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112.
「何か言いたいことがあるのかな」
「⋯⋯」
また何の反応もないと思った。
しかし、ややあって頷いてみせた。
「えと、眠れない?」
横に振る。
眠れないわけではない。
「じゃあ⋯⋯ママと話がしたい⋯⋯?」
おずおずといったように訊いてみる。と、すぐに縦に振った。
一瞬、思考が止まった。
寝る前に自分と何が話したいのだろう。
「そう! 大河様はお母様とお話がしたかったのですね! でしたら、私はこれにて失礼します。ごゆっくり〜」
そそくさと出て行く江藤に今日のお礼も告げられずにいると、江藤が出て行く拍子に大河が部屋に入ってきていた。
その時の我が子の顔を見ると、いつもの無表情、かと思いきや、口元が緩んでいるように見えた。
やはり江藤のことを邪魔に思っていたようだ。
前よりも思っていることが分かり、そして少しでも表情が出てきて分かりやすくなったとはいえ、急にやってきた大河が悪いというのに、邪魔扱いしては江藤が可哀想だ。
「⋯⋯大河。先に来ていたのは江藤さんだから、その⋯⋯怒っちゃダメだよ」
一応言わねばと姫宮なりに叱ってみる。
すると、すぐにそっぽを向いた。
言われて面白くないといった態度だろうか。
この様子だと素直に聞いてくれなさそうだ。
自分の方が悪いのだとどう言えば分かってもらえるだろうか。
こうも簡単にこちらの言うところを素直に聞き入れてくれない点は、子育ては難しいというものなのだろう。
そもそも自分が子育てをしている実感が湧かない。
「⋯⋯とりあえず⋯⋯ベッドのところに座ろうか」
いつまでも大河に何言ってもご機嫌ななめになるだけで埒が明かない。
切り替えて、そう言ってみせると、途端に機嫌を直したらしい大河が頷いて、ベッドの方へ行こうとしていた。
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