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第10話

「腹、いっぱいになった」 「ん、よかった」 「…ありがとう」 リオは後ろからハグしたまま離れない。 昼食の年越しそばを茹でているので、いい加減離れて欲しい。 「晴輝」 「はーい」 「晴輝」 そしてずっと名前を呼びながら、猫のように顔を頭に擦り付けてくる。 「血、どうやって取った?」 「あぁ、採血キット。薬局にあるやつ」 正直に伝えると、リオは俺のシャツの袖を捲り上げ、場所を確認する。 「痣」 「え?」 血を取った場所を確認すると、痣になっていた。きっと、取った後に押さえておく時間が足りなかったのだろう。 「痣…」 リオは痣を優しく撫で始めた。 「大したことないよ」 「晴輝…」 しつこい。 過去一度あったが、リオはメンタルがヘラってしまうと面倒くさくなる。 普段あんなにも口が悪いのに、一度ヘラってしまうと、虐げられた犬の様になってしまう。 こうなるともう、かわいいとか思えない、ただただうざい。 「リオ!今蕎麦茹でてるから!!て言うか、俺がキッチン立ってる時キッチン立ち入り禁止って何度も言ったよな!?」 怒るとさらにしょんぼりして、トボトボ歩いてソファにうずくまってしまった。 湯を切った蕎麦麺につゆをかけ、ネギと鴨を盛り、立ったまま一気に胃袋にぶち込む。 しょげているリオの隣に座り、丸くなった背中を摩る。 「リオが思ってる程、俺脆くないよ。こんな痣、痛くもないし、すぐに治るし」 リオは体を起こし、また俺の腕を取り、袖をまくる。 「リオが飢えで苦しんでる方が、しんどかった」 リオは無言で痣を撫で続ける。 「いつも言ってるだろ、リオが死ぬまで、いや死んでも、ずっと隣にいてやるって」 「…俺のせいで…ごめんな」 「バカ、これから何十年、何百年、支え合って生きてくんだよ」 リオのサラサラな髪をぐしゃぐしゃにかき乱してやった。 「これからの人生、楽しみだな」

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