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66.
「特に大河様のお世話をいつまでとは言われておりませんでしたが、大河様が四歳を迎えた頃、突如として解雇を告げられました」
まつ毛を伏せる。
自分が何か至らぬことをしてしまったのかと思い、依頼主にその理由を問いただしたが、ただ理由もなく一方的に切られたのだという。
大河が四歳の頃というと、公園前で偶然にも会い、そして酷いことを言われた時だ。
あの時のことを思い出してしまい、恐怖で身が竦む。
「姫宮様? 急に顔色が悪くなったようですが、どうかされましたか」
「え⋯⋯? あ、いえ、大丈夫です。なんでもありません」
「そうですか。ですが、ご無理はなさずに」
「はい⋯⋯」
余計なことを思い出して、話の腰を折ってしまった。
しかし、罪悪感を抱えた姫宮をさほど気にしてない様子の上山が話を続けた。
「いわば大人の事情で大河様と離れなければならないことが原因で、大河様からすれば裏切った相手がこのような形で再会するとは思わなくて、ですから信じられないものを見る目をするのでしょう」
「⋯⋯そんなことが⋯⋯」
信じていた相手に突如として裏切られたことは姫宮にもあった。だから、痛いぐらい分かる。
けれども、まだ幼い大河には耐え難いものだ。
それが起因して口が利けなくなってしまったというのか。
だとしたら、原因は上山にある、ということになってしまう。
そんなこと思いたくないのに、そう思わざるを得ないのだろうか。
「ですが、あんなにも元気いっぱいに笑ってくれたご愛息がこんなにも変わってしまっただなんて⋯⋯。これも私がいなくなった影響でしょうか⋯⋯」
上山の独り言に思わず彼女の方を見た。
こうなる前の大河のことを知っている。
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