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自分から教えて欲しいと言ったクセに。
いや、自分が勝手にどんどん悪いことを考えてしまったからだ。上山にも大河にも困らせることをしてしまった。
こんな自分が嫌になると視界に膜がうっすらと張る。
さっきあれほど泣いたのにまだ溢れてしまうのか。
「上山が前から大河のことを知っていたのか」
「はい。⋯⋯上山さんが言うには、ある方の依頼で⋯⋯」
「⋯⋯そうか」
顎に手を当てている御月堂はそう呟いたきり、何も言わなくなった。
そんな彼に何か掛ける言葉もない姫宮は目線を落とした。
御月堂は上山が自分のところで雇う前、誰に雇われていたのか知っているのだろうか。
知っていたとしたら、御月堂は上山を解雇してしまうだろうか。
「⋯⋯上山がきっかけで大河がああなったわけではなさそうだな」
「自分のせいで大河は口が利けなくなったと言ってました。けれども、元はと言えば私がしっかりしていなかったせいで、そのような結果を招いたとも言えます。私の代わりに大切に育ててくれた上山さんが前にどんな人に雇われていたと知っていても、どうか辞めさせないでください」
今にも泣きそうな眉を寄せ、訴えた。
そう言ってくるとは思わなかったという様子で驚いているような顔をした御月堂が、「愛賀、落ち着いてくれ」となだめた。
「何故急に上山を解雇させる話になったか理解するには難しいが、お前の息子と関係のある者と考えると、その発想に至ったのだろう。実はここに来る前、上山から事の経緯を聞いていた。愛賀を悲しませてしまったのは自分のせいかもしれないと悔いていた」
「上山さんが⋯⋯?」
「ああ」
御月堂は頷いた。
上山が姫宮のことで責めてしまっている。勝手に泣いて困らせたのはこっちなのに。
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