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自身のことであるのに失態を犯したことは分からないながらも嘆いた愛賀だったが、意識すればするほど感じる彼の魅力的な匂いを、たまらず肺いっぱいに吸った時、何もかもどうでもよくなっていた。 おさまりつつあった熱が腹底からふつふつと湧き上がってくる。 下腹部の、一番挿入()れられたい箇所が焦れったく疼いている。 シたくてシたくて、たまらない。 上着を口元に引き寄せ、深く息を吸った姫宮は、我慢ならずおもむろに下着ごと脱いだ。 その時だ。何か違和感を覚えたのは。 普段よく穿いているのは紐付きのもので、それは寝ている間に何かの拍子で緩んでしまったのだろうと思われるが、何気なくその下着を見た時、何か違うと思った。 恐らく、最後に見たのと違う物だと。 人にも物にも大して興味がないが、唯一下着にはそれとなくこだわりがあった。 それはかつて性的な仕事をしていた時の客の好みが無意識に出ている理由が大きいが。 一応こだわりがあって穿いていた物とは違うそれに、段々と血の気が引くのを感じた。 「慶様とシてしまった⋯⋯?」 泣き疲れて寝てしまった時は、寝込みを襲うことはないと言ってくれたが、それは発情期(ヒート)じゃなかったからだ。 後ろに違和感を覚えないことから、一線を越えてない可能性があるわけだが、もし越えていたとしてももういいやと思ってしまう自分がいた。 そういう"愛"も欲しいと思っていたから。 「⋯⋯欲しいよ、欲しい⋯⋯」 ため息混じりに呟いた姫宮は、彼の服を吸いながら一人で治まることを知らない欲を発散し続けるのであった。

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