39 / 69

39.

「たーちゃんにあいたくて、ようちえんがおわってからすぐにきたんだ」 松下と共に初めて来た時は礼儀正しく挨拶をしてくれた彼だったが、それよりも大河に会える嬉しさが大きいようで、それは年相応らしくて可愛らしく思える。 今も手を取って嬉しげに笑う伶介を見て、気圧されていた大河だったが、感化されたようでどことなく嬉しそうにしている。 幼稚園に行っていれば当たり前の光景だ。あんな風に同級生の子と仲良くしているのは微笑ましい。 最初のうちは、「たいがくん」と呼んでいたのが、いつの間にか「たーちゃん」とあだ名を付けていることだって可愛らしいことにこの上ない。 の光景であるはずなのに、どことなく寂しく感じるのは何故だろう。 「入った途端急に走るものですから、何かと思ったら」 「可愛らしいことですね」 「あら、伶介様がいらしていたのですか! まあ本当に可愛らしいこと! 姫宮様のために風呂場をきっちりしっかり洗っている間に来られるとは思いませんでしたわ」 今井と江藤、それに安野らがぞくぞくと入ってくる。 その安野達にも玲美は一人ずつ挨拶しては、「突然押しかけてすみません」と頭を下げていたが、それぞれがそれぞれ、「いいんですよ〜」と手を横に振っていた。 いつも賑やかであるが、さらに賑やかな空間になっていく中、玲美と「今日はプリンを作ってみたんですけど⋯⋯」「とても美味しそうにできてますね! 私も今度作ろうかしら」と、世間話をしていた。 「たーちゃん、おいしそうなぷりんをたべてるね」 隣でその話題を口にした時、不意にそちらに目線を向けると、大河が大きく頷いていた。 大好きな母親が作った美味しいプリンを言われて、どうだ、いいだろう⋯⋯と自慢しているのかもしれない。 「伶介くんも食べる?」 「えっ、いいんですか!」「姫宮さん、いいんですよ」 とっさに喜ぶ伶介と玲美の言葉が重なった時、「あ⋯⋯」と伶介が声を上げた。

ともだちにシェアしよう!