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62.
急な慌てっぷりに小首を傾げていた姫宮だったが、その動揺と、耳が赤くなっていることに気づいた時、愛おしさを感じられ、くすりと小さく笑った。
動揺を隠すように次に描いていた絵は、姫宮だった。
にっこりとした顔で描いていたことから、ある質問を投げかける。
「よくそういう顔を描いてるけど、ママ、そんな顔をしていた?」
すると、うんうんと食い気味に頷いた。
今度は姫宮が動揺することとなった。
こんな顔をしている自覚なんてない。
「⋯⋯今も、こんな顔をしていた?」
さっきも大きく頷いた。
え、と思わず小さく呟いた。
そんなはずが。
狼狽える姫宮のことをチラリと見た大河がすぐに逸らして、描くことに集中していた。
しかし、姫宮はそのことを気にしている余裕がなかった。
いつだって人の顔色を伺うように当たり障りのない顔をしてないかと気にして、ぎこちない顔をしていると思っていた。
安野は素敵な笑顔だと言ってくれるが、彼女の場合は姫宮のことを良く思ってくれているようで、だから補正されているのだと思っていた。
だから、大河の絵を通して自分がこういう顔をしているだなんて思わなかった。
「⋯⋯大河。大河が今まで描いてきたお絵描き帳を見せてくれるかな」
大河と住み始めてすぐの頃、大河が安野に嫉妬しているというきっかけで見せてくれたお絵描き帳にもそんな顔で描いていたのを思い出した。
あれは多分、姫宮のことを見たことすらなかったはずの頃のものだが。
ところが、姫宮が言い終える前に大河が全力で首を横に振った。
ずき、と胸が痛んだ。
そんな勢いで拒まれるとは思わなかった反応に、さりげなく胸辺りに手を添えた。
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