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113.
そちらへ向かう後ろ姿を追ったのも束の間、ベッドの前に来た大河がその前で立ち止まった。
何がどうしたのだろうと思ったのも一瞬のことで、彼の目線の先にあるものが目に止まった途端、あ、と小さく声を上げた。
江藤が寂しくないようにと大量にもらったハニワの編みぐるみを並べたままだった。
忘れていた。
何故、姫宮の部屋にこんなにもハニワがいるのかと疑問に思っているだけかもしれないが、どこで手に入れたのかと気になった際に口を滑らせてしまいそうだ。
「⋯⋯あのハニワ達が気になるの?」
慎重な調子で尋ねた。
すると勢いよく振り返った大河が思いきり首を縦に振った。
その思ってもない反応に驚いたものの、くすりと笑った。
本当にハニワに対しては目がない。
「大河はハニワが好きだもんね。えと、じゃあ好きなハニワを持っていっていいよ」
大好きな人の元にあれば、どちらにせよ江藤にとっても嬉しいことだろう。
一つ二つ姫宮の元からいなくなっても寂しくない。
しかし、再びハニワの方へ目線を向けた大河がこちらへ顔を向けた時、横に振った。
思わず、えっ、と声が漏れる。
「どうしたの。いいんだよ、持って行って。大河はハニワが大好きでしょう?」
そう言うが、大河は二度首を振る。
何がどうしたのだろう。何か気に入らないことを言ってしまっただろうか。
江藤の悲しむ顔が目に浮かぶと思いながらも、どうしたらいいのだろうと考えていた時だった。
口を僅かに開いては、閉じた。
恐らく何かを発しようとしたのかもしれないが、その口から発せられるのは相変わらずの空気が漏れるような声ともいえない声。
それでも開いては閉じてを繰り返していた。
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