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「あの⋯⋯」
「はい?」
「上山さんは、こうなる前の大河のことを知っている⋯⋯ということですよね」
「はい、そうなりますね」
「情けないことなのですが、私は今の大河しか知らないんです。ですから、上山が仰っていた大河のことを教えて欲しいんです。⋯⋯ご迷惑でなければですが⋯⋯」
膝上に乗せていた両手を強く握りしめた。
普通は産まれてから今までの我が子のことは分かっているもの。
世間知らずのせいで、産まれた時から不遇になってしまった大河を、代わりに育てる形となった上山にこうやって我が子のことを教えてもらうだなんておかしいこと。
けれども、それでも教えて欲しいと思った。
上山しか知らない大河のことを。
「情けないなんて、全くないですよ」
そっと、震えるくらい握りしめていた手に上山の手が重なる。
「深い事情は存じませんし、かといって訊くことはしませんが、普段の姫宮様をお見受けしますと、あなた様なりに一生懸命頑張って大河様と接しているではありませんか。ですから、自信を持ってください」
笑みを含ませた顔を見せた。
それは先ほどよりも優しい顔だった。
その顔と共に頑張ってえらいと励ましてくれたその言葉に、普段はさほど接することはなくとも、姫宮の視界に入らずとも見てくれていたのかと思った瞬間、夢から覚めたかのようにハッとした姫宮は、気づけば視界が滲んでいた。
「⋯⋯ありがとうございます」
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