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31.
その扉にそっと触れた。
「⋯⋯大河、さっきのこと小口さんにきちんと謝った?」
「⋯⋯」
「⋯⋯小口さん、そこにいるのであれば大河のこと、よろしくお願いします」
「はいはーい」
「⋯⋯えっ」
突如、後ろから声が聞こえ、肩が上がるぐらい驚いた。
安野と共に後ろを振り返ると「どうもどうも」と片手を軽く上げる小口の姿があった。
「小口さん、どこにいらしていたのですか」
「トイレですよ。大河さまの部屋に入ろうとしたら、追い出されたので。トイレで暇潰ししてました」
「小口、あなたって人は⋯⋯っ」
肩を震わせ、今にも噴火しそうな安野に身を引いたが、「⋯⋯しょうがないですよね」と深く息を吐いた。
「話を聞いていた限り、元はといえばあなたが火種を起こしたのですから、今の大河さまに近づくだなんて怒りを買っているようなものです。それこそ反省なさい」
「えーじゃあ、御月堂さまにも一言余計だと言われたので、ついつい言ってしまう焼け石に水なわたしは、今すぐにでも辞めさせたらいいじゃないですかー。ママさまがいますし」
「⋯⋯っ」
ちらり、と見られ、ビクッと身体を震わせる。
入院をしていた頃、自分よりも先に大河のことを世話をしてくれていたようで、そして今でも長く一緒にいるがゆえにある程度大河が思っていることが分かっている。
だから、自分がいる意味がないとふと思ってしまったことがあった。
それをどことなく悟ったのか、それともやはり働く気がないから辞めたいのか、彼女の真意は分からないけれども。
「私は辞めて欲しくないです」
「小口! その言い草は何なんです!?」と怒らせる安野の言葉に被せるように言った。
勇気を振り絞って言ったものだから、その一言を発しただけでも緊張が高まる姫宮を二人が見ていた。
「姫宮様、今なんと?」
「あ⋯⋯いえ、なんでもありません」
「わたしに辞めて欲しくないと、そう仰ったのでしょ?」
「⋯⋯はい」
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