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「大河、どうしたの」 『まま』 「え、はい」 『まま』 「うん、えと、ママに何か用かな」 『まま』 「⋯⋯大河?」 何を伝えたいのか。 ただこちらをじっと見ては、その『ま』を押してくる我が子の心情を全く読めず、機械音でも『まま』と呼んでくれたことが嬉しいというより、戸惑いを覚えていると小口が言った。 「御月堂さまなんかより自分のことを構って欲しいんですか? 『ま』以外を押さなきゃ分からないですって。かまちょばかりしていると、そのうちママさまに嫌われますよ」 『ま』を押す指を止めた。 小口に言われたことがよっぽどきたのだろうか。 と、様子を伺っていると、急にボードを持ったまま振り被ったかと思えば、そのまま小口に当てるではないか。 「大河⋯⋯っ!」 「いたいたっ!」と咄嗟に頭を庇う小口から大河を引き離した。 そのまま大河を自分の方へ振り向かせると俯きがちであったが、不貞腐れているように見えた。 「いくらなんでも小口さんに物でぶつけちゃダメだよ。小口さんが怪我しちゃうよ」 「⋯⋯」 「⋯⋯今のは大河が悪いから、謝ろ──⋯⋯大河っ」 いやいやというように身体を激しく揺らすと、思わず手を離してしまった隙に、ボードを抱えてリビングから出て行ってしまった。 「⋯⋯大河⋯⋯」 何か気に障るような言い方をしてしまったのだろうか。だが、今のは大河が良くないことをしたのだから、ああいう言い方になるとは思うが。 「わたし、大河さまの様子見てくるんで」 「あ⋯⋯」 「愛賀」 すぐにその後を追ってくれた小口の後ろ姿を見つめていると、御月堂がそばにしゃがんだ。

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