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「⋯⋯大河様。ずっと言えずじまいでしたが、あの時はきちんとしたお別れが言えず、申しわけありませんでした。どうしても急に大河様と別れなければならない事情がありまして。ですから、こうしてまた大河様と会えるとは思わなく、大変嬉しく思います」 一気に覚醒した。 大河と上山は以前から知り合いだったのか。 大河が上山に何かをされたわけではないようで良かったものの、それ以上の衝撃の事実に動揺せずにはいられなかった。 まだ産まれて間もない大河を盗った"あの人ら"は結局まともに育てることができず、上山という世話係をわざわざ雇ったということか。 ということは、躾をきちんとしてくれたのは上山だったのか。 けれども、仮にそうだとしても、姫宮のことを知る機会がないはずの彼女が姫宮のことを教え込むことはできないはず。 分からない。よく分からなくなってしまった。 「しかし、大河様にとって裏切られたのも当然のことだったでしょう。⋯⋯こうして、口が利けなくなってしまうぐらいに。私のことを見る度に嫌なことを思い出されるなら、私はいなくなりましょう」 え? 同時に鼓動が高鳴った。 そんなこと、大河はどう思っているかは分からないけど、そんなこと。 どくんっどくんっと鼓動が速まっていく。 「ダ、ダメです⋯⋯!」 少なくとも自分はダメだと思った。 上山のことはまだ分からない。けれど、こんな別れ方はしてはいけないと。 思いきり顔を上げた先には驚いているような顔をする二人がいた。 そんな顔をする二人を見た時、自分のしでかした行動に硬直せざるを得なかった。

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