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今日もまた姫宮を描いてくれるのだろう。 どんな絵を描いてくれるのかと淡い期待をしていた。 しかし、画面いっぱいに長半径で描いたことで姫宮ではないことが断定されてしまった。 そもそも茶色のクレヨンを手に持っていたことから察してしまう。 「え⋯⋯っと。大河、何を描いているのかな」 「⋯⋯」 不意に指を差した。 その指差す先を辿ると、付けていたテレビだった。 つまり。 「ハニワを描いているんだね」 うん、と小さく頷く。 今日はハニワを描きたい気分だったのか。 当たり前に姫宮を描いてくれると思った自分が自意識過剰のようで、恥ずかしく思える。 姫宮と同じくらいハニワを描いている時があるというのに、本当に自分は。 「ハニワ、本当に好きだね」 縦に頭を動かす。 「今日のハニワ、多分鹿になっていると思うんだ。立派な角を生やしていて⋯⋯かっこいいね」 かっこいいという言葉で合っているのだろうか。 自分で口にしておいて疑問に思ってしまったが、大河が同意するように頷いてくれたから、ひとまずは良しとしよう。 今だって、顔を描いた後、角を描いていることから、かっこいいと思っているはず。 そんな鹿風ハニワを描き終えたらしい大河が、自身の描いた絵を眺めているかと思うと、不意に姫宮に見せてきた。 少々驚いたのも束の間、笑みのような顔をした。 「今日も、上手に描けてるね」 ただそう言っただけだった。 目線を大河の方に向けると、ぽかんとした顔のまま姫宮のことを見つめていたのだ。 「大河⋯⋯?」 何か余計なことを言ってしまっただろうか。 呼びかけた瞬間、はっとし、慌ててページを捲って、また絵を描き始めていた。

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