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発情期(ヒート)が終わった後、真っ先に向かった。 「何から何までご迷惑をおかけしました」 「いいえ! いいえ、姫宮様! そんな謝ることではないのですよ。むしろすごく心配しました。私が休んでいる間、姫宮様が不安になることがあったそうで! ああ、もう! 四六時中一緒にいられたらと思いますが、なにぶん私事もございまして、現実的には難しいのですけど⋯⋯」 そう口では言っていたものの、そのうち実行しそうな勢いだ。 結局心配だと伝わってしまったけれども、御月堂が言っていたような安野の反応で、どっちにしろ結果的に安野は何かと姫宮のことが心配だということなのだろう。 くす、と小さく笑った。 「え、えっ、姫宮様、何か面白いことでもありました?」 「あ、いえ⋯⋯安野さんはいつも通り、といいますか⋯⋯いつも私なんかのために気にかけてくださり、ありがとうございます、と言いましょうか⋯⋯」 はっきりとお礼を言えばいいのに、というより謝罪を口にしてしまいそうになるのを噤んだ代わりに出た言葉といえよう。 そんな姫宮の迷いから出た言葉だとは露知らず、安野はというと涙ぐんでいた。 「ええ、それはもちろんですよ! あの時も言いましたが、私は元々誰かに尽くしたい性でして、ですから姫宮様という存在そのものは私の生きがいなのですよ! やって当然なのです。ですので、これからも末永くよろしくお願いします⋯⋯!」 「ええ、はい⋯⋯こちらこそ⋯⋯」 安野のペースに流されることになってしまったが、そのうち危険だと判断したら今も今すぐにでも止めに行きそうな今井が間に入ってくれるだろうと、誰かを頼ることになる形になってしまうが、だから彼女のペースに合わせてあげようと思う。 それこそ、これから先当たり前になっていくだろうし、何よりそこまで悪くないことだから。

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