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『慶様』 『なんだ』 その不器用さを表すように、ぎこちなさそうに頭を撫でてくれる御月堂に笑みと縋るような目で見た。 『慶様は、私のこと愛してくれますよね』 『急にどうした。⋯⋯あの時、そう契約を交わしたはずだ。いや、口約束では信用ならないものだ。ならば、改めて書面で交わしても構わない』 『キス、してくれませんか』 瞼がピクッと痙攣する。 『⋯⋯キスで、交わしたことになるのか』 『はい』 『そうか⋯⋯』 退院し、その足で前にいたマンション内のエレベーターで二人きりになった時、妬いている御月堂のフェロモンに充てられて、誘われるようにしようとしたすぐに証明できる愛の口付けが欲しい。 ところが、御月堂は躊躇している。 書面で交わすよりも容易いことのはずだが、何故ためらっているのだろう。 したくないのだろうか。 『無理にとは言いません。また今度でも⋯⋯』 『そうしてくれると助かる。⋯⋯場所が悪い』 彼の独り言にハッとした。 そうだった。自分達以外にも人がいる。 エレベーターの時よりも注目を浴びてしまい、どことなく期待の眼差しを向けられているようで、その視線達から逃れるように顔を俯かせた。 『⋯⋯早とちりでした』

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