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ゆっくりと咀嚼しつつも、小さくなっている姫宮を見守るような視線を送る今井達の元に来客を告げるチャイムが鳴り響いた。 「誰かしらね」 とっさに今井がインターホンを見、一言告げた後、玄関に向かう今井の後を当たり前に江藤は追った。 そして、小口は当たり前にその場から動かなかった。 「誰が来たんでしょうかねー」 「ええ⋯⋯」 「慶さまが来てくれたら嬉しいですか?」 「⋯⋯っ」 不意に言われて、動揺した。 「⋯⋯そ、それは⋯⋯もちろん⋯⋯」 「そうですかそうですかー。慶さまの方がいいですかー」 わざとらしく「方が」と強調して言う小口に、それは、と口にするが前に大河がこちらを見ていた。 御月堂と話しているのが嫌だと小口が言っていた。 だから、今も御月堂よりも自分の方が言って欲しいということなのだろう。 どんな形であれ、自分が産んだ愛しい存在だ。それは我が子が一番可愛くて仕方ない。 が、御月堂の場合はそれとはまた違った感情なのだが、どんな感情であっても自分が一番でいて欲しい大河に説明しても意味がないし、余計にこんがらがってしまう。 どうしたら。 「たーちゃん、こんにちは!」 ぱたぱたと軽い足音がした時、少し勢いを開けて伶介が入ってきた。 息を切らしているように見える。 「え⋯⋯伶介くん⋯⋯?」 思わぬ来客に目を見開いていると、「すみません、突然お邪魔してしまって」と慌てて女性が入ってくる。 それは何度も会ったことのある伶介の母・玲美だった。 伶介はそこが似たのだろう、利発そうな目元が申し訳なさそうに下がっていた。 「この子がどうしても大河くんに会いたいって、言うことを聞かなくて⋯⋯って、こらっ!」 押さえていた母親の腕から上手くすり抜けた伶介は、一直線に呆然としている大河の元へ行った。

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