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「ぼくはいいんです。たーちゃんとたべてください」 「でも⋯⋯」 「きゅうにおじゃましてしまったので、そこまでしていただいてはもうしわけないので」 そのぐらい何とも思ってないのに、と思うのに親がいる手前、先ほどの自身の行ないを反省しているのか、罰の悪そうにしている伶介にこれ以上声を掛けられない。 どう言ったらいいんだろう。 「あの、伶介くん⋯⋯」 考えがまとまらぬままで何か言おうとした時。 伶介の前に食べかけのプリンが差し出される。 誰がと思ったのも一瞬で、その差し出した相手に今度は驚かされることになった。 「え、たーちゃんいいの⋯⋯?」 伶介もまさかそうしてくれるとは思わなかったのかもしれない。非常に驚いている彼に、大河は頷いた。 「でも、これはたーちゃんのぶんだから、たべて。ぼくはたーちゃんのやさしさだけうけとっておくね」 ありがとう、とにこにこと笑う。 何て良い返しをするだろう。すぐにそのような返しを思いつくなんて、この子はまさしくあの松下の子どもだという尊敬の眼差しと、5歳児に当たり障りのない返しすら言えない自分を恥じた。 ところが、大河はそれで納得しなかったようだ。無言でぐいぐいと押し付けてくる。 「大河、そんなことをしたら落としちゃうよ」 「そうですよ大河様。誰かに自分のものを分け与える優しさは尊重しますが、それでは伶介様の優しさの意味がなくなりますよ」 安野がそう言って、「それは大河様が食べてください。これは伶介様にあげます」と真新しいプリンを差し出してきた。 と、二人に優しい笑みを見せていた安野は不意に姫宮の方へ向けた時、軽くウインクをした。 が、一瞬眉を下げたのは気のせいだろうか。

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