運ばれて来ると、二人で食べ始めていた
暫くして慎一が帰宅して来た
応接間を覗いて烈を見付けると
「烈、お帰り!少し待っててくれたら何か作るよ?」と謂う
烈は「ボクは此れ食べたらまた出掛けなくっちゃならないのよ!」と伝える
「最近忙しいそうだね、康太や家族は皆寂しがってますよ?」
「六月中旬には帰れると思うのよ!
だから慎一きゅん、桜町商店街の七夕イベントを竜馬と一緒に準備して貰いたいのよ!」
「七夕イベント?やるのですか?
どんなのを考えてるんですか?」
「スタンプラリーよ!
お買い物に来てくれた方々と、商店街の皆が喜んでくれるイベント目指してみようかと思ってるのよね!」
「ならば七夕イベント実行委員会には烈と竜馬の名前を連ねても大丈夫ですか?」
「良いわよ!慎一きゅん、楽しいイベント目指そうね!」
烈は嬉しそうに謂う
食事を終えると、烈は母にラインを送った
「母ぁーさん、ボク少しだけ飛鳥井の家に帰ったけど、弥勒待たせてるからもう逝くわね!
六月中旬には還るからね!
そしたら桜町商店街で七夕イベントやろうと思ってるのよ!
その後で三社共同事務所のオーディションも考えていく事にするわ!
ならそろそろ逝くから、母ぁーさんや父ぉーさんが還る頃にはいないのよ!
だけど弥勒いるから心配しないでね!」
と送信
ラインに気付いて『烈!帰ってるのかよ?』と送信した頃には………もう家にはいなかった
返信のない携帯を見て「んとに何してんだか?忙し過ぎやろ!」とボヤいた
その夜、飛鳥井の家に帰ったが烈の姿はなかった
もうすっかり飛鳥井の家族の一員になった竜馬に
「お前、烈に逢ったのか?」と問い掛けた
「逢ったっす!
で、北海道へ行ったのに海鮮丼どころか殺されかけたし、と言っていたから一緒にデリバリー食べたっす!」と答えた
「彼奴……北海道へ行っていたのか……………」と呟いた
榊原は「北海道に何かあるんですか?」と問い掛けた
「神取の総本家が或るんだよ!」
其れだけで榊原は烈が何をしに行ったのか?察する事が出来た
「あの家は………家から闇の者を出したからお取り潰しになったのでは?」
「だからだよ!飛鳥井宗右衛門の名の下凍結させたから、鴨が葱を背負って来るって想うわな!」
「もぉ~危ない事したら駄目だと言ってるんですがね?お尻ペンペンしましょうかね?」とボヤく
康太は笑って「止めてやれよ!其れでも叩くなら弥勒が俺を叩いてくれ!とか言い出しそうだぜ!」と執り成してやる
「弥勒………一緒でしたね
となると…………本丸狙いですか………」
「だろうな………どの道避けて通れねぇ道だからな………弥勒も覚悟してるだろ?」
「………ならば、烈が還ったら七夕イベントを家族総出で盛り上げる事とします!」
「だな!お前等も協力してやるだろ?」
康太は翔達に声を掛けた
翔は「当たり前だよ母さん!」
流生は「全力で取り組むよ!」
音弥は「僕も飛鳥井でのポジション確保しとかなきゃ、養子に行かなくなったんだし全力出すよ!」
太陽は「イベントかぁ〜楽しみだな!」
大空は「弟の為ならば全力で立ち向かう所存!」
と其々個性が出て謂う事もバラバラだが、弟の為に全力投球する事だけは同じ想いだった
まぁ大空は最近…………榊原に姿も性格も酷似して来ているから…………
榊原は時々嫌な顔をするのだった
そんな家族の思いを知ってか?知らずか?烈は再び魔界へ戻り、測量をやっていた
慰霊塔は誰からの目にも付く場に建てると決めた
その横に歴史博物館、少し離れて学校を建設する
それに伴って今ある学校はリフォームしてマンションに作り替え、聖戦士達が戻った時の宿舎にする
取り敢えず、其処へ入り魔界に慣れて生活を始める
昔いた頃とは全く違う今を教育し、戦力になって貰う
家族を作るならば、家族向け住宅まで視野に入れ、リフォームをする予定だった
まぁそれも学校が新しく建てられて移動した後の話となる
烈は閻魔と共に着実に建築を進めて行った
弥勒は金龍に扱かれ、武術を習い始めた
武道場へ逝くと、様々な神や魔界で働く者等などが武術を習いに来ていた
その教えを乞うにはタダではない……と謂うから弥勒は「俺は魔界銭なんか持たねぇから支払えねぇって!どうするんだよ!閻魔!」と閻魔の執務室を訪ねてボヤいた
閻魔が「貴方は聖神の収益で通う事になっているので構いません!」と謂う
「魔界へ還ったら仕事するさ、だからツケでいい!其れか時々仕事に来るから烈の収益じゃなくて良い!」と言った
閻魔は笑いながら
「魔界へ戻った時の、貴方のポジションも近い内に正式に発表致します!
時を誤ると大変な事になる………との事ですから、その前に話し合いましょう!
其々の意向に沿って役職は与えられ始めています!無視して決めたならば、絶対に働かない、と烈が言うのでそれも追々話して行きましょう!」と提案を口にする
「魔界も変わって逝くんだな……」
「変わらねばならないのです
でなくば………鳳凰誕生の禍で崩壊しちゃいますからね………どの道変革期なんですよ!」
「覚悟ならば、出来てるさ!
俺は負けねぇよ!
どんな衝戟が来ようとも、へこたれねぇ様に今後は更に努力するし!」
「そう言い我が父もそれはそれは頑張って若返ってます……」
弥勒は生き生きと日々生きている建御雷神を思い浮かべ
「んとにな、素戔鳴と言い建御と言い生き生きしてやがるな!」
「孫の為にならば、漲るのでしょう!
私も妻や子や弟や甥の為ならば、どんな衝戟だって何のその!踏ん張りますとも!」
「妻は出産したら魔界へ戻るのか?」
「ですね、倅は菩提寺で生活して人の世の高校卒業する年までは向こうで生活しますからね!」
「え?小学校卒業までじゃないのか?」
「本人が高校になったら海外に行きたいと言ってますからね!
烈もそれは良いわね!皆で留学しなさいよ!
知識は最強の武器になるからね!
何も知らない莫迦にだけはなっちゃダメなのよ!
と言われてるから学べるならば、時間が許す限り知識を取り込む気でいるみたいです!」
「まぁな有って困るもんじゃねぇからな
況してや何も知らない莫迦な儘だと、道を誤るからな………そりゃ見極められる目と、視野を広めた情報は必要となるわな!」
「他国は既に情報戦となってるそうです!」
「…………その情報が正しければ、の話だがな!」
「まぁ我が魔界には見極めてくれる存在がいますから、安泰です!
青龍と聖神さえいてくれれば、曲がりはしませんからね!」
「そりゃそうだ!」
なんて最近は気安く閻魔とも話をする様になった
魔界にいても、自分の存在は知らせる事なく、ひっそりと過ごしていた時が嘘のように………
役職を与えられると謂うが、弥勒はそれを引き受けて魔界へ還ったら仕事する気でいた
魔界でも気心知れた奴等と飲めるのが楽しい!
なんて考えていると閻魔が
「弥勒、貴方魔界での家有りませんよね?」と問い掛けた
弥勒は「え?家?俺の家??…………」と考えを巡らす
なのに閻魔は容赦なく
「ないでしょ?ずっと釈迦の池の前の休憩所に居着いて、池の前で惰眠を貪り寝ていたって釈迦は言ってましたからね、家なんて無いでしょ?
また有ったとしても………魔界は改革されまくってて、多分その家有りませんよ!」
と告げた
此処最近魔界にいる時は素戔鳴尊の家で過ごしていたし…………
弥勒は「そうか、俺は家なしか!」と呟いた
閻魔は微笑み「素戔鳴殿が下賜された区画は畑や川が流れる長閑な土地です!
その区画に司録と司命と朱雀が土地を貰い家を建てました!
司録に至っては妻まで与えられ、今は子をなして幸せな家庭を築いています!
その区画に君の家を烈は建て始めました!」と告げた
「え!俺の家!!」
「そうです!あの区画は竜馬達が移り住む時に家を建てるのでもう締めました!
その中へギリギリ弥勒の家を建て始めたのです!」
「そうか………魔界へ戻ったら………俺はドッシっと居を構えて過ごさねぇとならねぇって事か………」
「まぁ盟友の近くなので嬉しいでしょう!
君は妻と子供を魔界で住まわせるのでしょ?」
「え?それは知らん!」
「そう私は報告を受けています!」
「その報告は誰がしたんだよ?」
「無論 烈です!」
「そうか………今世の絆を………魔界まで繋げると謂うのか………」
「君が………そう願ったんでしょ?
気の遠くなる程の孤独の果てに…………君は家族を求めた………違いますか?」
「違わねぇ………もう………一人は嫌なんだ………
もう…………惰眠を貪り続ける明日は過ごしたくねぇんだよ!」
「魔界へ還ったらそんな暇なんて有りませんよ!
君は変わりゆく魔界の未来に組み込まれた存在なんですから…………」
弥勒は笑って「其れなら更に鍛え抜かねぇとな!」と笑った
一人じゃない明日がある…………
其れはずっと独りだった淋しい心を誤魔化さなくてもいい…………温もりがあるのだ
手を伸ばせば、握り締められる温もりがあるのだ
其れだけで……弥勒は救われた気になった…………
弥勒は精力的に武術を習い、慰霊塔の建築に参加した
力仕事を手伝い汗まみれになり過ごす
此処数年………魔界の夏の暑さは異常だった
人の世の暑さも異常だから、魔界もその熱気を受けて暑くなっているのだった
ジリジリ焼き尽くす熱が魔界に広がる
世界樹からの光が暑さを運ぶのか?と謂う者もいた
が、実際 世界樹が照らしてくれる前から、魔界はじわじわと熱を齎していた
下手したら世界樹からの光がなかった分、湿度を高めていたかも知れない
其れは魔族全員一致の答えだった
年々暑くなる対策の手始めとして、烈は畳を編んだ草で、簾を作り日除けになるモノを配布して日陰を作り出した
炎天下の中、ずっと市場でモノを売るのは結構大変なのだ
それで作り出したのは簾だった
市場の軒先には陽射しを遮る簾がされると、魔界の者達は聖神の新作だと騒いだ
簾の様な日除けを欲しいと謂う人も出て来て、それを商品として売り出したら飛ぶように売れた
今も尚、畳に使った草はモッサーと生えて日々切っても追い付かぬ生産料を上げていたから、服を織る機織りを改良して簾を織らせたのだ
そしたらバカ売れして機械を増やして対応していた
草に色を入れ鮮やかな簾を作り、魔界を華やかに色を添えた
そんな日々の暑さ対策をしても………酷暑に倒れる者達が減らなかった
烈は創造神に氷を生成する石を落としてくれと頼んだ
その石を水に着けると氷が作れ、一度にそんなに多くは作れはしないが、武道場や食堂、閻魔庁や公民館等にクーラに近い器具を作り、休憩の時に涼める様にした
電気で扇風機が回るようにして、その前にアルミに近い容器に氷を装着し風を送る
其れだけでも、部屋は冷えて涼しいと感じていた
そして冷たい水も無料で飲めるようにした
冷たい水のタンクには岩塩を放り込み、塩分を取れる様にした
そうしてクソ暑い夏を乗り切るしかないと、烈は試行錯誤しながら、皆がより快適に過ごせるモノを探していた
無論 天照大御神の家と素戔鳴尊の家はそのクーラーに近い器具は入れてあった
雪には扇風機を壁に装着した
電源は屋根にソーラーパネルに近いモノを装着して、電気を作り流していた
そして食堂もクーラーに近い冷えた空間を作り出して、皆の憩いの場とした
何もない世界にまた一つ、涼しいアイテムが加わった
魔界の住民は公民館や食堂とかの涼しい空間で涼を取り、家へと還る、が日課となりつつあった
また家庭向けには竹で枠組みさせ、紙を貼り内輪を作り出し配布した
一家に一本なので、市場で売りに出したら飛ぶように売れたのは謂うまでもない
内輪を片手に仰ぎながら歩く、そんな魔族を必ずや目にする今日この頃だった
少しでも涼しい時を過ごしたい………
そんな魔族の為に青龍の山から定期的に風を送る様に、巨大扇風機を取り付けられた
数時間に一回、ほんの少しの時間だが涼しい風がやって来て魔族は涼を感じられていた
魔族は閻魔に「涼しい時をありがとう!と聖神にお伝え下さい!」と感謝の手紙が日々届いてますよ!と伝えた
烈は何も言わないが、創意工夫がなされ、今の状況に対応されて行くからこそ、皆の日々が或るのだと閻魔は思っていた
作業をして汗だくて働く
そんな者の為に烈は仮設の休憩所を作った
その中は常にクーラー的なモノで冷やされ快適な涼しさを保っていた
そして冷たい水を休憩時間に配る
其れで熱中症対策は万全に取り進めて行く
休憩の時間は鬼が時間を測り告げる事になっていた
その為に【時計】を持たされていたのだった
烈は羅針盤から魔界時間に合う時計を作り出し、学校や役所、そして大広間や市場に掲げた
そして【時計】を読める様に学校で習わせ始めた
お年よりは太極拳などを始める前に講義を開く
朝 太極拳の始まりの時間は7時と決めた
ココからココまでの時間が1時間、だから8時には太極拳は終わる
等と生活に照らし合わせて教えて浸透させて行った
時計が読めると「今は何時何分だから………」と謂う会話もちらほら出始め
主婦は時計を見つつ買物をして、家へと帰り夕餉を作るのだった
日が昇り、世界樹から日が差し込み、そして世界樹からの日が翳り夜が来る
そんな世界樹からの陽射し頼りの生活に時計が加わり、皆はその時計を読める様に学習し、生活に取り入れ始めていた
また少し前にレイが魔界に来た時に、世界樹から新しい場所に水を通して貰いプールも作った
そのプールに入るには水着着用と徹底させ、水着は閻魔庁の方で売り出した
そしてプールの管理も閻魔庁の方で管理した
一人 一日 1時間使用するチケットを貰い、プールに入る
皆が入れる様に時間制にしたのだった
鬼達や学校の子が管理をして、プールを使わせる
独占しようとしたり、約束を守らない奴等は入場さえさせて貰えないルールを作り、皆 そのルールを守りプールを使用していた
そうして生活の中にルールを覚え込ませる事にしたのだ
何をやるにしてもルールがある
そのルールは閻魔庁の者や、指導者と呼ばれる者により管理されている
そのルールを破れば罰則やペナルティを受ける
それが嫌ならば、ルールを守り、ルールの或る生活をするしかない!
そうしてルールや規律を生活の中に浸透させて行っていた
夏には学校は夏休みを設けた
夏休みの早朝、6時から早朝体操も始めた
鬼達が指揮を取り、柔軟体操をやる
今 魔界では老若男女、その柔軟体操を始めて1日の始まりとするのがブームになっていた
子供達も世界樹の広間に集まり柔軟体操をする
そんな活気ずいた魔界を目にすれば………日々変わりゆくのが解る
弥勒は街を歩けば「聖王さん」と声を掛けられる様になっていた
烈と連れ立って歩くから顔を覚えられたからだ
そして烈が「この方は転輪聖王よ、皆は聖王さんと気軽に呼んでね!」なんて紹介しまくっていたから………余計皆に親しみを持たれ名を呼ばれる様になったのだ
転輪聖王 素戔鳴尊 建御雷神の3名は天魔戦争の覇者として、盟友として多くの者に知れ渡らせた
そして下拵えして、晴れて皆の前に連れ歩く機会を設け広めたのだった
聖王さん、市場で売っていたデカチゴ一欠片あげます!とくれたり、皆親しみを込めて声をかけてくれていた
何か魔界でちゃんと存在があって…………弥勒は少しだけ嬉しかったりした
そんな喜びが………嬉しい日々の積み重ねだった
烈は魔界で2週間過ごした
慰霊塔の土台は出来上がり、半年後には慰霊碑が其処へ完成し置かれる事となった
完成披露は盛大にやると閻魔は早々に打ち出していた
「竣工式には魔界を上げてやります!
全員 竣工式には参加されます様にお願いします!」と魔界全土へ告知した
慰霊塔、歴史博物館 閻魔庁 分署 学校、其れ等は烈が指揮を取りが区画割をされ、基礎を創り上げて行った
工程表を作り上げて、基礎にコンクリートを流している間に次の建物に取り掛かると決め、流れるように工程表通りの作業を行う
そして次の工程表を閻魔に託し、ある程度の工事の予定を立てた
それを見届けて烈はやっとこさ人の世に還って行った
人の世は暑かった
ジトジト ジメジメ 梅雨の時期なのに暑かった
烈は「あ~もぉ!此処も暑いのね!」とボヤいた
家に帰る前に久遠の所へ顔を出す
烈を見つけた久遠は「烈!消毒にも来なくて怪我は治ったのかよ?」と青筋を浮かべ謂う
院長室に引き摺って行きチェックする
焼け爛れ黒ずんだ皮膚は綺麗に剥がしてオペをした部分の皮膚は烈の皮膚に定着して、オペは成功していた
が、その他の小さな傷はまだ治っていなかった………
膿んで包帯が膿で汚れている程だった
久遠はそれを見て「おめぇ治ってねぇのに、何処に行ってたんだ!」と怒った
弥勒が「俺が付いてて済まねぇ久遠!烈を怒るならば俺を殴り飛ばしてくれ!」と訴えた
久遠は「お前を殴っても烈の怪我が治るわけじゃねぇだろ!」とボヤいた
久遠は素早く消毒して怪我の手当てをした
「何処にいたのよ?」
「魔界に半月いたのよ……魔界は暑くてね………
治りかけの怪我も膿んだわよ………」
「もっと早く治療に来いよ!」
「来たかったけど、道筋は立てないとね!」
「もういなくならねぇのか?」
「桜町商店街で七夕祭りのイベントやるからね!」
「あ、それ今騒がれてるイベントだよな?」
「え?騒がれてる?
え?小さな商店街のイベントよ?」
「お前と竜馬がイベントに名を連ねてるって騒がれてるぜ!」
「え〜、騒がられるのは困るのよ…」
「無理するなよ、薬出しとくから貰いに逝け!」
と手早く消毒して包帯を巻く
烈は精算をして処方箋を貰い薬局に行く
薬を貰い、やっとこさ弥勒と共に飛鳥井の家へと還って行った
取り敢えず応接間へ弥勒を通して、竜馬を呼ぶ
直ぐに来た竜馬に「竜ゅー馬、弥勒をお風呂に入れて着替えを着させておいて!ボクもお風呂に入って来るからね!」と言い自分の部屋に向かった
竜馬は弥勒を源右衛門の部屋へ連れて行き
「お風呂に入るっす!
着替えは出しとくので、今着てる服は乾燥までして夜には渡せるっす!」と言い服を剥ぎ取り浴室へと押し込んだ
そして着替えをネットに入れて、洗濯機に放り込み洗う
竜馬は風呂場に入ると、湯船にお湯を溜め始めた
「背中流すので取り敢えず、体を洗ったら湯船に浸かって疲れを取ると良いっすからね!」と謂う
弥勒は風呂の椅子に座ると、背中を竜馬に洗って貰った
そして全身を隈無く洗い泡を流すと、湯船に浸かり疲れを癒す
竜馬は「着替え出しとくっす!」と言い浴室を後にした
その頃の烈は本当ならお風呂に入りたかったけど………体拭くだけにしとこうかしら?と思案中だった
久遠が「今日は風呂止めとけよ!」と言ったから、迷う
体は拭くだけても、頭だけでも洗おうかしら?と浴室に入り頭を洗う
頭を洗い、体を拭いていると兄達がやって来た
翔が「烈いるの?」と聞いて来る
「いるわよ!翔にー!」
「お風呂は入ってるの?」
「頭洗ったのよ、でもお風呂は禁止されてるから、これから拭こうと思ってるのよ!」
「久遠先生?」
「そうなのよ!帰る前に診察に行ったのよ
悪化してて………チビる程に怖かったのよ……」
音弥が「なら体拭いてあげるわ!」と言い手伝う
「背中で良いわ、ボクもお年頃だから前は恥ずかしいのよね!」
と兄達の手を煩わせない様に茶化して謂う
が、兄達は手分けして体を拭いてやり、少し湿気った包帯を変えてやった
そしてジャージに着替え一息つくと、竜馬がやって来て
「弥勒風呂に入れといたよ!」と告げる
「悪かったわね竜ゅー馬!」
「気にしなくて大丈夫っす!
所で!皆は呼ぶんすか?」
「…………どうしようかしら?」
「皆 寂しがってましたよ!
飛鳥井の家族なんか、宴会すらない日々を送ってるっすからね、呼んで宴会開くと喜ばれる事間違いと想うよ!」
「ならグループラインで一斉送信するわ」
携帯を手にするとラインを手にして、グループラインにて
「ただいま!帰ったのよね!」と送ると神野達が一斉に【お帰り!】とラインして大変な事になっていた
携帯の着歴見ると暦也があり、烈は直ぐ様暦也に電話を入れた
暦也は『報告はお前本人に送ると決めてるからな!今から送るから確かめろ!』と告げた
「了解!なら確かめるから送ってね!」
と謂うとノートパソコンに膨大な量の報告書が届いた
烈はそれは後で見ようと両親にも「ただいま!」と報告
祖父母にも、榊原の祖父母にも「ただいま!」と報告
そしてノートパソコンを持って応接間に行き、ソファーに座りながら資料に目を通していた
烈の携帯は竜馬に放り、竜馬が対応に追われていた
直ぐ様 康太から電話があったが、竜馬が出た
『烈、帰ったのかよ?』との問いに竜馬は
「還ったら帰ったで連絡事項が多々とあり、俺に携帯放り投げて対応してるっす!」とボヤいていた
康太は笑い『今夜は宴会か?』と問い掛ける
「はい!神野達には会費5000円徴収するっす!と連絡してる最中なんです!」と告げる
『なら伊織に買い出しに行かせねぇとな!』
「なら徴収して会費を慎一に渡すとするっす!」
『おー!楽しい時間を送れそうだな!』
楽しげな声を聞き竜馬は電話を切った
神野達には「会費5000円っす!慎一捕まえて買い物に出て欲しいっす!」と送る
烈は只管PCの画面を見ながら
「やっぱりね………」と呟いていた
竜馬は「ひょっとして頼朝の報告書っすか?」と問い掛けた
烈は頷くと竜馬はPCの画面を覗き込んだ
「どうする気っすか?」
「総ては七夕イベントを成功させた後ね!」
「七夕イベント!大成功させるっす!
兄さん達はそれはそれは頑張ってイベントを進めてるっす!」
「それは嬉しいわね
でも久遠先生ぇーが知ってる程なのよね?
それはそれで怖い気もするわよ………」
「まぁ……成る様にしかならないっす!」
「そうなんだけどね………」
その日は大喜びして来た神野達や腐れ縁達が詰め掛けて来て、飛鳥井は久し振りの宴会に大盛あがりを見せた
そして翌日から尽力を尽くした七夕イベントは、想定外な人が押し掛け、その混雑には警察が出る程だったが、対したトラブルもなく大成功の内に幕を閉じた
商店街のお店は皆 凄い売上を叩き出して、またイベントをやってくれと頼む程だった
が、烈は自分達も参加して遊びたかったのに、それすら出来なくて………残念で仕方がなかった
が、七夕イベントは無事終えられ、烈は一息ついた
それでも完璧に休める筈もなく会社に顔を出して、工事の工程表を見てチェックをしたり、やる事は多々とあった
ある程度見通しを着け、事前に調査をしていた
早瀬頼朝を何とかせねば、と想い時間作りホテルに呼び出し話をする事にした
隼人もこのままでは洋子が可哀想だし、道筋を立てねばならないのは解るのだ………
そろそろ動かねば間に合わなくなる………のは明白
烈は飛鳥井建設に出勤し、宗右衛門の仕事を片付けた後に、動くつもりで竜馬に
「竜ゅー馬、今ならモーニング食べれるから、会社の横のカフェに行きましょうか!」と誘う
竜馬は腕時計を見ると午前10時ちょい過ぎなのを確認し
「久々にモーニング食べれるんすね!」と喜んでカフェへと向かった
烈は動くならば、話し合いに呼び出されたとしても、直ぐに動ける場にいねばならないだろう………と詠んでカフェへ行こうかと誘ったのだ
竜馬はそれを踏まえ、その提案に乗った
烈はカフェに行き、一階の観葉植物の横に座り、静かな雰囲気を楽しみつつ、神野達のグループラインに一斉送信する事にした
どうせ、オーディションの話もせねばならないのだ
連絡が付かない烈の連絡を待っているだろう………と踏んでラインをしたのだった
「晟雅ゃ、直君、きょーちゃん、おーちゃん
あのね、今直ぐにホテルに部屋を取って欲しいのよ
その時 必ず早瀬頼朝と一条隼人を連れて来て欲しいのよ!話があるからね!」とグループラインで送信
ラインを見た神野達は一瞬……息が止まる思いをした
そろそろか………と思っていたが………突然のラインに………覚悟を決めた
神野は「隼人……捕獲しねぇとな!」と謂うと小鳥遊を呼びに行った
柘植は「ホテルは何処の事務所の払いにしますか?」と問い掛けた
小鳥遊は「今後の話も出来るならばしたいので、皆の事務所で出し合うしか無いでしょう!
隼人と早瀬だけならば、うちの事務所と三社共同事務所での支払いとなります!」と謂う
須賀も「だね、オーディションとかの話し………
そろそろしたいね
ならば其々の事務所のスタッフと小鳥遊と共にホテルは予約させよう!
経理の者に話を通してホテルを予約させて下さい!」と納得の言葉を放つ
柘植も「だね、ならばうちの事務所のスタッフも動かし協力させます!」とスタッフを呼び寄せた
相賀は「ならば儂は早瀬を呼ばねばならぬな!」と急いでスタッフに指示を出した
神野達や三社共同事務所のスタッフ達は忙しく動き回り、小鳥遊はスタッフと協力してホテルの部屋を取った
小鳥遊は「この事務所から近いホテルを取ります!その方が烈も来やすいので!」とスタッフに指示を出して少し大きな部屋を部屋を探し、予約して押さえたのだった
ホテルの部屋を取ると
「ホテルの部屋は押さえたから、捕獲が終わり次第烈へラインするからね!」と告げた
神野達は頷いた
暫くしてスタッフから「一条と早瀬、捕獲しました!」と報告があると、小鳥遊は
「ならば烈にホテルのマップと部屋番号を添付して送らねば!」
と呟きラインにホテルのマップと部屋番を伝えた
「ホテルへ行くから変装させて!」と謂うとスタッフが早瀬と一条を変装させて車に押し込めた
隼人は事務所で只管写真集のブロマイドにサインを入れ、早瀬に至っては、七夕の翌日から仕事はストップを掛けて、事務所で内勤の仕事をさせていた
隼人も記者会見を終えねば、何処からスキャンダルが出るか?解らないから仕事はセーブしていた
烈はホテルのマップと部屋番を受け取ると
「竜ゅー馬、5分で行けるかしら?」と問い掛けた
竜馬は「5分を所望っすか?ならタクシーで行くっす!」と謂う
「カフェのお金払うから、竜ゅー馬はタクシーお願いね!」
「了解っす!」
竜馬はタクシー予約のアプリを起動させ、カフェの前にタクシーを配車させた
烈はレシートを手にすると、バーコードを翳し自動精算機に読み込ませ支払った
そして竜馬と共にカフェの外に出ると、タクシーが目の前で停車した
「三木様ですか?」
とタクシーの運転手が呼び掛ける
竜馬は「はい!」と答えると後部座席側のドアが開かれたタクシーに乗り込んだ
「近くで悪いですが、エンリッチ横浜桜木町までお願いします!」
そう告げるとタクシーは走り出した
そして暫く走るとエンリッチ横浜桜木町に到着して、タクシーは停まった
竜馬は近くて悪いからと、運転手にチップを渡して、烈と共にタクシーを降りた
そしてホテルへ入ると、神野達は今来たばかりなのか、フロントにチェックインの手続きをしていた
烈に気付いた相賀は「烈、速かったね!」と傍へと近寄った
「動くならば近場を予約すると、カフェにいたからね!」と烈は謂う
チェックインを終わらせた小鳥遊はキーを手にしてエレベーターへと向かう
烈と竜馬は早足でエレベーターに向かうとボタンを押して、やって来たエレベーターに飛び乗った
小鳥遊は皆が乗ると行き先ボタンを押した
そしてエレベーターを降りると予約した部屋へと向かった
小鳥遊はカードキーで解錠すると、部屋のドアを開けて皆を先に部屋に入れた
ソファーに座ると柘植は珈琲7つ、ミルクティー一つをメロンソーダを3つ、ルームサービスでオーダーを出した
暫くすると給仕がワゴンを押してルームサービスを持って来た
小鳥遊が指示を出して烈はミルクティー、他は珈琲を置いて、小鳥遊は烈の前にメロンソーダも置く様に指示をした
給仕が部屋を出て行くと、メロンソーダを座ってないテーブルに並べて置いた
「クー達いるんですよね?」
小鳥遊が言うと烈のポケットから出て来て、メロンソーダを置いた席に座った
スーは「小鳥遊はん!解ってますがな!」とご機嫌でメロンソーダを飲み始めた
烈は珍しくサコッシュではなく紙袋を手にしていた
その紙袋の中から書類を取り出すと、早瀬の前に置いた
「目を通して間違いはないか?確かめて!」と謂う
早瀬は震える手で…………書類を手にすると丁寧に書類を捲り………中を確かめるように見た
烈はその間に「一条隼人、ボクは出ないけど結婚会見やりなさいよ!」と告げた
隼人は「烈は………出てはくれないのか?」と問い掛けた
「出ないわよ!
ボクが出てどうするのよ?
そろそろ一条隼人は【R&R】以外の仕事の境地の開拓をせねばならないのに、ボクが出てどうするのよ?」
「え?オレ様は………もう烈とは仕事は出来ないのか?」
「ワンランク上に行かないと先がないからね!
況してや結婚するなら今までと同じは駄目よ!
意味解るでしょう?小鳥遊!」
烈は敢えて小鳥遊に話を振った
小鳥遊は「そうですね、隼人も30歳となる俳優としての渋さが出ても良い頃かと?」と答えた
「永遠に共演が無理だとは言ってないわよ!
だけど、其れにはワンステップ上がらなきゃならないのよ!
ボク達は留まらない!常に模索して探しているのよ!其れには斬らねばならない感情や柵は断たねば先へは逝けないのよ!
ボクが祖父母や仲間しか仕事しない………とか謂われ時期もある様に………人は留まれば進化はないと判断されちゃうのよ
況してや隼人は妻を娶るんでしょ?
ならば此処から先は己の信じる道を逝かねばならないのよ!
其れが大人になると謂う事なのよ!」
「大人………沢山のモノを斬らねば………大人にはなれないと謂うならば、大人になんかなりたくなかったのだ…………」
隼人は本音を吐露した
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