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第2話
「その一晩で妊娠したのか」
「はい…」
「そうか…そっかぁ…ふふっ」
「申し訳ありません」
上司は急にふわりと抱きしめた。
「そんなに泣くな。七星が泣くと…」
そうだよな…大の男が色男にすがり泣くなんて気持ち悪い以外の何物でもない…せめてもっと小柄なら…可愛いなら…だから…上司の胸を押して離れようともがくけどこの人結構力強いな…
「お前のその顔は…」
気持ち悪いでしょ?あぁ。だからかぁ…だから見えないように隠してるんだな。あまりにも醜すぎて…汚すぎて…見てられないからまだこっちのほうがマシってことか…
「…する…」
「え?」
今なんて?
「ふははっ…お前のその顔は…ふふっ…」
そう言いながら俺を担ぎ上げる。何?何事!?
「ちょ…」
突然のことに落とされないようにしがみついてしまう。抱き上げられたまま人通りのない路地に連れて行かれてしまった
「はぁ…はぁ…」
うわ…この人…人の匂い嗅いでる…なに?俺臭い?すいません…立派な中年なものであんたみたいに爽やかな香りはしません…
「はぁ…たまんね」
「へ?」
「七星のその泣き顔…すげー興奮するっ…!!」
そういうと噛みつくようなキスをされた。
「んん!?」
俺の唇を美味しそうに貪る目の前の獣に呆気にとられて何もできない。
「ふはははははっ!!!」
ゲームのラスボスみたいな声で笑い続ける上司に恐怖さえ覚えてきた
「あの…」
「産むのか?」
「相手がわからない以上それしか方法はないと…パートナーの同意が必要ってことだったので…あ…あの…失礼を承知でお願いします。サインしてくれませんか?」
「いやだね」
「そ…ですよね…すいません…」
産んで育てられないならって…考えたけど…そもそもここにいる小さな命を奪うなんて…
驚いて止まったはずの涙がボロボロと溢れ出す
「不安で不安で仕方がないんです…こんな風に男で妊娠できることなんて知らなくて…周りに誰もいなくて…一夜の過ちで妊娠して…父親が誰かわからない…でも間違いなく俺の子どもで…俺の勝手で…一人の命を握りつぶすなんてそんなこと…できないっ…だけどっ…怖いっ…」
「落ち着け。な?」
今度は甘い優しい顔で目元に口付けた俺より少しだけ背の高い上司を見上げる
今度は優しい笑顔で俺を見つめ髪を撫でてくれる
「…あのな。父親のこと…俺」
「ご存知なんですか!?」
「あぁ。心当たりがある…大アリだ…」
そして俺は衝撃の事実を知ることになった
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