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74.※発情期
「慶様からしてくれるとは思わなくて驚きましたが、やっとしてくれて嬉しいです。とても、嬉しい⋯⋯」
ため息を吐くように嬉しくてたまらないといった姫宮は、彼の顎辺りを指先で撫でた。
ピクッと反応した御月堂は、「愛賀⋯⋯?」と驚いた顔を見せる。
何故そんな顔をするのだろうかと疑問に思うより、可愛いと無防備な唇に触れた。
「⋯⋯っ」
やや目を見開く。
さっきよりも反応が大きく、そのことさえも可愛いと思った姫宮は自らまた触れる程度のキスを、今度は数回した。
彼の反応といい、誰かの温もりを感じられることが嬉しくて気分が高揚しているようだ。身体の奥底から溢れる熱を深く吐いた。
そんな姫宮とは裏腹に何故か御月堂は戸惑っていた。
彼は嬉しくないのだろうか。
「どうされたのですか? 慶様は嬉しくないのですか?」
「いや⋯⋯愛賀。お前がこんなにも愛情表現をしてくれるとは思わなくて、嬉しくはある。その、応えてやろうとは思うのだが、少し待ってくれないか。匂いが⋯⋯」
「匂い?」
「ああ⋯⋯。お前、発情期 が近いのか?」
「? いいえ」
「そうか。⋯⋯私が原因か」
眉間に皺を寄せ、そのまま黙ってしまった。
真剣な顔をしていることから恐らく思案しているようだが、何をそんなに真面目に考えているのだろうか。
言われてみれば確かに、洗剤の匂いとは違うリラックスさせるような優しくて、そして、気分を高揚させるような甘い匂いが漂っている。
エレベーターの時にも嗅いだそれに似た匂いに、その時になってこの身体が熱いのはそれの影響なのかと気づいた。
最近、抑制剤を飲むのを疎かにしてしまったせいで、アルファである彼に触れた影響で予定よりも早く来てしまったのだろう。
けれどもそんなことはどうでもいい。それよりも躊躇する彼を愛したい。そして、自分のことを愛して欲しい。
多忙な彼がまたいつ会えるか分からないから、その温もりを少しでも感じていたいから。
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