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88.

軽く頭を下げ、その場を後にする小口の後ろ姿を見送った後。 静寂に包まれた中、目線を下げた。 あの時見たお絵描き帳しか見たことがなかったが、それでもこんなに姫宮ばかり描いてあるのを見たことがなかった。 それほど姫宮のことを心配し、待ち焦がれていたのだろうか。 どの姫宮もにっこりとした顔をしていて、その大河が描いた姫宮達を見ているうちに自然と笑みが零れていた。 嘘と欲の塊(性風俗)にいた頃、結局は己の欲のために姫宮に贈り物をしていて、それに対しこれっぽちも心が満たされることがなかった。 これから先も自分本意の人達に振り回されるのかと、絶望しても意味のない、何もかも諦めていた。 自分のお腹の中で大切に育て、大変であったが無事に産まれた実の子に会えると思わなかった喜びも相まって、純粋に姫宮のことを想ってくれた大切な贈り物をきちんと飾ってあげたい。 発情期(ヒート)で、誰にも慰めてもらえない寂しさが紛れた気がした姫宮は、しばらくその絵を眺めていたが、ふっとある匂いが鼻を掠めた。 優しく、甘い匂い。 嗅いだことのある匂いだけれども、それをどこで嗅いだか思い出せない。 しかし、手に届く位置に置かれていた物が目に映った時、思い出した。 これは、御月堂のフェロモン。 しかしながら、何故御月堂の上着がここにあるのだろう。 御月堂に初めて発情期(ヒート)時に触れ合ってしまった際に、せめて彼の匂いだと分かる服で乗り越えたいと思ったことがあった。 発情期(ヒート)の時の自分がどんな発言をして、彼に迷惑をかけることをしてしまったかはどんなに考えても分からないが、こんなことをしてしまうなんて。 彼のものが欲しいと思ったが、こんなことを。

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