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と、いつもしている遊びを口にした時、大河が眉を潜める。 やはり大河自身も大体している遊びを毎日していて飽きてしまっているのか。それとも、一気に言われて、それだと反応したかったのに頷く隙を与えなかったから機嫌が悪くなってしまったのか。 もう一度、今度はゆっくりと大河の反応を伺うように言ってあげようと口にした時。 脇に抱えていたボードを両手に持ち直した大河が打ち出した。 『あにめ、おえかき』 「⋯⋯その二つがしたいの?」 うん、と頷いてみせた。 その反応に少しばかり目を細めた。 「分かった。じゃあそうしようか」 しゃがんでいた姫宮が立ち上がるのとほぼ同時に、大河はおもちゃ置き場へ行き、お絵描き帳とクレヨンを引っ張り出していた。 その様子を尻目に大河が大好きだというハニワのアニメにチャンネルを合わせた。 鹿だろうか。立派な角を生やしたハニワがどこかの寺に向かって行進していた。 相変わらず無遠慮に観光名所らしい場所を壊しに行く行為は理解し難い。 そういえば、伶介も観ていると言っていた。大人では理解できないこの行為が、子どもにとっては面白いと思える行為なのかもしれない。 やってはいけない破壊行為が面白いということ? それか、そうしたい願望? 考えれば考えるほどかえって分からなくなる。 考えるのを放棄した姫宮は、ボードを脇に抱え、両手にお絵描き帳とクレヨンを持った大河がソファに座るのを、少し距離を取って座った。 大河が持ってきたお絵描き帳は10冊目に差し掛かる。 それがこの部屋に引っ越してきてさほど経ってなくてだ。 毎日描いていたらそのぐらいになるかもしれないが、それにしても描く量がすごい。母親に対する熱意というものか、それが凄まじい。 何故、そんなにも良く思われているのかが不思議だ。"あの人"が何を吹き込んだのか。 今まで描いてきた姫宮の絵を捲っていく様を見ていき、新しいページが捲られる。

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