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「御月堂さまが来ていた時からママさまのところへ行きたがっていたのですが、大河さまがいては果てしなくお邪魔してしまうかと思ったので。発情期 も来ていたようですし」
「発情期 ⋯⋯?」
何の話だろう。泣き疲れて、自分でも気づかぬうちに寝てしまったことは憶えているが⋯⋯。
思い当たる節はないと、ぼんやりしている姫宮のことを見ていた小口はニヤリと口角を上げた。
「へぇー、そうですか。そうでしたね。確か姫宮さまはまだ先でしたもんね」
「え、ええ⋯⋯はい⋯⋯」
「なるほどなるほど。そうなりますと、御月堂さまが要因になったと。あの人もやりますねぇ」
楽しそうに笑う。いや、嗤うという表現が合っているか。
ともかく、まるで新しいおもちゃを見つけたかのように悪巧みを考えている彼女のことは意識の外に追いやった。
それよりも小口が言うように御月堂が要因で自分は発情期 になってしまったようだ。
予定よりも早くに、急になってしまったきっかけ。
御月堂、発情期 ⋯⋯。
御月堂が来たのは、姫宮が意識がある時に来ていたと思われる。その時のやり取りで引き起こされた。
何だろうかと、何気なく唇に指先で触れた時、あっと声を上げた。
悲観的になっていた姫宮を慰めてくれていた御月堂が、そういえばキスをしてきた。
大河の躾のことから"あの人"のことを思い出してしまい、御月堂のことを一途に愛し愛されている安心が欲しくて、したいと申し出たこともあった。
エレベーターの時のように二人きりになったからそれで慰めてくれようとした彼の不器用な優しさに嬉しくもあったが、同時に身体の奥が疼くのを感じた。
そこまでは憶えているのに、その後のことは曖昧だ。
兎にも角にもまたやらかしてしまったのだろう。
穴があったら、身体ごと入って埋めて欲しい。
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