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開けるのも億劫な瞼を震わせながら開けた。 また自分が気づかぬうちに寝てしまった。 目が腫れぼったい。 こうなった原因は、"客"を満足させることができなくて殴られながら貫かれたか、骨が軋むぐらいきつく縛られ、叩かれたか、ただ泣かせるのが好きだから相手が満足するまで好き放題させられたか。 なんだっけ。 悲鳴を上げていると錯覚している身体をゆっくり起こしている時、すぐそばで息を呑むような音が聞こえた。 まだいたのかと瞬時に身体が強ばった。 恐怖を滲ませた目を向けると、固まった。 「⋯⋯慶、様?」 どうしてこの人が。 "客として"この人と身体を繋げてしまっただろうか。 そんなはずが。 動揺していると、目を逸らした御月堂が呟くように言った。 「⋯⋯勝手に入ってすまない。お前の様子が気になって来たのだが⋯⋯寝ていたのだな。⋯⋯あ、いや、寝ている相手に何かしようというわけではないからな。ただ本当に気になってどうしたものかと⋯⋯」 しどろもどろになりながらも必死に弁明する彼に微笑みにも似た顔をした。 やっぱりこの人は、そういうことも無理やりしようとしない。 ただ純粋に心配してくれていることが嬉しくて温かい気持ちになった。 「わざわざ私なんかのために、足を運んで頂いて申しわけありません」 「確かに忙しくはあるが⋯⋯いや、そんなことよりも愛賀が心配で来た。だから、謝ることはするな」 「はい、申しわけ⋯⋯あ」 ごく自然と言いかけた言葉を噤んだ。 「⋯⋯ありがとうございます」 困ったように笑った。 そんな顔を見せたからか、どこか気まずそうに声のような声を詰まらせていた御月堂だったが、ふと目線を上げた。 「何か悲しいことがあったようだな。⋯⋯目は痛くないか?」 「目が開けづらいですが、大丈夫です、けど⋯⋯」 「?」 「⋯⋯あ⋯⋯私自身よく⋯⋯ですが、恐らく上山さんからああなる前の大河の話を聞いてからだと思います。⋯⋯大河がどう笑うか分からなくて」

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