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「姫宮様? 唇がどうかなさいましたか? 乾燥して切れました?」
「あ、いえ、なんでもないです⋯⋯」
「そうですか。ですが、気になることがございましたら仰ってくださいね」
「はい⋯⋯」
にこっと笑う安野に小さく返事したのも束の間、「そういえば」と言った。
「御月堂様とは、愛情表現をなさったのですか?」
「え、あ⋯⋯何のことですか」
「私があまりにも間が悪いせいで、お二人の貴重な場を壊してしまったことです⋯⋯」
普段の姫宮だと安野が気を回しているらしい、ぼかした言い方に何にも察しがつかなかったが、安野が関係することといえばあのことだろう。
御月堂から触れてくれた唇の感触を思い出してしまった。
「ひ、姫宮様⋯⋯っ、その反応は⋯⋯!」
「雉も鳴かずば撃たれまい。とはいえ、個人的には気になりましたけど」
「わざわざ言わなくてもと思いますが、色々と察してしまいますね」
「なんてことでしょう⋯⋯!お祝いしなくては⋯⋯!」と意気揚々とする安野を、「気持ちは分かりますが、一旦離れてください」とそばに来ていた今井に連れて行かれ、同じく来ていた江藤に「可愛いですね、姫宮さん」と恋バナを聞いてときめいている乙女のように微笑んでいた。
「⋯⋯じゃなかった。安野さんに言われてまた気持ちよく思いませんでしたよね」
「いえ、そんなことは⋯⋯ただ思い出してしまっただけで⋯⋯」
「そうですよね。こんなにも頬を赤らめている姫宮さん初めて見ましたもの」
「そんなにも赤くなってますか⋯⋯?」
「ええ、はい。それはとっても。まるで熟れたりんごのように真っ赤です」
包み隠さず正直を口にする江藤のおかげで、頬がさらに熱くなったのを感じ、思わず手を覆った。
エレベーターの時、逃してしまった際に額にまさかしてくるとは思わなかった時もそうだが、そういう雰囲気ではない時の愛情表現は効果が凄まじい。
純粋な気持ちでしてくるから、より一層。
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