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30.
「お前は何も悪くない。元はといえば、小口が少々茶化すような言い方をしている。先ほど私にもあのような言い方をしていたが、あれは怒りたくなるし、小口にも非がある部分はあるが、大河のあの態度だと庇いきれないところはあるな」
「⋯⋯難しいです⋯⋯」
子育ての面もそうでなくても、中間の立場になって人を納得する形にすることなんて自分には到底できないことだ。
こっちがいくら言っても、大河のように相手の方が悪いと思っていると、すぐに和解することは難しい。
その一言だけ言った後、黙ってしまった姫宮のことを肩を抱いたまま、ただ何も言わずにいたのであった。
同じ部屋内にいた安野が申し訳なさそうな顔をして、「⋯⋯御月堂様、お時間が⋯⋯」と声を掛けたことで手が離れてしまった。
しかし、離れる際やや躊躇っているようで、時間があればそのままただいてくれたのかもしれないと思うと、そのままいて欲しいと思ってしまった。
だが、彼の立場上、気安くは言えない。
迷惑をかけてしまうという気持ちが先に来てしまい、せめて玄関先で見送ることにした。
「⋯⋯愛賀、あまり気に病むな」
「⋯⋯はい」
「では、また来る」
「行ってらっしゃい」
迎えに来ていた松下に扉を開けてもらい、御月堂の姿が見えなくなるまで力なく手を振っていた。
「⋯⋯姫宮様、行きましょうか」
「⋯⋯はい」
そばで同じように見送っていた安野を伴ってリビングに向かう最中、ある部屋の扉から覗いている者の姿が見えた。
「⋯⋯大河」
先ほどの自身の行ないことに対して罰が悪そうに、というよりも、御月堂が帰ったかどうか見張っているように思えた。
と、その様子を姫宮に気づかれ、目が合った瞬間、バタンっと勢いよく音を立てて閉められてしまった。
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