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108.
「この糸をここに通して⋯⋯」
江藤が指差す場所に棒を使って通す。
「こう、ですか⋯⋯?」
「そうです! いい感じですよ〜!」
自分のことのように喜びを上げる江藤の姿に微笑んだ。
江藤に教えてもらっている編み方は何度もやってきたものだ。しかし、こうやって続けざまにやっていかないと、ふと今どこまで編んでいるのか分からなくなってしまう。
だから夜更かしや日中一人になれる時にしたって、本当は無意味だったのだ。
時間の無駄ともいえよう。
それでも、自分でどうにかしたかった。
「三周目ができましたね。今日はここまでにしましょう」
江藤のその掛け声ではっとした。
いつの間にそこまでできたのかと自身の手元を見ると、確かに半分までだったのが三周目を縫い終わっていた。
自分がこんなにも集中できたのかと驚いていた。
「ほら、焦らずとも編めたでしょう?」
江藤が優しく笑いかける。
姫宮の心情を汲んでそのようなことを言ったのだろうと思うと、小さく頷いた。
「ふふ、姫宮さんは素直ですね」
「そんなことは⋯⋯」
「素直じゃなければ、こうやって編めないと思いますよ」
「それは、江藤さんの教え方が上手いので⋯⋯」
「そう思ってくれていたのですね! 教え甲斐があります」
嬉しそうに笑っていた。
そんな顔を見ていると、それこそ謙遜してしまうのは良くないと思い始めた。
「そんな風に褒めてくださると、調子に乗って続きをしてしまいそうになりますが、今日は寝ましょう」
「はい」
棒を毛糸に差し、サイドチェストに置いた姫宮は、布団に足を入れる。
すると、江藤が縁に腰を掛けた。
そこで姫宮は、あれ? と思った。
いつもならば、「おやすみなさい。いい夢を」と言って、礼をするのに。
まだ何か用があったのだろうか。
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