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「この糸をここに通して⋯⋯」 江藤が指差す場所に棒を使って通す。 「こう、ですか⋯⋯?」 「そうです! いい感じですよ〜!」 自分のことのように喜びを上げる江藤の姿に微笑んだ。 江藤に教えてもらっている編み方は何度もやってきたものだ。しかし、こうやって続けざまにやっていかないと、ふと今どこまで編んでいるのか分からなくなってしまう。 だから夜更かしや日中一人になれる時にしたって、本当は無意味だったのだ。 時間の無駄ともいえよう。 それでも、自分でどうにかしたかった。 「三周目ができましたね。今日はここまでにしましょう」 江藤のその掛け声ではっとした。 いつの間にそこまでできたのかと自身の手元を見ると、確かに半分までだったのが三周目を縫い終わっていた。 自分がこんなにも集中できたのかと驚いていた。 「ほら、焦らずとも編めたでしょう?」 江藤が優しく笑いかける。 姫宮の心情を汲んでそのようなことを言ったのだろうと思うと、小さく頷いた。 「ふふ、姫宮さんは素直ですね」 「そんなことは⋯⋯」 「素直じゃなければ、こうやって編めないと思いますよ」 「それは、江藤さんの教え方が上手いので⋯⋯」 「そう思ってくれていたのですね! 教え甲斐があります」 嬉しそうに笑っていた。 そんな顔を見ていると、それこそ謙遜してしまうのは良くないと思い始めた。 「そんな風に褒めてくださると、調子に乗って続きをしてしまいそうになりますが、今日は寝ましょう」 「はい」 棒を毛糸に差し、サイドチェストに置いた姫宮は、布団に足を入れる。 すると、江藤が縁に腰を掛けた。 そこで姫宮は、あれ? と思った。 いつもならば、「おやすみなさい。いい夢を」と言って、礼をするのに。 まだ何か用があったのだろうか。

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