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第12話
新年の忙しい時期も終わり、経営している料亭もようやく落ち着きを取り戻した。二月の新作を自宅で試作するため、仕事終わりにスーパーに立ち寄った。旬の魚と野菜を複数カゴに入れ、会計を済ませて帰路につく。
一月下旬、まだまだ冷たい風が吹きつける。歩行者用の信号、早く青に変われと、その場で足踏みをする。
ふと視線を上げた瞬間、衝撃音と歩行者の悲鳴が耳を劈く。右折した軽自動車と、直進していた普通車がかなりのスピードで接触した様だ。歩行者や、近くの店の従業員が事故車に駆け寄る。
目の前の事態を把握した途端、買い物袋を握る手は発汗し、心臓が跳ねる。大きすぎる心拍は吐き気を誘発する。
現場から逃げる様に、自宅マンションへ向かう。
動揺しているせいか、手が震え、鍵を鍵穴に挿すことができず、インターホンを鳴らす。リオが直ぐに鍵と扉を開けてくれた。
「晴輝?!」
声を聞いて安心したのか、全身の力が抜け膝から崩れ落ちる。座り込む直前、リオは体を支えてくれた。リオの肩を借り、なんとかリビングのソファまで辿り着いた。
「ん」
リオはティッシュを数枚抜き取り、こちらに差し出す。
「え?」
「…涙出てる」
言われるまで気が付かなかった。
「ごめん、ありがとう」
ティッシュを受け取り、涙を拭う。
「シャワー浴びて、先に寝るね」
「晴輝」
「ごめん、一人にさせて」
今リオの優しさに触れてしまえば、きっと余計なことを言ってしまう。リオを更に不安にさせてしまう。だから、一人でいたい。
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